第206話 ジャンルの違うイケメン対決


「おい、あんまり暴れるなよ。イキのいい魚みたいになってるぞ」


「せめて、もう少し可愛い表現にしてよっ!!あっ……!」


抗議をしようとした所で私の腕に付いたスキルの腕輪が眩い光を放つ。

勢いよく回る光の粒子は、まるで腕輪がやる気を出しているみたいだ。

これって、ロレンスさんのエネルギーに対する繋がりが出来たってことなんだろうか。

よし!これなら!


「いらっしゃいませ、こちらのレジへどうぞ!」


ポフンッと軽快な音を出しながら出現するレジ。

さっきのキスで何か変わった所がないか確認するため、私はさっそくハンドスキャナーをウィルに向ける。

ピッとスキャン完了の音がして、ディスプレイにウィルの情報が表示されたかと、思いきや。


「えっ、えええ???」


ディスプレイに表示される無数の名前名前名前ーーー!!

ウィルだけじゃない。これってもしかして知らない人の情報まで表示されちゃってる?


「ほう!このように表示されるのか。なかなか面白いではないか!して、こんなにもゴチャゴチャと見づらいものなのか?」


「いえ、いつもはスキャンした人だけしか表示されないんですけど。壊れちゃったとか?」


「……もしかして、他の奴等もスキャンしたんじゃないのか?」


「え?」


ウィルの言葉に私は思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

スキャンした?ここに表示されている人全部?

でも私はウィルにしかハンドスキャナーを向けていないんだけど。


「もしかして、ロレンスさんの影響で範囲が凄く広がってる!?」


信じられないかもしれないけど、ウィルに向けたハンドスキャナーがウィルの居た方向の範囲内にいる対象者全部を読み込んだってことだ。

そんなバカなっ。


この様子だと多分1キロぐらいは範囲がありそうなんですけど!?

驚きに震える私とは裏腹にロレンスさんが何処か自慢げに笑う。


「我が妻よ、例のスキルを使ってみよ」


「そ、そうですね!えっとえっと……ウィルの情報は」


情報で埋め尽くされたディスプレイから、どうやってウィルを探しだそうかと悩んだ瞬間、私の思考と連動するかのように、ウィルの情報が選択され表示される。


興味深そうに傍で見ていたロレンスさんがウィルの情報を見て、軽く小首を傾げた。

あ、やば。ウィルが私のせいでレベルが半額になったのがばれちゃう。


「貴様、余の情報ではレベル80の冒険者であろう。なぜレベルが40になっておる」


「あの、これは……」


慌ててフォローに入ろうとした所で、ウィルが割って入ってきた。


「面倒な呪いにかかってるんだよ」


「呪いだと?」


「あぁ。コイツの傍に居ないと治らない呪い。そうだよな」


「えっ、あ!うん……!」


いつもなら半額のことを話題に出すだけでイライラしてたし、誰かに知られようものなら烈火の如く怒っていたのに、むしろウィル機嫌が良い?

私がうんって肯定したことで更に機嫌が良くなったような。


「バレたらシーナが一番面倒な事になるんでな。他言無用で頼むぜ、ロレンス」


「ふむ。色々と見えてきた気がするがまぁよい。妻の為ならば目を瞑ろう」


「それよりほら、さっさと俺を強くしてくれ」


「はい!」


レベルやステータス、持っている技のリスト。

いろいろあるけれど、私が個数変更するのは、これ。

何だか、今なら複数アップさせることも出来そうな気がする!


「攻撃力と速度を×3にします!」


ウィルの身体を光の粒子が包み込む。

私からすれば変化らしい変化を目視することは出来ないけれど、ウィルは確かに感じたみたい。

掌を何度か握ったり開いたりを繰り返して、体に馴染ませていく。

そして、ふっと何処か交戦的な笑みを浮かべた。


「……こりゃいい。元のレベルに戻ったみたいだ」


そうだよねぇ。

ウィルってば私のせいで弱くなっちゃったんだから、元の強さを感じたら嬉しいよね。

うう、ごめんねごめんね。時間限定でしか戻せなくて……!


「どれぐらい持ちそう?直ぐに切れたりしそう?」


「いや、身体にシーナのエネルギーが満ちてるから1時間は持ちそうだ……ありがとな」


戦う事を待ち望んで不敵にギラ付いていた笑みが、唐突に優しいものへと変わる。

久しぶりに見た輝かんばかりの王子様スマイルに私は思わず顔を赤らめてしまった。


「ありがとう、なんて……元はと言えば私が原因だし。今回のスキルだって一時的でしかないから」


「それでもいい。お前がずっと俺の傍に居る気がする」


「……っ」


そんな風に言うのは反則だ。

音もなく伸びてきたウィルの手が私の赤く染まった耳を撫でる。

くすぐったくて肩を竦めると、息を吐くように笑われた。


「ウィンチェスター。貴様が強くなったと勘違いしているエネルギーは、余が元だと言う事を忘れるでないぞ」


「うっせぇ。邪魔すんな」


私に向けていた笑顔とは真逆の表情。

眉を潜めてチッと舌打ちするする様はチンピラそのものだけど、顔が良いから許される。

ロレンスさんも、妖艶な容姿を不愉快そうに歪めているから、何だかジャンルの違うイケメン対決みたいだ。


「もー!喧嘩しないで!」


少し怖いけど、とりあえず仲裁にはいります。

仲裁出来ているかはちょっと分からないですけどね!!

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