第20話 造成せよ、鳥の遊び場

 俺が行くところ、どこまでもトリマルが付いてくる。


「ピョピョピョピョピョ」


 トコトコ付いてくるが、小さくて大変危なっかしいので、俺はハラハラする。


「トリマル、お母さんはゆっくり歩くから落ち着いて付いてきなさい……」


「ピョピョピョー」


「うわーっ、走らなくてよろしいーっ」


 トテテテテテテッと走ってきたので、俺は慌ててトリマルをキャッチした。


「はぁー、危ないところだった……。トリマル、転んでしまったらどうするのだ。俺はヒヨコを癒せるほど回復魔法をミニマムに使える自信は無いぞ。デッドエンドインフェルノだったら蚊をギリギリ焼き殺すくらいまで微細にコントロールできるがな」


「ピョ」


「トリマルにはわからないかー。お母さん難しいこと言っちゃったなあ」


 ハハハ、とヒヨコに笑いかけていると、ブルストが俺を呼ぶ。


「おーいショート! ヒヨコと遊ぶのもいいが、仕事もきっちりやらんとな。俺とお前と二人がかりじゃないと、開拓はなかなか進まないぞ」


「おっ! 悪い悪い」


 俺はトリマルをそっと頭の上に載せた。

 そして、芋くずをヒヨコが食べられる大きさにしたものを与えておく。


 反重力魔法(名は思いつかなかったのでつけてない)の応用で、頭上にトリマルが遊び回れるフィールドを確保してあるのだ。

 だが、こいつも大地のぬくもりの上で、地面の上を這っている虫なんかを食べさせて元気に育てたい。


 開拓して次に作るべきは、鳥の遊び場だな。


 ホロロッホー鳥は飛べない鳥だ。

 その代わり、足がとても発達している。

 地面を踏みしめてどこまでも走れるのだ。


 彼らが安心して遊べる場所を作ることは急務。


「よし、やるぞ……!!」


「やる気だなショート! 何をやるんだ?」


「芋畑をちょっとまるごと向こうに移す」


「ほう……。大仕事だな。そりゃまた、どうしてだ?」


「これから、ホロロッホー鳥を増やすだろ? だけど、こいつらは家から離れたところで飼ってたら野生動物に食われてしまう。可愛いトリマルを食わせてなるものか。だから、目が届く範囲にホロロッホー鳥が暮らせる場所を作るんだ」


「なるほどなあ。よし、じゃあ鳥舎は俺が作ってやる!」


「元建築家のブルスト謹製の鳥舎か!!」


 俺は期待に鼻息を荒くした。

 鳥舎というのは、ホロロッホー鳥が夜間に収まっている大きな箱のことだな。

 こいつに入れておけば、夜の間は野生動物は手出しできなくなる。


「頼むぞブルスト。一つ、凄い鳥舎を作ってくれ……!」


「よし、任せとけ! ……で、畑の方はお前一人で大丈夫か?」


「ああ、問題ない。一番いい構成で仕上げてやる」


 俺は一人、芋畑の前に立つ。

 埋めた芋はすっかり大きくなってきており、まだ可食部は少なくとも、元気に生えた茎を見ると心が豊かになってくる。


 大きくなれよ。

 そして俺たちの食卓を安定させてくれ、芋よ。


「それはそれとして。芋を掘り返すこと無く畑を移動させるなら、この辺りの地面を一気にえぐって向こうに移動させるか? いや、念動魔法だと芋ごと握りつぶしたり発火させたりしそうだな」


 俺は考え込んだ。

 あっちとこっちを入れ替える……。

 ふーむ。


 これは、力仕事で行ったほうがいいのか? それとも魔法か。

 俺は微細な魔法のコントロールが苦手なのだ。

 全部我流だから、今回の卵を温めるみたいな状況の時、完全オリジナル魔法を開発せねばならなくなる。


 畑を移設する専門の魔法など、他に何の役に立つというのか。

 いや、相場確認のための魔法も開発したから今更だな。


「作っちゃうか、畑移設魔法!」


 俺はその場にどっかりと座り込んだ。


「ええと、念動魔法と、反重力魔法を組み合わせて……それに土を掘り起こしてあっちことこっちを入れ替えるから、地震魔法ユラユラであっちの地面を念動魔法で操りやすくしてっと……。よし!」


 一時間ほど魔法を練り練りして、ついに完成した。


「行くぞ、畑移設魔法イレカエール!! 破あーっ!!」


 俺が裂帛の気合を込めて叫ぶと、向こう側の地面がグラグラ揺れ始めた。

 そして、俺が意図した範囲だけごっそりとえぐり取られる。

 同時に、芋畑もまるごとえぐり取られた。


 今のところ、魔法の条件付として、作物が植えられていれば立方体にえぐり取り、何もなければ球形にえぐるようになっている。

 あとは畑をあっちに植え替える時に、畑を包み込む念動フィールドで土を押しのけてしっかりと埋め込めば……。


「よしっ!! 入れ替え完了だ! ふいーっ!!」


 芋畑が、一区画ぶん家から離れていた。

 開拓が終わったばかりの区画と芋畑を入れ替えたのである。


 いやあ、凄まじい集中力が必要な仕事だった。

 魔物を退治してる方がよっぽど楽だな!

 スローライフってのは本当にきついぜ。


「ピョー」


 どうやら俺の頭の上で、トリマルはお昼寝していたようだ。

 目覚めたらしく、ピョピョっと鳴き出した。


「よーしトリマル。ここがお前の遊び場だぞー」


「ピョ!」


 そっと地面に下ろすと、ヒヨコは恐る恐る、爪の先で土をつんつんした。

 そして、一歩一歩確認するように、遊び場の上を歩き始める。


「ピョー!」


 トテトテと走り始めた。

 うむ、さすがは大地を駆けるホロロッホー鳥のヒヨコ。

 走ることが遺伝子に刻み込まれているな。


「おーいショート。すげえ音がしたけど一体何が……うわーっ!! 畑が遠くに移動してやがる!!」


 ブルストがたまげて飛び上がった。

 俺は彼に親指を立てて見せながら、地面に寝転がった。


 ひとまずの休息だ。

 もうこれ以上、開拓専用の魔法を開発させないでくれよ……!!

 そう願う俺の顔の上を、トリマルが元気よく踏み越えていくのだった。

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