第22話 オスメス鑑定と新たなる芋

 トリマルを頭に載せて、丁字路の村にやってきた。


「やあ勇者様!」


「これはどうも勇者様」


「我々清く正しく生きていますよ勇者様」


「今日は機嫌悪くないですよね勇者様」


 諸君、俺を見てビクビクするのはやめるんだ。

 村人はすっかり改心しており、亜人がやって来てもイジワルをすることがなくなったそうだ。

 村の子どもは親に、「悪いことをすると勇者様がやってくるよ!」と教えられて育つようになってるらしいな。


 おい!

 いや、しかも効果てきめんというのが腹が立つな。


 しかし……俺の心は広い。


「芋がいい感じで育ってきたんで、ちょっと作物を増やしたいんだが。あとは追加の卵を」


「はいはい」


 取引所で、俺が持ってきた猪の毛皮と作物の苗を交換する。


「これは?」


「別の種類の芋ですよ」


 また芋である。

 だが、話を聞くとサツマイモの系統らしい。

 なるほど、荒れ地でも育ちそうだ。


「ではもらっていく。あとは、うちのトリマルがオスかメスか分かるか?」


「ええ……? ちょ、ちょっと待っておくれよ」


 取引所のおばちゃんが困った顔をした。

 しばらくしてから、神経質そうなおっさんが走ってくる。


「この人がヒヨコ鑑定魔法の専門家だよ」


「私に任せなさい」


「そんな魔法があるのか。ニッチ過ぎるかと思ったが、よく考えたら卵を産むメスかそうでないオスかは重要だもんな」


 おっさんは、目を閉じてふぬぬぬ……と唸ってからカッと目を見開いた。


「オス!」


「なんだって!? トリマル、お前、男の子だったのか」


「ピョ」


 例えオスであろうと、我が子(っぽい鳥)であることに違いはない。

 俺の愛情は変わらないが、メスがいないと困るな。


「じゃあ、メスのヒヨコを何匹か分けてあげますよ勇者様」


「本当か!! 恩に着る……!!」


 ということで、俺はトリマルのお嫁さんを三羽と、芋の苗をもらってきた。


 育てているジャガイモっぽい芋は、順調に生育してきている。

 もう少ししたら収穫できるんじゃないか。


 そことは違うところの畑に、サツマイモっぽい芋を植えた。


「ショート、今度は何をもらってきたの?」


「こんなで、こんなふうで、こんな感じの芋の苗だ」


 すると、カトリナが目を丸くした。


「す、すごい! それってガガガイモじゃない! とっても美味しいお芋なのよ!」


「なんだって!?」


 カトリナ曰く、俺が育ててる芋は野生の芋なので、色々処理しないと食えないのだそうだ。

 それに食味もそこまで優れていない。

 一番いいところは、お金をかけずに手に入れられること。


 それに対してガガガイモは、れっきとした作物。

 荒れ地でも育ち、芋は甘い。


「ああ……まさかガガガイモがまた食べられるようになるなんて。夢みたい……」


 うっとりと呟くカトリナなのだった。

 そして彼女はここで、俺の頭の上にいるトリマルが三羽増えていることに気付く。


「あれ? ショート、その頭の上にいるのは……」


「ああ、トリマルがオスだったと分かったからな。お嫁さんを三羽もらってきた。ハーレムだぞ」


「はーれむ?」


 カトリナが首を傾げた。

 おっと、純情なカトリナには分からなかったな。


 俺はカトリナ一筋だが、世の中は色々ある。

 男一人に女たくさんのハーレムとか、女一人に男たくさんの逆ハーレムとかがある。


 だが、そんな知識を純情なカトリナに教える必要はあるまい。


「これで卵をいっぱい産んで貰えるだろう。それにトリマルがいれば、ホロロッホー鳥が増えるぞ」


「それは素敵ね!」


 ヒヨコも大所帯になってきたことだし、そろそろブルストが作ってくれた鳥舎を活用する時である。


 ブルストにその話をすると、彼は満面の笑みになった。


「そうか、ついに俺の自信作を使う時が来たか!! これはな、家側は網を張ってあって陽の光が入るようになっていてな。だが獣の類が破れないよう、こことここを分厚く……」


 専門家の説明が始まってしまった。


 鳥舎の中に藁を敷き、水や餌を設置してからヒヨコを話すと、ぴよぴよいいながら走り始めた。


「そら、トリマル」


「ピョ」


「お前の家だぞ」


「ピョピョ」


 俺を振り返るトリマル。

 

「うっ、つぶらな瞳で俺を見ないでくれ! 別れが辛くなる……!」


「鳥舎のすぐ前がショートの部屋じゃない」


 カトリナに突っ込まれて冷静になった。

 そうか、窓から顔を出せばいつでもトリマルに会えるな。

 いかんいかん、トリマルに感情移入しすぎていたようだ。


 これでは農業と畜産をやっていこうという人間としてどうなのか。

 いや、だが我が手で卵から孵したヒヨコはやはり特別……。


「ピョー」


「よし、トリマル。二日に一回は俺と一緒に寝ような」


「ピョ!」


「過保護なお母さんねえ」


 カトリナが苦笑した。


「この子たちを鳥舎に入れたら、ガガガイモを植えるんでしょう? 手伝うよ、ショート」


「いいのか? オーガは作物作ったりが苦手じゃなかったっけ」


「いつまでも苦手だとか言ってられないもん。ショートだって、畑を作ったり卵を孵したり、初めてのことばかりだったんでしょ? 私だって、たくさん初めてのことに挑戦していかなきゃ!」


 ガッツポーズをするカトリナが大変可愛い。

 結婚したい。


 彼女は人間に近い見た目のオーガ族なんだが、短い角が二本、額から生えている。

 これが、彼女の気持ちが高ぶるとピンク色になるんだな。


 ということで、角をピンクに染めたカトリナは大変やる気なのだ。


「よーし、それじゃあ二人で芋を植えよう! これはジャガイモと違うから、俺も知識チートができない……」


「ちしきちーと?」


「なんでもないぞ」


 新たな畑を用意せねば。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る