第9話 香奈のヤキメシ リア充とミツオカビュート

スカーレットと同じく転生ほやほやのたまおちゃんの愛車は、ミツオカ自動車のビュート・ペールピンクです。

魔法使いの世界で、縦横無尽に水車クルクル偵察隊長として活躍していた彼女にとって、飛べなくなった世界での唯一の移動手段がピュートでした。

車は羽根の代わりと言っても過言ではありません。

丸くてくりくりお目目のヘッドランプはたまおちゃんそのもので、運転席の小さめのハンドルにはシマエナガのキーホルダーがぶら下がっていました。

助手席のスカーレットはそれを見ながら言いました。


「タマオちゃん、小鳥が好きなの?」


「はい。大好きです・・・って、どうしたんですかいきなり?」


「え?いや何でもないわ。ちょっと混乱して・・・」


「混乱?」


心地よいエンジン音が車内に響いています。

高速道路を走る車からの景色は清流みたいに流れています。

スカーレットはしばらく考えました。

前世界での記憶が残ったままの自分と、記憶が完全に塗り替えられたたまおちゃんとの関係性が非常にややこしかったのです。

脳内の電気信号も、たまおちゃんに関しては何も与えてはくれないので、ここは会話を合わせながら情報を精査することに決めたのでした。

時折チラチラと視線を向けるたまおちゃんに、スカーレットはわざとらしく言いました。


「混乱しちゃったの。そう・・・混乱。なんだか頭がぼぉーっとしちゃって。きっと熱中症のせいだわ。それにいい加減このジャージも暑いわ。早く着替えたいしシャワーも浴びたい」


「ですよねぇ~。それよりせんぱいわぁ・・・どうしてあんなお洋服だったんですかぁ?着ていたんですよねえ?」


にこにこ笑うたまおちゃんを見てスカーレットは気が付きました。

BBQパーティーで着ていたドレスはこの世界では異質だったのです。

というよりも、真夏の平日の埼京線では飛び抜けて異様だったのです。


「あははは・・・」


スカーレットは笑うしかありませんでした。


「パーティーでもあったんですか?んでぇ。飲みすぎちゃったとか?」


「ま、まさかそんな!」


「ハロウィンはまだまだ先ですよお。えへへへへへ」


🎃+日本=仮装パーティー&DJポリスIN渋谷


会話の度に送られてくる数式で、この世界での抜け落ちた情報をスカーレットはインプリンティングしていました。


「それよりも聞いて下さいよせんぱい!たまおはつらたんなんですぅ・・・」


「え?」


「はい・・・藤白社長の取材はイヤですう・・・なんか叱られちゃうんですもん。はあ・・・」


「藤白社長?」


「またまた忘れちゃったんですかあ?忘れたふりはだめですよぉ・・・この企画持ってきたのはせんぱいじゃないですか」


「あ・・・そうだった・・・わ」


「やだなあやだなあ。明日やだなあ」


「明日が取材なの?」


「はい・・・」


「私も行こうかしら?」


「本当ですか?」


「う、うん。でタマオちゃん?」


「はい?」


「今は何処に向かっているの?」


「家ですよぉ。せんぱいは今日は安静にしていてくださいね。ゴックちゃんがちゃんとみんなに報告してくれましたから。そしてこれは紅林社長からの命令でもありますっ!」


そう言って、たまおちゃんはビシッと敬礼をしたのでした。




川越駅から徒歩15分。

お菓子横丁を過ぎた新河岸川の一画にスカーレットのおうちはありました。

古民家を改装した駐車場完備のシェアハウスは、川越在住の有名建築デザイナーがリフォームを手掛けて、1階の共有部分のリビングダイニングは木目調をあしらったシックなデザイン。

玄関に施された間接照明は空間にゆとりを与え、ヒノキのつけ柱を幻想的に照らしています。一歩中に足を踏み入れたなら、そこは木のぬくもりにあふれた憧れの老舗旅館のおもむき。

靴脱ぎ石に利用された石材は、以前中庭に無造作に置かれていた玄武岩で、デザイナーのセンスがきらりと光るアイテムへと変貌を遂げました。

しっかりとリフォームの行き届いた清潔なキッチンや洗面台などの水回り施設。

2階部分の開放的な個室は明るくて、全室3部屋にはクローゼットと細やかなルーフバルコニー付き。勿論、部屋ごとに床や壁の色はカスタマイズフリーのハイセンスサービス。

女性限定のシェアハウスという事もあって、豊富な収納と日常生活を重視した快適設計はデザイナーが匠と呼ばれる所以でもあります。

デジタル式オートロックシステムにより警部会社と24時間の監視体制もとられているのです。

安心・安全・快適をモットーに、匠が誠心誠意心を込めた作品に足を踏み入れたスカーレットは、第一声をこんな風に発したのでした。


「まあ!なんてことでしょう!」


古民家やリフォームの話などスカーレットが知る由もありません。

しかし、匠のお洒落なシェアハウスは、がっちりと異世界から転生してきたプリンセスの心を鷲掴みにしたのでした。

隣にいたたまおちゃんが言いました。


「どうかしたんですかせんぱい?」


「え、いや、その、Perfect!タマオちゃん」


「・・・へんなの・・・私は仕事に戻りますね。今日の帰りは遅くなりますから、喜島さんにも伝えといてくださいね」


「え、え?喜島さん?」


「そうですよ。喜島志緒さん。大丈夫ですかせんぱい」


「きじましお」


「それと、ちゃんとお着替えしてくださいね赤ジャージ。早めに返しに行かなきゃ、あの院長ネチネチさんなんですもん」


「あ」


「ばいばいです~」


そう言って、たまおちゃんはミツオカビュートに乗って去って行きました。

この世界のタマオちゃんの名前は椿たまおです。

インプリンティング・フォレストで正常に記憶が刷り込まれたタマオちゃんは、人間として22年間の歳月を過ごし、引っ込み思案な幼少期からドキドキハラハラの思春期を脳内体験して、東京都北区赤羽に本社を構えるタウン雑誌出版会社・モーレツ赤羽の記者として働いています。

生まれ育ちは東京都葛飾区立石です。

塩ラーメン専門店・らーめんのりのりを営む両親のもとで、短大を卒業するまで大切に育てられました。

そんなたまおちゃんは、月に一度は実家に戻ってお店のお手伝いをしていました。

完全な親離れはまだ先のようです。

お父さんは老舗ラーメン店・らーめん超のりのりで修行した苦労人で、お母さんはそこのアルバイトでした。

念願だったのれん分けをしてもらった年、玉の様なかわいい赤ちゃんが出来ました。


それがたまおちゃんです。


22年間の人生が単なる刷り込まれた記録だとしても、今を生きている彼女にとっては本物なのです。

心の痛みや胸いっぱいの想い出と共に生きるたまおちゃんは、ミツオカ自動車の大ファンでもありました。

当初はオロチを購入しようかと悩んでいたたまおちゃんでしたが、その高額なお値段に腰を抜かしてビュートに心移りしたのです。

分割払いの条件付きで。

そんな趣味や趣向もインプリンティング・フォレストで培われた記憶ですがー。


「買って良かったあ!」


と、たまおちゃんは思っていました。

一年に一度の失恋時、海岸線をビュートで走る解放感はとっても素敵なうさばらしとなったからです。

それくらい、恋多き乙女に転生した根底には。


「あたしもスカーレットみたいになりたいなあ」


と、シマエナガ時代にタマオちゃんが思い描いていた願望が影響していたのでした。


ワインレットに統一したビュートの車内。

魔法使いの世界から受け継がれた奇麗好きのお陰もあって、ステアリングはぴっかぴっかの状態に保たれたままです。

レトロなウッド調のメーターパネルの隅っこも、ちょっと窮屈な足元や古めかしいドリンクホルダーも、たまおちゃんにとっては宝物の景色となりました。


中山道をひた走るビュートは、白幡沼高等学校を目指しています。

お蕎麦屋さんを過ぎて銭湯の煙突が見え始めると、たまおちゃんはドキドキし始めました。

恋焦がれる新任教師、小鳥遊千隼先生との再会が近付いているからです。


「時刻は間もなく4時をむかえます!」


79、5のカーラジオの声は、たまおちゃんの胸にきゅんきゅんと突き刺さっていたのでした。


緩やかな登り坂の住宅地は、下校中の高校生達で賑わっています。

キャッキャと笑う女子高生や歩きスマホの男子高生、そんな彼らの熱い視線を受けながら、ミツオカビュートは白幡沼高等学校裏門から来校者専用駐車場へと滑り込んでいきました。

好奇心旺盛な男の子達がビュートを遠巻きに眺めています。

たまおちゃんはエンジンをかけたまま車を停めて、コンパクトミラーに映る自分に言い聞かせました。


ツンと尖った唇。

ジャケット全開の胸もとに揺れるネックレスと、シマエナガみたいな真っ白な肌。

昨日も今日も、そして明日も。


「イカしてる」


微笑む度に出来るエクボが可愛いと、前の彼氏が言っていたのをたまおちゃんは思い出して、ちょっぴり悲しくなってしまいました。

しかし、ある重大な事象には気がつきませんでした。

理想の乙女に転生したものの、ひょんな理由で ー詳細は不明ー 流行り言葉が混在したまま刷り込まれていたのです。


イカす。

ナウい。

つらたん。

がちょーん。

しくしく。

ツンデレ。

お呼びでない。

パリピ。

アゲアゲ。

ケツカッチン。

どろん。

当たり前だのクラッカー。

ほんとにホントにホイットニーヒューストン。


云々と、たまおちゃんの頭の中はチョべりグーな言葉がたくさん詰め込まれていたのです。

そんな知らぬが仏のたまおちゃんは、ドアに手をかけて颯爽とビュートから降り立ち、ナウいヤング達の注目を浴びました。

真夏の夕暮れと湿った風がたまおちゃんを包んでいます。

小鳥遊先生の待つ体育館へ歩き出すたまおちゃんは、告白の決意を胸に秘めていたのでした。

これこそ。


胸キュン。




その頃スカーレットは、シェアハウス2階の自室と廊下を行ったり来たりしていました。

みかん色の壁紙と白い扉の先にはトイレがあります。

花柄のちいさなお部屋のウォッシュレット便座に腰かけると、スカーレットの脳内には一瞬にして物体の記憶が記録化されていきました。


ーモノに触れるー


何の変哲もないその行為は、転生世界ではとても大切な儀式です。

未完成な人生に、創られた過去がフラッシュバックするからです。

パズルの穴埋めみたいな作業を繰り返すことで、人間スカーレットは完成していく筈でした。

ドアノブの冷たい感触は、初恋の男の子にからかわれた小学生時代の苦い思い出。しばらく握っていると温かくなるのは、数年後にその子に告白された記憶の温もりとおんなじです。

壁紙の匂いは、昔通った馴染みの花屋さんの匂いとそっくりでした。

素敵な若夫婦と飼い猫のジェリーの顔が直ぐに頭に浮かびました。

くたびれた端の部分は、この世界のお父さんの脱ぎっ放しの靴下。

日に照らされて色あせた部分は、この世界の母さんの手のシワです。

触れるたびにパズルが出来上がっていく喜びに、スカーレットの足取りは軽くなって、ついにはミュージカル女優のように踊り始めていました。


「私は孤独なんかじゃない~♪ 私の心に悪戯っぽく笑う天使が舞い降りるのよぉ~♪ 子猫のジェリー、そのビー玉のお目目を分けて下さらない~♪ 美しい眼で私はこの世界を見るの。そして感じて私は舞うのよ~」


くるくる回りながら歌まで唄ってしまったスカーレットは、そのままのテンションで自室に入りました。


「けれども何故なのぉ~♪ この違和感とまやかしの雰囲気はぁ~♪ イ草の香りと香炉からのぼる桜の世界に今私は~♪」


スカーレットの足先が畳のへりを渡ります。

大きな窓を開けると、夏の夕陽と川越の風がどっと押し寄せて、掛け軸の「以心伝心」の文字を揺らしました。

広い和室に置かれたお姫様ベットのひらひらカーテン。

そして化粧台傍のブラウン管テレビ。

カウチソファにふんぞり返る巨大なうさぎのぬいぐるみ。

スカーレットはその大きく垂れ下がった耳を悩まし気に撫でました。


「ここが私のお城なのぉ~♪ センスのないお部屋はきっと私のデザイン。けれど触れても触れてもひらめかない私はワイルドキャット。ルルルルルぅ~。姿かたちもスカーレット・インブルーリア♪ これじゃあ転生じゃなくて~♪」


唄って踊って転生して、おまけに熱中症で疲れ切ったスカーレットはベットに倒れ込んで叫びました。


「転居じゃないのっ!!」


そうしてくぅくぅと眠ってしまいました。




またまた同じ頃です。

白幡沼高等学校体育館の赤い屋根は、浅黄色や紅色の夕日のグラデーションを浴びて、竜胆色の怪しい光を周囲に放っていたのでした。

巨大なお陽さまは山陰に逃げようとほくそ笑んで、にんまり顔のお月さまは闇を照らし始める準備をしています。

木陰のカラスの群れは、示し合わせたかのように一斉に飛び立って、遠くの別所沼へと去って行きました。

つむじ風が真昼の喧騒を掻き消していく中。


「ボエエ・・・ボエエ・・・」


と、白幡沼からウシガエルの大合唱が聞こえ始めました。

たまおちゃんは髪をかき上げて、つるつるのうなじとふわふわの猫っ毛を小鳥遊先生にアピールしました。

小高い丘の上の校舎と体育館の下、白幡沼に面したグラウンドからの照明がたまおちゃんを照らしています。


「スポットライトを浴びる大女優VS未熟なJK・恋の駆け引きに涙を流すウシガエル・逃亡寸前のサギのつがいと新任教師の若き過ち・鉄道トリック・時刻表に隠された暗号ミステリー・遠くの別所沼より近くの白幡沼!女優たまおの美しき罠」


過去に観たサスペンスドラマのタイトルと音楽を頭の中に思い浮かべながら、たまおちゃんは勝利を確信していました。

細身で清潔感漂う小鳥遊先生にくっつくJKは。


「香奈です」


と、だけ言って敵意の目をたまおちゃんに向け続けています。

つやつやの黒髪を黄色いリボンで結わえた香奈は、眼鏡からコンタクトレンズへ切り替えたばかりでした。

小鳥遊先生の気を引くための、先端恐怖症を乗り越えての決意です。

そんなことは知らない小鳥遊先生は、部活動のあれやこれやを丁寧に説明しては、真っ白できれいな歯を光らせているだけでした。

一方のたまおちゃんは、小鳥遊先生の二の腕に手を絡ませる香奈に嫉妬しましたが、ふんと笑って大人の余裕を見せつけました。


「香奈ちゃん可愛いから、小鳥遊先生困っちゃってるよぉ」


「え?なになに?」


と、香奈は戸惑いました。

予期せぬ先制攻撃を、上手に回避出来ない幼稚な自分が悲しくもなりました。


「ね。小鳥遊先生」


たまおちゃんは小鳥遊先生に目配せしています。

第二次攻撃です。


「え・・・ああ。そうだね。いや、そうですね。学校だから・・・ね」


小鳥遊先生は優しく諭すように香奈に言いました。


「おふたりはあ・・・?」


と、たまおちゃんは最終兵器を投下しました。

一方的に好意を寄せている香奈に、小鳥遊先生は困っているように見えたのです。

利用する価値はありました。


「え、いや、教師と生徒ですよ。正しくは文化部顧問と文化部部長です。さ、グラウンドに行きましょうか」


「あ、ですよねえ。ごめんなさい、取材とは全く関係ないこと聞いちゃって」


「いえいえ。あ、写真は花火大会の模擬練習だけで良いんですか?」


「はい。あ、出来たら後で顧問の先生の単独インタビューもお願いしたいんですけど・・・お時間ありますぅ?」


小鳥遊先生と並んで歩くたまおちゃんは、少しずつその間隔を狭めていました。この先のグラウンドへ続く階段で、あわよくば筋肉質な先生の腕に触れたかったのです。

香奈は内心面白くありませんでした。

大人を武器に使うたまおちゃんと、そんな彼女と親しげに話している小鳥遊先生にも怒っていました。


「お時間なかったら。また日を改めても・・・あ、ライン交換しちゃいますかぁ?」


「あ、いや・・・それは後で・・・」


「大丈夫ですよぉ、あくまでお仕事関係ですから。チョメチョメな間柄に疑われら私に言って下さい。えへへへ」


たまおちゃんの笑い声を聞いた香奈も笑ってしまいました。

振り返って小鳥遊先生が言いました。


「ん? どうした?」


突然の出来事にたまおちゃんも立ち止まって振り返りました。

けらけら笑う香奈は顔を赤らめながら答えます。


「だって、あ、いや、なんでも」


「大丈夫だよぉ香奈ちゃん、どうしちゃったのかなぁ?」


笑いが止まらない香奈を見て、たまおちゃんも引くに引けなくなってしまいました。

若さという反撃の罠に落ちてしまったのです。


「いや、別に・・・でも・・・あははは」


「もお。ちゃんと言ってよぉ~」


「いや、あの、だって、失礼だから・・・あははは」


「そんなことないよぉ、笑ってるじゃん」


「あははは」


「どおしたのかなあ・・・?」


「パリピなおばちゃんみたい・・・かなって。あははは」


たまおちゃんは固まってしまいました。

小鳥遊先生は2人の間に立って、白い歯を輝かせるしかませんありでした。





その日の夜です。

スカーレットは夢の中で幸せなひと時を過ごしていました。

魔法使いの世界で御法度とされていたほうきに乗って、キャラメラ国やパピョコ国、そしてピョコラ国を飛び回っていたのです。

お供のひねもすとタマオちゃんは、ちいさな羽根を一生懸命にはばたかせては急降下。

そして、きりもみ急上昇といった得意技を見せて、スカーレットをわくわくさせてくれました。

放射状の虹色の空と、雲の架け橋の隙間をぬって、スカーレットは踊るようにほうきを操り微笑みました。


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


優雅に空を自在に舞う天女さながら。


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


といった、不快な音さえも気にならないスカーレットでしたが・・・。


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサか。


と、幾度も聞こえる不気味な音の正体と、その可能性を秘めたモノの記憶がインプリットされると、この場から一刻も早く逃れたい恐怖心が押し寄せました。

古来よりその姿を変えないで生息する生き物の悪夢。

その恐怖は、スカーレットを夢の世界から覚醒させるには充分な理由となりました。

照明を点けたまま眠りに落ちた室内で、開いたドアの隙間に見える影に怯えながらも、スカーレットは思いきって叫びました。


「何がお望み!?」


影の反応はありません。

スカーレットは思いました。


「GはゴーストのGなんだわ・・・」


不思議と恐怖心はありませんでした。

スカーレット自身も、元はこの世のモノではないからです。


「何がお望みかしら!?」


「ヒィ」


「ち、ちょっと!」


「ヒィ」


スカーレットが追いかけようと立ち上がると、その影は部屋の前から消えてしまいました。

ところが、居場所は明らかでした。

隣の部屋から直ぐに物音が聞こえてきたのです。


「キシマシオさん?」


スカーレットは挨拶をしようとドアをノックしました。

けれど、いつまで経っても返事はありません。

ドアノブにそっと触れてみても、喜島志緒との記憶はインプリットされませんでした。

闇なのです。

同じアパートメントで暮らしていながら、彼女との関係は霞のような存在でした。

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夢見るスカーレット・インブルーリア みつお真 @ikuraikura

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