第九十五話『帳が下りる』
この街の路地は複雑に入り組んでいる。
この街の住人ですら路地の全容を把握している者は、ほんのひと握りだろう。
この街に長く住んでいる志東さんですら、迷子になるからあまり奥までは行きたくないと言うのに。
「モルちゃん!」
私の名前を呼ぶのはカラスさん、彼だか彼女だか分からないその人は殺し屋である女性のひとりを組み伏せている。
私は意図をくみ取って、間髪も入れず刃で一撃の一撃を与える。すると女性は泥のように溶けて、跡形もなくなってしまう。
「やっぱりこいつも偽物!!」
「次が来たよ!モルちゃん行こう!」
先程からずっとこの繰り返しだ。
入り組んだ道を利用して、少人数戦に持ち込んみ、少しずつ数を減らす。
しかし泥の中から光を追い求めるようなもので、希望の光も、終わりすら見えてこない。
「あぁ!もうっ!」
さらには影から手が伸びて文字通り足を引っ張る始末だ。
長期戦になればなるほど、こちらが不利なことは明白だった。一瞬でも気を緩めれば、崩れ落ちるように全てが悪い方向へ進む。
「思いついた!!」
「なにっ?」
角を曲がり、走りながらカラスさんは私に案を話し始めた。マスクをしながらこの運動量に、早口な作戦の説明。少しばかりカラスさんを尊敬した。
「いつまでこうして逃げるつもりなのですか?もうすぐ日も落ちますよ、夜になれば死の影は貴方たちがどうしようと追いつくでしょう!」
後ろから4人女性が追いかけてくる、追いつかれるのも時間の問題だった。
ゴミ箱を蹴り倒して、また角を曲がる。
「モルちゃん、できそう?」
「……うん、やってみる」
他に方法はなかった、あとは私の技量に、いやどちらかと言うともっと単純な力にかかっていた。
「鬼ごっこはおしまいですか、諦めたわけじゃないでしょう、でしょう?鬼ごっこよりは私電子機器などのゲームの方が好きなんですがね、たまにこうして走って見るとやはり楽しいものですね」
「……だよ」
建物の屋根からも女性達が走ってきている、私とカラスさんはその場に止まり辺りを見渡した。
追いかけていた女性達は距離を保ち、私たちを囲うように広がった。
「はい?何がおっしゃいましたか?疲れました?もしかして体力に限界が来ていたりするんです……」
「話が長いって言ってるんだよ、分かる?僕長い話って嫌いなんだよね!」
「カラスさんこの前長い話好きって言ってなかったっけ…」
カラスさんの明らかな挑発だ、少し不安は残っていたが、女性達がいっせいにカラスさんを睨んだところを見て、私の中の不安は掻き消えた。
その時、1人上からカラスさんへ向けて襲いかかった。それを皮切りに女性たちがカラスさんへと襲い来る
「なっ!?」
もちろん、作戦通りだ。
勉強になる程の機敏な動きで襲い来る短剣を捌き、一通り全員の隙を作り終えたカラスさんは唱えた。
「
カラスさんの手袋に埋め込まれた宝石が赤く輝き。
身体が、鉛のように重くなった。立つことがようやくと言っていいほどの重圧。足を、上げることすら出来ない。
「頼むよ……!」
絞り出すようなカラスさんの声で、少しやる気が湧いてきた。我に返ったと言うべきだろうか、とにかくハッとした。
動けないのは敵も同じだ、そして私なら。
「うん!」
動ける、思い空気を切り裂くように足を、腕を、身体を進むべき方へと進める。
敵を、切り刻む為に。
1人ずつ、素早く、確実に。
「んっ……はぁはぁ」
「今ので、かなり減らせたはず…」
「カラスさん、私肩外れたかも……」
ほぼ全員を切り刻んだ、そして全員が泥のように地に流れた。
これだけ
けれど、いったい何処に。
「少し驚かされたけど、驚いただけで終わっちゃったね」
影の底から女性の、声が聞こえた。
何の変哲もない、ただ建物の光の届かない深い闇の底から。這い上がるように、女性たちは現れた。
「はぁはぁ……カラスさん…」
「次の、案を考えるから、もう少し耐えて」
限界だ、日ももう沈み切る。
日の当たらないところから敵が現れるのだとすれば、実質もう詰みになってしまう。
「楽しかったけど、そろそろ終わりです」
女性たちの中から前に出た1人が、ロングブーツをコンコンっと鳴らしながらニヤリと笑ってそう終わりを告げた。
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