第三十六話『暗い夜』
現在時刻、1時6分。
静かだ。
僕の普段住む街ではこの時間はまだ陽気な人々の喧騒や音楽が夜を彩っている。
だからこそ、落ち着ける状況下にあって落ち着かない。
そして、落ち着かないのは何も静かだからという理由だけではない。暗いのだ、どこまでも暗い。
深淵を覗いて、うっかり落っこちてしまった様な。
そんな暗闇。
あてもなく適当に歩き回っているが、昼のこともありスクラップ場に行くのは気が引けた。
僕はその反対側に来ている、それでも遠くの方に
まさに一寸先は闇というような状況。
しかしながら、
こんな所で誰かに襲われたりしたら、ひとたまりもない。
あー、こわいこわい。
けれど僕も一応、戦場を生きてきた男。こんなところで闇討ちに会おうと、華麗に撃退────は、少し厳しいが逃げ切って御覧に入れ
「え」
後ろに腕が引っ張られた、そして間抜けな声が盛れた頃には地面に組み伏せられていた。
い、いやっ、大丈夫、ここから逃げるのがこの僕の得いたいいたいっ、痛いてばっ。
「あれ、不可色だ」
「あの、痛いんですが」
「ごめん」
「謝るなら力入れないで貰えます?あと、僕は志東です」
すごいな、音も無かった。
カンテラは投げ出されてもその火を絶やすことなく辺りを照らしている。
カンテラを拾って、僕を容赦なく痛めつけた相手を照らした。
梟さんだ、こんなに冷え込む夜にも関わらず、いつも通りの薄着だ。
「眩しい」
彼女はカンテラなどの、およそ携帯用照明器具を持ち合わせていない。理由は彼女が梟だからで、暗闇でも目が利く。
目が利く割に、襲った相手が僕だったことに気づくのが遅い。
「見てなかった、気配したから、とりあえず先手」
「ということは任務中ですか、はぁ、僕が一般人だったらどうするんですか」
「あやまる」
誤る、謝る。
果たして、謝って済むのかは分からないが。
なるほど、暗闇で目が利いても見なきゃ見えないよなぁ。
それにしても、頭痛が痛い。
「……明かり、消して」
「え、これ消しちゃうと、僕なんにも見えなくなるんですが」
「消して、位置、バレる」
誰に位置がバレるというのだろう。
敵か、そりゃそうか。
こんな暗闇で、戦闘はしたくない。
それに、見境なく襲うくらいにはピリピリしているらしい梟さんの餌食にはなりたくない。
猛禽類は、恐ろしい。
「はい、何も見えません、暗闇です」
「うん、おけ」
火を消すと、本当に何も見えなくなる。
目を瞑っても大差のないほどに、黒い。
「痛っ!え、なんで?」
「痴漢撃退、正当防衛」
「そんな事言われても、ここ崖じゃないですか、狭いし、何かにつかまらないと不安なんですよ」
「じっとしてれば、落ちない」
すく前は崖、ここからどこかを見張っているらしい梟さんだが。見えない恐怖というものを分かってはくれない。
自分が体験した事がない事を、理解するのは難しい。
「それで、どこを見てるんです」
「1200m先、廃工場、昨日の時点でカルト連中が馬車で…」
「黒灰ノ原液ヲ輸送」
「うわっ」
すぐ後ろで声のような音がした、直ぐに声の主はわかったのだが。それとは関係なく。
突然現れたブリキさんに。
梟さんの話に急に割り込んできたブリキさんに驚いて。
バランスを崩した。
「危ない」
梟さんが僕の手首を掴んで引っ張ってくれたが、彼女の小さな体では引き上げるには力が不十分だったらしく。
梟さん諸共、崖の下へ────。
「オ前ラ、気ヲツケロヨナ」
そう言いながら、ブリキさんがさらに引っ張ってくれて。
なんとか落ちずに済んだ。
「ありがとうございます」
「アァ、気ニスルナ」
そう言ってくれたブリキさんの顔も見えない、相変わらずの暗闇。
ブリキさん、光ったりライトとか着いていたりしないかな。
「そういえば、梟さんって僕たちに着いてきましたけど、仕事別ですよね」
「うん、ブリキとも違うけど、関係はあるから、協力してる」
なるほど、ブリキさんとの仕事に関係のある任務は大抵カルト集団絡みなので、ろくなものがない。
それでもって、なにか気になることを言っていたような。
「それでー、黒灰の原液とはなんですかね」
「アー、ソレ聞クカ?」
本当に聞いたらまずい事なのか、それともただ確認を取っているだけなのか。彼の声では判別しにくい。
「マァ、ナンダ、教エテヤルカラ、トリアエズ座レヨ」
「座って大丈夫ですか、僕落ちませんか」
「不安なら、1歩下がったら」
「あ、はい」
夜空を見上げてみたが、月も星もない。
ここの道中のあの絶景スポットで、夜空を見上げたら。どれほどに綺麗な事だろう。
暗闇はまだまだ明けそうにない。
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