第五十二話『絶権跋扈』

「にゃぁぁあ!!!!!」


 そんな咆哮(にしては可愛すぎる)と共に、僕らが直前まで居た車両が消し飛んだ。

 言葉通り。消えたように跡形もなくなって、破片やらは全て遠くの彼方に飛んで行った。

 空へ舞って、どこへやら。


「しどーひさしぶりにゃ!相変わらずよわよわにゃーね!」

「猫さん久しぶりです!会えてとっても嬉しいですよ!」

「そーだと思ったのにゃ!」

「皮肉ですよ」

「ぐにゃぁ」


 皮肉以外で僕がこんなに活き活きした喋り方はしないだろう、もしくは活き活きした喋り方をしないと殺される時とか。

 ないだろう、この先、そんな事は。ないことを祈ろう。


「猫さんも、相変わらずですね」

「私最強、故にちょー強いのにゃ」


 僕は後始末には携わらないと心に決めている。 

 幸いにも自分達の部屋は消し飛んだ車両の部屋ではなかった為、普通に前の部屋へ帰ってきた。


「まだ居たんかいっ」

「アォォゥンッ」


 群れから外れたフェンリルは弱い、群れの中のリーダーは単体でもかなり強いのだが。

 一匹狼って実は弱いらしい、役に立たないから群れを追い出されて一匹狼になるらしいのだが。

 そうだ次から一匹狼とでも自称しようか。


「まったく…」

「おや?おやおやおや?おやおや?不可色さんではぁありませんか!狂気的な魔王!頭のおかしい同業者!不思議の殺戮者!」

「うわー、変異個体のフェンリルだー」

「痛いです!剣は横に倒して振っても当たれば痛いのです!それにフェンリルじゃありませんよ!ラクーンです!忘れました?この顔!」

「あ、確か、指定手配されてた人」

「されてませんよ!たぶん!」


 たぶん?そこらへん、言いきれないとダメだろう。

 この人も来てたのか……。

 面倒くさいな、なんて思いながら僕は頭を掻いた。

 この結衣さんをさらにうるさくした様な人の名前はラクーン。この人も同業者だ。

 ウェーブがかかった茶髪で、髪は短い。可愛い大きな瞳はオッドアイで左が青、右が黄色になっている。

 この人ももふもふのコートを着込んでいて、チノパンツを穿いている。

 背は僕と変わらないが、一応、年下の男子だ。


「それでそれで!お久しぶりですね!お元気でしたか?ですがご生憎様、僕はあなたとは違う仕事なのです!いやあ!不可色さん!残念!」

「僕はほっと胸をなでおろした」

「それは直接言わずに心に収めておくものじゃあありませんか?」


 というか、モルはどこへ行ったんだろう。

 ミミさんと一緒にいたはずだが、バーも状況なら機能していると思えないし。


「それでにゃ、しどーは爆発したのにゃ」

「この前も爆発してたよー、爆発癖みたいなのがあるのかなー」


 噂をすればだ。

 モルと……猫さんが二人で楽しそうに会話しながら、この車両へ入ってきた。

 ミミさん何をしてるんだ。そこの組み合わせは色々と収集がつかなくなるんじゃないか。


「僕、そんなに爆発してますかね」

「いっつ!だいにゃまいとっ!」

「ダイナマイトッ!」


 猫さんのよく分からない発言をモルが復唱した。

 ラクーンさんに助けを求めようと、視線を送るが。

「あー、そろそろ僕は!仕事があるので!またの機会に!」と、そそくさとこの車両を出ていってしまった。

「寒いにゃ、早く部屋の中に入るにゃー!」

「うん!入ろー!」


 ……。

 僕らの部屋に勝手に入る猫さんを止めるすべはなく、僕は外の景色を眺めた。

 どうやら山と山の間の、石橋を走っているらしい。

 車両が一部消し飛んでるが、問題は無いのだろうか。

 そういえば、ラクーンさんや猫さんがいるなら。あの人もいるかな。

 テトさん、ヒバリさん。

 まぁ、会えても会えなくても。何も変わらないと思うけど。


「寒いな」




      〇




「うぉっと!」

「何事?」


 海も見えなくなり、肌寒くなった頃、鬱蒼とした木々が並ぶ道を走るキャデラックが急停車した。

 停車した理由は、空から降ってきた何かの塊だ。

 状況を理解しようと押し黙る口の悪い女性とカラス、静寂の中でもカーラジオからポップ・ミュージックは鳴り続ける。


「んー、列車の部品かな?なんで空から?」

「知らねぇ」


 考えるだけ時間の無駄だと察し、また車を走らせた。

 空の色も、カラスの羽のように黒くなり始め。

 そのうちに黒い空を白い雪が空を彩った。

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