自動車を趣味とする人たち

SSS50

第1話

20xx年、世の中を走る自動車の8割は自動運転車となった。自動運転車となったことで、自動車による交通事故や違反、悪質運転等、それまで人が操作していた事によって引き起こされていた出来事が圧倒的に少なくなり、また、物流等の運送業等に携わって居た人々は運送中にも睡眠を取れるなど、とにかく様々な人々が安心で、安全で、楽で、効率の良い生活を得ることが出来るようになった。

この様な生活が当たり前となり、早10年。今の小学生や中学生は自動運転車しか知らないと言う子も出てきた。当たり前に、車好きも非常に減少していったのである。







一昔前、走り屋という言葉があったのをご存じだろうか。走り屋が走る場所は様々で、東京や大阪、神奈川の高速道路、埠頭、山にある峠道、また、時には民家のある一般道、都心や市街地の直線など、とにかく彼らは走れそうな所はどこでも走った。もちろん、迷惑で非常に危険な事のため、取り締まりや摘発も度々行われた。しかし、彼らはそのたびに場所を変え、走り続けた。

しかし、東京オリンピックが行われるはずだった2020年、国は走り屋という暴走行為を日本の恥とし、徐々に取り締まりを強めていった。その取り締まりはこれまでの物とはまるで別物で、ちょっとした改造車を乗っているだけでもしつこく職務質問を行い、違法改造の箇所があればすぐに整備不良の切符が切られる。また、“走り屋スポット”では走っている者から、そういった場所に溜まっていただけの車好きですら、何かしらのいちゃもんをつけ、切符を切る。当初、オリンピック期間中のみとみんなが思っていたが、実際にはその流れで改造車や走り屋を全て排除する流れとなり、この様な事が、2025年まで続いた。さすがの走り屋集団もこれ程までにお国様から目をつけられてしまってはやりようがなかった。当時、整備不良の違反点数は2点であったが、それでも重なれば免停、免取りになる。その様にして免許を無くした者、派手な改造や暴走行為を行い車両を没収された者。あるいは体ごと没収された者と、様々であったが、皆、思ったことは同じである。


「こんな思いしてまで車を趣味とする意味は無い」







そんな中、未だに走り続ける者も居る。その中のひとりが 風間 祐介。21歳。車は一昔前に流行ったトヨタ 86。車そのものは決して速くはないが、練習にはほどよいパワーと扱いやすさに定評があり、数少ない走り屋1年生から、サーキットでも未だに現役である。



今夜も彼は“スポット”に向かうのである。誰よりも速くなりたい・・・そんな漠然とした目標を持ちながら・・・。

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