ライトノベルなんて大嫌い

みなみくん

第1話 ライトノベルなんて大嫌い

1話完結のラブコメです

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【ライトノベルなんて大嫌い】



きっと、次の桜が咲く頃も僕らは変わらずこの道を歩くのだろう


手を繋ぎながら


笑い合いながら


end



文字の羅列が終わりを迎える

鼻の奥がツンとする

声にならない声が出る



「読み終わったー?」



「終わったょぉぉ、ぐずんっ」


溢れた涙と鼻水混じりの感想を、後ろから問いかける幼なじみに向けた

「その反応だと当たりだったんだねぇ、じゃああたしも読もっかな」


僕のベッドを占領する幼なじみは毎回の如く、僕に勧めて、僕が読み終えた時の反応を基準にそれを読むのをか決める

>

「ねえ、マリアちゃん。ほんとに何回めか分かんないけど最近言ってるじゃん、勧めるのそろそろやめて欲しいなって。あんまり読みたくないんだよ、僕」



元々はネットでラノベ系小説がアニメ化したりして流行り始めた頃に、マリアちゃんが強引に僕に勧めてきたものだ




自発的に読むほど読書が好きなわけでも無かったし

そもそも僕はライトノベルなんて好きじゃなかった

特に学園モノとか恋愛モノとか興味無かった

ファンタジーやSFはやっぱり男の子だし、惹かれるものがあったけど

マリアちゃんに【人気の学園モノや恋愛モノのラノベを中心に、、強引に】勧められていつの間にか趣味のように読書が定着したんだ




ライトノベル特有の、お約束の様なボッチ系かチート系主人公に幼なじみ、言い寄る年下&年上異性、ご都合主義に、基本的には約束されてる甘くて爽やかなハッピーエンド


最初こそほっこりしたりドキドキしたけど、段々と読んでてなんだか悲しくというか虚しくなってくるような気持ちも覚えるようになった


それでも、奴らは甘美な毒でも持ってるかのように惹き付ける


だからこそ、きっと純粋に好いて読んでる人だけじゃなく、みんな惹き付けられてこれだけ世に溢れて流行ってるのだろう


「ねえ綺凛ちゃん、最近そんな急にどうしたの?人より感情移入し過ぎて読み切るんだし、結局は面白いって事なんだし、綺凛ちゃん読書趣味なんだし良いじゃない」


スマホの画面から目を離さずに声だけ此方へ向けてくるマリアちゃん


今は習慣になっているし、なんだかんだ読書自体は嫌じゃない


「結局こうやって読んでしまうけど、ライトノベルなんて本当は大嫌いなんだ」

ぼそっと零す


もし何でかと聞かれても、なんでかなんて言えずにいる


だって


僕がライトノベルを嫌いな理由は根本的にはマリアちゃん、いや、僕とマリアちゃんの存在自体なんだから





綺凛(きり)

聖愛(まりあ)


一体親は何を思ってこんな名前を付けたのだろう


両親曰く、ざっくり端的に要約すると可愛いから



両親4人幼なじみ、お隣さん、自動的に産まれてきたそれぞれの息子と娘の僕らも幼なじみでお隣さん

おまけに人一倍可愛くて面倒見が良い幼なじみ


ライトノベルの設定感強すぎるよ



幼い頃はなんも疑問も持たなかった


僕の人生の最初の記憶を辿ると、始まりの1ページ目から、アルバムを見る限り表紙から僕の人生にマリアちゃんは存在する


きりちゃんきりちゃんと、にこにことしながら僕の手を引いて歩くマリアちゃん


まりあお姉ちゃん、と呼んで手を引かれる

この記憶が大半だった


それは小学生になっても中学生になっても変わらなかった


クラスに馴染んできた入学して半月程したある日の事

「なんで綺凛君と聖愛ちゃんは苗字違うのに同い歳なのにお姉ちゃんって呼んでるの?学校も毎朝手繋いで来てるよね?」

クラスメイトに不思議そうに聞かれて

僕は答えた。昔から一緒に居て、ずっとそう呼んでる、そうしてると


「え、なにそれ、それってさあ、、?」

女の子がなにか言いかける

男の子は不思議そうにしてる


「綺凛ちゃんがどうしたの?」

僕とクラスメイトの間に入るマリアちゃん

マリアちゃんの背中と向こうの驚いたあと目を逸らすクラスメイト


僕はそのままマリアちゃんに手を引かれて教室を出た


マリアちゃんも僕と同じ事を聞かれたのかな

どういうことなんだろう

そう思うもなんだか聞くに聞けず

いつもと変わらないその笑顔がその時は少しなんだか怖くて何も言えなかった



その後はなぜかもう聞かれることも言われる事もなくなった


大体は僕と一緒にいるけれど、度々上級生や他校の生徒がやって来て声をかけられるマリアちゃん


お友達なのかなって思ってたけど、一瞬であしらって相手にされない彼ら


何ヶ月かすると上級生や他校の生徒に話しかけられたりしなくなっていった



その直後の学校の遠足行事


朝起きると部屋にマリアちゃんが居て服を渡された


今日着て行く服は昨日の夜決めて畳んでおいた


「これにして」

「え、マリアお姉ちゃん?なんで?」

「どうしても」

そう言うマリアちゃんは凄く怖い顔をしていて

僕はそれを大人しく聞くことにして着た

それは、マリアちゃんが着てるパーカーと同じパーカーだった


その日の2人の姿はマリアちゃんの操作によってSNSのアイコンになった、否、された


その日僕は気付いた事があった


周りに仲がいい男の子と女の子が居ても

お姉ちゃんって呼んだり、手を繋いだりしてない


お母さんに言うと「あらー」と恥ずかしそうに言う

ママは「もうそろそろ、、ねえ」と少し残念そうな顔をした

その日の夜、綺凛ちゃんももう中学生だし大丈夫よね。そろそろお姉ちゃんってお外で呼ぶのはやめましょうかってお母さんとママに言われた


翌日の初めてマリアちゃんと呼んだ日

マリアちゃんは凄く分かりやすい嫌な顔をしていた



でも相変わらず、なにかと僕の手を引いて歩き出す、僕は手を引かれていく




2年生も、2人は同じクラスだった


1年生の時のように、マリアちゃんは女子はもちろん、1年生の時は別のクラスだったであろう男の子達に沢山声をかけられていた


最初の1ヶ月程は何度か、たまたまだったけれど廊下の端や中庭で通りかかった時に少し気になる光景を見た


男の子が必死に何かをマリアちゃんに伝えているようで、マリアちゃんは笑顔だけど去年のあの時のような少し怖い顔をして居て、話の途中のようだったけれどマリアちゃんは最後は無視をして離れてしまう


喧嘩でもしたのかなと心配になり声をかけると「なんでもないよ、そんな知らない男の子と仲良くするの苦手だからいいのあれで」と言う


でも男の子もなんだか真剣に必死な様子だったし、マリアちゃんがそういうのだから無理強いをして、皆と仲良くした方がとか、言う訳にもいかず僕はそっかと言うしか無かった


大体この話になると「はい、おしまいこの話は」と言って僕の手を引いて歩き出す


そっかで、終わっていいのかな

なんだか引っ掛かるものがある気がした



その引っ掛かりは大きくなった

その日は日直で、北校舎の端の美術室の掃除を先生に頼まれて、放課後もう1人の女の子の日直の子と美術室を掃除していた


「ねえ綺凛君、あんまりね、人前で聞にくい事だったから聞く機会がなかったんだけど

今なら大丈夫そうだし、ちょっと聞いてみたい事があるんだけど」

窓を開けて換気をしながら戸越さんは窓の外を見ながら言った


「どうしたの?」

机を雑巾で拭きながら僕は返す


少し躊躇うかのような言い方が気になった


戸越さんは去年も同じクラスだったし、マリアちゃんとも結構仲が良くて、3人で話したり一緒に途中まで帰ることもある女の子


気になること、人前で聞けない


なんだろう、それはマリアちゃんも入ってるのかな?でも2人は仲が良いのに

そう思うとそれらが何が噛み合わないような、今思うと矛盾って言葉に似たようなものが浮かんだ


「あのね、聖愛ちゃんって女の子にも人気者だけど、男子の子にも人気なのね。その、クラス以外とか他の学年の人とかにも、、」


マリアちゃんは可愛いし明るい

それに昔から面倒見がいい

勉強だって僕より出来るから教えてくれるし、クラスの女子の子にも頼まれるとテスト前になると何度か教えてあげていたりする


当たり前に皆に好かれるはずだろうと1つの疑問も浮かばす、率直に思う


「その、、綺凛君は。嫌じゃない?心配になったりしない?」


机を拭く僕の手が止まる


顔を上げると戸越さんは凄く真剣な顔で、それでいてどこか不安なような表情僕をなにかを気にかけてくれている事が伝わった


でも、なんで僕が嫌になるんだろうか気にするんだろう


口にしようとすると、外から声が聞こえてきた


苛立ちを含むような怒鳴るような男の子の声と、マリアちゃんの声


「アイツなの?皆がいつも言ってる。あんな奴より俺のほっ」


声が遮られ、パンっと乾いた音がした


戸越さんが青ざめた顔をして、慌てて美術室を出た

僕もつられて慌てて廊下に出る

美術室のすぐ側の階段の所に、マリアちゃんと知らない男の子が居た

男の子は固まったまま頬を手で抑えていた

マリアちゃんは見たことない様な怒った表情だった


今の音って



「え、戸越?」


「田中先輩、あなた、マリアちゃんに何言ってるんですか」

戸越さんが男の子に詰め寄る


「いや、その、、」


何だかとても気まずい状況みたいだ

「って、、え、、」

男の子は僕と目が合うと大きなため息を吐いて項垂れた


「悪かったよ、暴言を吐くつもりじゃなかったんだ、つい感情的になって」

ポケットに手を入れると下を向いたまま男の子は足早に去ってしまった

すれ違いに見えたスリッパの色で、3年生の人だと分かった


「マリアちゃん、、」

戸越さんが心配そうにマリアちゃんの手をそっと握る


「我慢できなくて、つい、叩いちゃった」

恥ずかしそうに笑うマリアちゃん


直ぐに2人は僕へ視線をやると「あ、えっと、、」

と、なにか困った様な仕草を見せる

なんで困ってるのか、僕にはなにがなんだか分からない


「えと、さ、3人で掃除して帰ろ?」

戸越さんが突然閃いたかのように言った

明らかに話を逸らされているようだった

「え、ちょっ、マリアちゃん今の」

「綺凛ちゃん、掃除手伝ったげるから早く終わらせて帰るわよ。あ、でも3人で原宿に寄り道してクレープ食べたい」

「いいねっそうしよっ賛成よ」

2人は僕が何か聞くのを遮るように美術室へと戻り、綺凛ちゃん早くと促す


帰り道買ったクレープはきっと美味しかったのだろうけど、僕は戸越さんの質問の意味、あの知らない3年生の僕への反応、あの3年生の言動に怒って彼を叩いたのであろうマリアちゃん

それらが頭の中をぐるぐると回ってなにクレープだったのかさえ覚えてなくて、口の中に広がる甘みしか覚えていなかった


この日のことが関係あったのか無かったのかは分からないけれど、数日してマリアちゃんが沢山の箱や櫛を持ってうちに来た


「綺凛ちゃん、ちょっと時間かかるからね」


座らされて、首元にタオルを巻かれて、髪を所々ゴムで縛られ、髪にペタペタと液体を塗られていく


「え、ちょ、なっ、なにこれ」


「なにって、髪を染めてるのよ」


え?なんで、校則違反だよと僕が振り向いて抗議する前に「動かないで」と、とても重い声で言われて僕はただただ染まっていく髪に不安を持つしかなかった



数十分して、タオルを外されお風呂場で髪だけ流されてる時に鏡を見て絶句した

白に近い金色になった僕の髪


「この後色入れるからね」

と、また同じ作業を繰り返すマリアちゃん


僕の髪はまるでウィッグでもかぶったかのような青色になった


お母さんとお父さんが帰ってくると

「あら、綺麗に出来てるわねー似合ってるわ綺凛ちゃん。懐かしいわね、あなた」とにこにこするお母さん


まるで僕がこんな髪になるのを知ってたかのように


お母さんにこれじゃ学校に行けないよと言うと

「成績ちゃんとしてれば大丈夫よ」「受験前に戻せば大丈夫よ」

と能天気な返事が来る

お父さんは「お父さん達も通った道なんだ綺凛」

と、遠い目をしていた


お父さんとパパもお母さんとママにこんな髪にされた事があるんだろうと知った



翌日は学校へ行くのが憂鬱だった


朝僕を呼びに来たマリアちゃんを見て驚いた

自宅に帰ってからしたのだろうか

ハイライトにインナーピンクの髪色になってたマリアちゃん


は、、反抗期?

僕は巻き添え?

でもそんな様子は無かった筈なのに


僕が何を思ってるのか分かったように「ただの気分よ綺凛ちゃん、まだ受験に関係ない時期なんだし大丈夫よ別に」

と、いつも通り僕の手を引いて通学路へと踏み出した



思った通り、学校へ近づくに連れて色んな人に凄く見られて、教室に入ると驚きの声が上がった

マリアちゃんはいつも通りなんでもない感じで、まぁ、とかちょっと変えてみようって気分になってって軽く受け答えしていたけれど、僕は変えようなんて思ってないのにこんな色になったからなんて答えればいいか分からなかった


周りの席の子に聞かれて「マリアちゃんが、、」

って言いかけた所で、それだけで、あーって納得したように話が終わった



幸い、クラスメイトからの態度や接し方が変わったりとかは無かったけれど

他のクラスや学年の人達から度々視線を感じたり、ヒソヒソとなにか言われたり、暫くの間ちょっと憂鬱だった



3年生に上がって少しして

「受験がある年になったし、そろそろ戻そうかしらね綺凛ちゃん」

そうマリアちゃんが言うまでその髪は続いた

強制的に


そう言えば、受験といえば

僕は志望校を選ぶことなく高校に進学したんだった


お父さんとお母さんがデートで帰らない日の事だった


僕とマリアちゃんの両親は時々仕事が忙しくてとか、たまにはデートって帰ってこなかったりして、そういった日にはどちらかの家でご飯を食べてそのまま泊まるという習慣があった


それも子供の頃からの習慣


その日は仕事が忙しくて2人とも深夜に帰るとの事で、マリアちゃんのおうちでママとパパと4人でご飯を食べた


ママが、そう言えば三者面談や進路相談の時期ねーと話題を出すと、マリアちゃんがすぐに反応した


「綺凛ちゃん、高校、近いとこにしようね。

遠いと通うの大変だし、30分くらいで行けるしA高校とE学園ね志望校」


「え、僕まだ決めてな」


「いいの、そこね」

僕が言い終わる前に放たれた、有無を言わせない126%の言い切りと断定感


「綺凛ちゃん、マリアね、先生に相談して綺凛ちゃんとマリアの成績的に良さそうな所選んだみたいよ」


ママが言う


パパはどこか少し僕を慰めるような口調で「パパと綺凛ちゃんのお父さんもママとお母さんに決められ、、一緒に進学しようって言われて皆同じ高校、大学に行ったんだよ」と柔らかくも何処か諦めろと言いたげな口調で言った



三者面談になると、先生の方からもう僕が希望を出してる前提のようにA高校とE学園の説明をされた


パパの言った通り、どちらの学校もそれなりに良い学校で通学もし易く、僕はほかの学校の選択肢もとらず、そんなに大変な受験勉強もせずどちらも合格をした


どちらも受かったから希望できたけれど

「E学園ね、綺凛ちゃん」

の一言でE学園になった


パパの言葉がまた頭の中で浮かんだ




二月に入った頃からか、それまでの受験ムードの空気感が無かったかのように、突然と周りの男の子のクラスメイト達が気になる子とか、実は可愛いと思ってたんだとか、女の子の話をする事が多くなりなんだか教室の空気感が変わった


バレンタインでチョコを貰って女の子と付き合う事になった何人かの男の子達


なんでチョコを貰って付き合う人達が多いんだろうかと不思議に思った


僕は昔からマリアちゃんとママから2つ貰っていた


「身近な男の子にチョコをあげる日なのよ、それだけの日」

と、マリアちゃんにいつだったかのバレンタインの日に言われてそれだけの事だと思ってた


小学校の時はそんなに仲良くしてた覚えのない隣のクラスの女の子とかもくれたけど、あれはなんだったんだろう


「マリアちゃんから貰ってるの?」

と、その子に聞かれて、毎年マリアちゃんもマリアちゃんのママもつくってくれてるよって答えたら

そ、そっか、、と俯いてしまったあの子

なんで落ち込んでたんだろう


貰えてやけに喜ぶ子や貰えなくて落ち込む子、身近な友達にチョコをあげる日なのに皆凄いテンションの1日だった


僕は学校でマリアちゃんがクラスまで持ってきてくれてみんなの前で渡された

「綺凛君裏切りぃいいいいい」

叫ぶ男の子達に「マリアちゃんは小さい頃から毎年身近なお友達だからってくれるんだよ」と、宥めるも誰も納得いく顔をしてくれなかった



貰えなかった子達はそれから少しして間近に控える

卒業式に、誰々に告白しようと思うって各々意気込んでいた



僕はその頃ようやく「付き合う」とか「彼女」ってどんな感じなんだろうと気になり始めた


マリアちゃんから恋愛モノや学園モノのライトノベルを勧められたのもその辺だった気がする



卒業式の日も何ら変わりなく、マリアちゃんと一緒に帰る帰り道

その日は変なことを聞かれた

女子に何か言われてない?

あたしに何か言いたいことない?

何かってなんだろうと考えたけど何も言われないし、マリアちゃんに急に言うことなんてないし分かんなくて「何かってなにが?」って聞いてみると、暫く何か考えるように難しい顔をして「なんでもない」って言って、なんだか嬉しそうな顔だった


マリアちゃんは?って同じことを聞いてみた


「なにもだよ、あたしも」と即答で返ってきた


でも、マリアちゃん何人もの男の子に何か真剣な顔で話しかけられて、男の子はすぐに肩を落として居るのを僕は見ていた


その中には告白するって盛り上がっていたクラスの男の子も居た


マリアちゃん、告白されてたんだ


女の子はともかく、男の子は皆なかなか話しかけれないし、相手にされないけど、それでもマリアちゃん可愛いって3年生になってからも変わらず、クラス替えをする度に何人も言ってるのを聞いてる


大半の男の子は最後のチャンスだと思うかもしれないし、されても全然おかしくない




なんで何もないって言うんだろう


「ねえ、僕と同じクラスの男の子に告白されなかった?」


一瞬、目を丸くさせたマリアちゃん



「綺凛ちゃん、あれはね、ただの一過性の熱の奇行とかイベント事なのよ。ほら、貸した本や教えたネットの小説にもあったでしょ似たようなの」

奇行って、、


「あったけど、、え、じゃあ付き合ったの?先週貸してもらったやつ、最後卒業式でクラスのかっこいい子と主人公の女の子付き合ったってたよね」


そう返す僕

なんでか、不安や焦りのような感情が突然湧いた


「本の中ではあるわ、そもそもそういう展開のお話なんだもの

あ、あと言っておくけど綺凛ちゃん?

あれずっと一緒みたいな感じで終わってるでしょ?

あれは小説だからそこで終わるのよ

実際なった所で現実は、大半が大人になる前に別れて疎遠になるのよ」


断定する強さで、最初の質問には答えてくれず、捲し立てる

けど、断ったって事なのかと理解出来た

同時にほっとした自分が居た

なんでほっとしたんだろう



家に帰り、その日の夜は卒業パーティーとお母さんとママが大きなケーキを作ってくれて6人で夜ご飯を食べた




夏休みよりあっという間に過ぎる短い春休みが終わって

高校生となっても変わらず朝僕を呼びに来て一緒に学校へ行く僕とマリアちゃん


クラスは違うけど、中学生の時のように入学して数日もしないうちにクラスの何人もの男の子がマリアちゃんの話をしていた


マリアちゃんが可愛いとあっという間に色んなクラスや他の学年で持ち切りの話題となった

1ヶ月もしないうちに何十人とマリアちゃんに告白する男の子達


結果は誰一人として取り繕うシマもなんとやらだったと


実際、僕の目の前でもその一部の光景はあった


「綺凛ちゃん帰るわよ」と、僕のクラスに呼びに来て廊下を歩いてると、知らない男の子が寄ってきて、マリアちゃんにちょっと話があると緊張した様子で声を掛ける


「ごめんなさい、あたし今から綺凛ちゃんと帰るところだから」


僕がなぜか気まずくてそわそわしてると、それ以外相手が引き留める声を一切無視して「行くわよ」と僕の手を引いた


僕は人見知りだしクラスメイトくらいしか話したり関わりがないけれど、マリアちゃんは沢山の人に知られてる


そして自動的にマリアちゃんと一緒にいる僕も知られる事になる、マリアちゃんといつも一緒にいるあの子は誰だろって


そしてあの頃のようにまた聞かれる


「ねえ、綺凛君って聖愛ちゃんとその、そうなの?」

言いたい事は分かった

ようやく

今まで分からなかった不可解に思ったりした時の事もなんとなく意味がわかった気がした



しかしながら現実は付き合ってないし、そんな話、欠片さえした事ない




「誰か告白した子が言われたんだって。誰とも付き合う気ないって」

「それは綺凛くんがいるからってのを敢えて付けずに言ってるのかな?」



いや、、そんな事ないと思う。僕は、違うと思う

強い口調では無かったけど、口から零れた


本当にそう思ったから



だって、ずっと変わらず僕とマリアちゃんは幼なじみでマリアちゃんはお姉ちゃん


そのスタンスは崩れてない


1度たりとも僕を異性として意識してる言葉なんて聞いてない


きっとマリアちゃんは恋愛とか毛嫌いしてて、今だってあの頃のように幼なじみで自分がお姉ちゃんである僕と自分のままなんだろう


そう思ってた


今になって、クラスメイトとのその会話でようやくこれまでの疑問に結論のようなものかが出来た気がした


僕としては、マリアちゃんがいいならなんでもいいって思う所がある



そりゃ、可愛くて人気者なんだから、本人がその気になれば良い人だってすぐ見つかる。


その方がいいと思う


思う、はず



なのに心からとか120%そう言いきれるかってなると、それは言えなくて、なんだか暗い気持ちが僕の中で生まれるのがある。

複雑な気分になる


ああ、なんか、これってマリアちゃんをまるで女の子として意識してるみたいじゃないかって恥しいし、それが良くない事のような罪悪感も覚える


それが、ほんのつい先週の出来事だ





「ちゃん、、綺凛ちゃんてば!」


すごい勢いで目まぐるしく幼い頃からのことを思い出して自分の世界に入ってしまってたみたいだ


マリアちゃんのちょっと不機嫌そうな声で我に返る



「え、ごめん、な、なに?」


「何?今のは」



き、聞こえてた



しまったしまったしまったと顔には出さないけどパニックになる



いや、もう僕も高校生になったんだ

マリアちゃんがある日気が変わって、凄く素敵な彼氏が出来て、、そんな日が来た時の為にも変わらなきゃいけない気がする



「ねえ、マリアちゃん」

「なによ」

「あのね、、」


僕は先週の出来事を話した、そして今の心情を



「それで?」


あれ、、伝わらないのかな



「綺凛ちゃんはベタなラノベみたいに幼なじみと甘々な砂糖展開な日々が過ごしたいのかしら。それが出来ないからライトノベルが嫌い、、とか」


「違うよ!」少し躊躇うものがあったけど、僕は否定した



「もう少しちゃんと、ふつーの幼なじみと言うか、距離感というか、もう少し大人にならないといけないって言うか、、」

上手く言えない、言葉が見つからない


「好きな子が居るとか、つくりたいけど、あたしが居ると邪魔とか?」

紡ぐ言葉を無視するかのようにマリアちゃんは、少し無表情で、無機質な声で語気を強めた


「ち、違うよ」

なぜだろう、悪いことをして怒られてるわけじゃないのに尻すぼみになってしまう


「もう、ならなんなのよ」

不満げなというか不満しか読み取れない表情を浮かべる



「なんでマリアちゃんはそもそもなんで誰とも付き合わないって言い切るの?中学の卒業式の告白の事隠そうとしたのだって、、。

別に彼氏が出来ても僕と幼なじみなのは変わらないのに」


「何言ってるの綺凛ちゃん?」


話が噛み合ってないかのような空気になる


「結婚する前に違う男の子と付き合うなんて意味のわからないことしてどうするの」


は?


「綺凛ちゃんだってそうでしょ」


え?


「綺凛ちゃんとあたし結婚するんだから、誰に告白されたって断るに決まってるじゃない」


僕は今人生でいちばん動揺して一番間抜けな顔になってるだろう


「ちゃんと言ったでしょ、綺凛ちゃんのこともらってあげるって」


「え、待っていつ言われ」


言いかけて思い出した



ちっちゃい頃、何度もした会話


「僕ねずっとまりあお姉ちゃんと一緒にいたいなー。 」

「じゃあ大人になったら結婚する?」

「なあにそれ?」

「パパとママになるって事だよ。ずっと一緒に居れるって事だよ」

「じゃあ僕まりあお姉ちゃんと結婚したいー!」

「じゃあ綺凛ちゃんが大きくなった時に、もし恥ずかしくて言えなくても、ちゃんとお姉ちゃんから綺凛ちゃんもらってあげるからね、よしよし」


そんな会話があった


今、思い出した


なんだろう、恥ずかしさが込み上げて真っ赤になりそうなのと恥ずかしさのあまり青ざめそうな感じ


それが同時に僕を襲った


「綺凛ちゃん、子供なのにままごとみたいに付き合っても、、そうね、ライトノベルみたいな甘々に都合よくずっとなるわけじゃないのよ現実は、あたし達読者が読んでない、完結の先の事」


そして一息ついて、


「ちゃんと大人になって結婚した方が現実的でしょ」


冗談の欠片も無さそうな口調でハッキリと言った


僕はもう頭の中での処理が追いつかず固まっていた



「そうね、見せた方が早いわね。ちょっと待ってて」


マリアちゃんは言うや否やベッドから飛び起きて、部屋を出ていった


放心状態の僕



5分もしないうちに戻ってきた


家に戻って、またすぐ来たのだろうか


手には紙を持っていた


はい、と言葉にはせず、でも、はいって感じで渡された一枚の紙


婚姻届


マリアちゃんの名前が書いてあった


あと日付


それは僕らが卒業するであろう日、2年後の3月1日


マリアちゃんはあの頃の約束をずっと本気で、、


あの、とか、その、とかなにも言えず僕は恥ずかしくて俯いた多分耳まで真っ赤になってると思う



「ずっと一緒に居るんだし、付き合うとか付き合わないとかそんなにあたしは気にしてなかったんだけどなー」


少しからかうような口調でマリアちゃんは言った


まあでも、と小さく呟いて


「そんな憧れるくらいライトノベルみたいのが好きだったのに、それはごめんね。そうね、綺凛ちゃんも男の子だしちょっとくらい羨ましくなっちゃうよね、ごめんね」



あぁ、そうだ。僕はライトノベルに自分とマリアちゃんを重ねてて、それで現実と全然違うライトノベルが大嫌いなんだ




マリアちゃんの手が僕の頭へと向けられる


くしゃくしゃっと撫でられて、その手は背中へと回った


「綺凛ちゃん」


少し強めに、ぎゅっと抱きしめられる


顔を上げると本当にすぐ目の前にマリアちゃんの顔


「大好きよ」


同時に、僕の唇にマリアちゃんの唇が重なった



おしまい

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