第33話 さらば王女、王都に仕事が残ってる

「……ということで、いつまでも辺境にはいられないのよ!!」


「勇者村な」


「四人しかいないのに何が村よ! すぐにはショートが戻らないなら、わたしは一旦仕事のために帰らなければならないわね……」


「一生戻らんぞ」


「絶対に連れ戻して見せるわ!!」


 気を吐くトラッピア。

 恐ろしい気迫だ。

 これを聞いて、カトリナが鼻息を荒くした。


「連れ戻させない!」


「なんですってー!!」


「なによー!」


「「むきー!!」」


 おお、まだ張り合ってる!

 カトリナが防壁になってくれるおかげで、トラッピアの策略が俺に炸裂しなくてとても助かる。


「次回いらっしゃった時には、きっと堆肥が出来上がっていることでしょう。肥料をいざ使うときにさほど臭くなくなっていることに気付かれて驚かれるはずです」


「もう肥料には関わらないわよ!? なにあんた次も私に肥溜めかき混ぜさせようとしてるのよ、このカエル!」


「惜しい……、このまましばらくいればショートさんくらいの肥料作成技能が身につきそうだったのに。あなた、筋がいいです」


「王女に肥料づくりの筋がいいって褒め方ある!? ええい、私は戻るわよ!! 特戦隊、ついてきなさい!」


「はっ!」


 ということで、トラッピアと特戦隊は去っていった。

 嵐のような連中だった。

 しかし、特戦隊は王女がいる間、ずっとこっちでのんびりして行ったなあ。


 しまいにはブルストと仲良くなって、一緒に開拓の仕事までしていた。

 ギロスが、「田舎は心が安らぎますなあ」としみじみ言っているのが印象的であった。


「なあショート。王都は色々大変なのかねえ」


「ブルスト気になるのか」


「まあな。特戦隊っつったか? あいつら、ショートほどじゃねえが腕っぷしも強いし魔法も使えるだろ。開拓が捗ったんだよ。畑がさらに広がりそうだぞ」


「ほう」


「ほう」


 俺とクロロックが反応した。


「芋以外を育てようと思ってたんだ。村の方でさ、果物の樹を分けてくれるって言うから、果物畑をな……」


「素敵! 果物が食べられるの!?」


 飛び上がるカトリナ。

 嬉しそうだ。

 そうだなあ。この世界には甘味が少ないもんなあ。

 特にこういう田舎は、甘いものが一切存在しないと言っていい。


「おう。丘ヤシ」


「丘ヤシ大好き! お願いショート! 丘ヤシ植えてー!」


 カトリナにぎゅっと手を握られては断れまい。

 いや、断る気なんか全く無いんだけどな。


 丘ヤシというのは、その名の通り。

 ヤシの木みたいな外見なんだが、陸に生息するやつ。

 中身はヤシと違って、ジュースじゃないんだよな。むっちりした甘い果肉が詰まってる。


 まあ、甘いって言ってもこっちの世界基準だ。

 ドラゴンフルーツくらいの甘み……つまり、糖度の低いスイカみたいなもんだ。


 だが、それでもカトリナのテンションが爆上がりするフルーツであることに違いはない。


 今のところ、我が家は主食の芋すらまだ完成していないし、肉は芋目当てで襲ってくる獣を狩ってるし、他の食材も全部採集している状態である。

 スローライフどころか、狩猟採集生活なのでかなり原始人みが強い。


 早く文明人になりたーい。

 卵もまだだしな。

 卵どころか、トリマルたちはまだヒヨコだぞ。


「よし、そうと決まれば作業だ作業。少なくとも芋くらいは収穫できるようにしておきたい……。それすらできないで、どうして麦や米を育てるなどと言えようか」


「ショートさん、肥料、肥料」


「おお、そっちもあった」


「この地方は大変発酵に適した環境です。今もなお、驚くべき速度で発酵が進んでおります。これを芋畑に使えばすぐですよ」


「なんだって」


 ということで、スローライフな日々に戻る俺たちなのだった。

 




 そして、ついにその日がやって来た。


 芋の収穫の日である。

 まあ、何のことはない。

 王女が帰ってから一週間くらいしたら、芋が成った。


「よし、引っこ抜くぞ」


「ドキドキするねえ」


 カトリナが固唾を呑んで見守っている。

 ブルストも腕組みをして、満足げだ。自分が成し得なかった、芋栽培という事業を俺が成功させたからだろう。

 そしてクロロックは、喉をクロクロ鳴らしている。あれは彼もちょっと興奮している証拠なのだ。


「せーのっ!」


 レベル上限を突破している俺なら、小指の先や魔力を飛ばすだけで芋くらいなら抜ける。

 だが、これは大切な儀式なのだ。

 俺たち勇者村が、初めての作物を手にするこの瞬間!


「おらあ!」


 ズボッと引っこ抜く!

 それは、見事に成った芋だった。


「悪くない、悪くないぞ」


「やったー! 夕食はショートが作ったお芋だね!」


「ついに……野生の芋以外の芋が食卓に並ぶのかあ……」


 感慨深い、俺たち三人。

 クロロックは芋をしげしげと見つめ、穴を見つめ、土を掬ってパクっと食べた。


「ふむ! この土質でそれだけの芋が育ったということは、こちらの肥料を次から使うことで、収穫量が倍増することでしょう」


「なんだと!? 収穫量が!?」


 今でさえ、切り分けられた種芋から何個かの芋が採取できたというのに、これがこれ以上に増えるというのか。


「増えますよ。ですから肥料を作りましょう。どんどん肥料を作りましょう」


 クロロック、肥料に対して熱い情熱を燃やすカエルである。


「よし、じゃあ早速肥料を撒いて芋を植えて増やすぞ! 芋畑も拡張するから、もっと芋の種類を増やしてもいいな! それから、別の作物にもチャレンジしたい。ああ、果物の木も植えないとな!」


 初めての成果を得た後、どんどんやりたいことが浮かんでくるぞ。

 俺たちは確実に前進している……!!


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