戦いの火蓋

早瀬茸

第1話

 とある大地に剣士2人がいた。その場所は、周りに木々はなく、遙か先まで地平線が広がっている。太陽も照りつけ、戦い日和といったところだ。そんななか、その2人はお互いにらみ合っていた。背格好も衣装も似ており、違うのは髪の色ぐらいだ。

 しばらく沈黙が続いたあと、黒髪の男が話しかける。



「本当にお前には驚かされるよ。」



「それはこっちのセリフだ。何で、急に現れたお前が俺と変わらない戦力を有しているんだか……。」



 金髪の男はそう言って、ため息をついた。本当に不服だと言わんばかりの顔を浮かべている。



「当たり前だろ。俺は神様直々にこの力をもらったんだ。強いのは当たり前だ。」



 神からチートレベルと判子を押された能力を授けられ、あまり面白くないが無双出来るのだろうと黒髪の男は思っていた。

 ……それがこの世界に降り立ち、初めて出会った人間と互角だなんて予想外れにも程がある。あのやろう《神様》、嘘つきやがって……と心底恨んだものだ。それがこいつと初めて出会った時のことだ。まあ、神は嘘なんかついてなくて、こいつの力がおかしいだけだったんだがな。



「そんなの人間みな、そうだろう?」



「そういう意味じゃ無い。俺は直接神様に会って、もらったんだ。違う世界から飛ばされた時にな。」



「だから、それは大体の人がそうじゃないのか?輪廻転生を経験したってことだろ?そのときのことをお前はたまたま覚えてるってことじゃないのか?」



「いや、そうじゃないんだが……。」



 黒髪の男はこのやり取りをするのは何度目だろう、と思っていた。何回説明しても、理解しようとしてくれない。まあ常識的に考えて、あり得ない話なのだから無理も無いか。



「ため息をつくな。それにこんな話、今の状況と何も関係ないだろう?」



「そうだな……、お前は本当にこっち側に帰ってくる気はないんだな?」



「何度もそう言っている。手を取り合って、この世界を納めようなんて不可能なんだ。お前こそ、どうして平和軍フリデンなんかにいるんだよ。これまでの戦いで、それは無理だと分かったんじゃねえのか?」



 金髪の男は目つき鋭くそう問いかける。心の底から不可解だと言わんばかりだ。



「それは今の状況だからだ。みな、冷静になれば、また話は別かもしれない。」



 黒髪の男はこれまでの戦いを振り返る。些細な思想のズレから始まったこの戦争で、血を流した奴も命を奪われた奴も何人も見てきた。だから、俺はこの悲劇を繰り返さないために俺は平和を目指している。



「お前は理想主義がすぎるんだよ。この世界は結局、弱肉強食だ。力があるやつが偉いし、勝ったやつこそが正義なんだ。」



「そんな考えだからこそ、格差がどんどん生まれるんだ。お前の大事な人だって、力があるわけじゃないだろ?」



「だからこそ!だからこそ、俺が力をつけて守ってやるんだ。それで良い話だ。」



「確かに、お前は強いから誰だって守れるかもしれない。でも、もしお前に力がなくて、あの人を守れなかったら?俺はそんな理不尽を許さないために、こちらフリデンにいるんだ。」



「うるせえ!そんなこと言ったって、目の届かない範囲も絶対にある!結局、自分が守りたいものは自分で守るしかねんだよ!」



 金髪の男はそう言って、黒髪の男に斬りかかった。が、黒髪の男はそれをスラリと半身でかわした。



「そんな隙だらけの攻撃だと、一生俺に当たらないぞ。」



「……いつもいつも、冷静な顔をしやがって。すぐにその余裕ぶった表情を崩してやる!攻撃を一発でも当てれば、俺の勝ちだからな。」



 金髪の男は剣をぶんぶん振り回す。しかし、黒髪の男には一発も当たらなかった。



「はぁ……、本当にお前は変わらないな。」



 黒髪の男はそれをかいくぐり、剣を鞘から出すことなく柄の部分で、金髪男の脇腹に勢いよく当てた。その衝撃に金髪の男は少し歪んだ表情をみせ、攻撃を止めた。



「本当にお前は隙を突くのが上手いな。それに、避けるのもな。」



「褒めてくれてありがとう。ただ、お前の場合隙だらけだから隙を突くのはたやすい。それじゃ、どうぞ攻撃してくださいと言わんばかりだぞ。」



「その忠告も何度と無く聞かされた。ただ、俺様の攻撃は一発当たれば終い《しまい》だ。だから、無駄な技術なんていらねえんだよ。」



「本当にそんな考え方で、どうやってここまで生きてきたのやら。……

まあ、それも重々承知してるがな。」



「ああ、俺様は戦闘センスの塊だ。危ないと思えば、避けるのもお手の物だ。」



 こいつはセンスだけでここまで生き残ってきた。戦闘に対する嗅覚だけで言えば、こいつはこの世界でトップだろう。本当に、不公平が過ぎる。



「本当にお前ほどのセンスがもし俺にあれば、闘い方も違ったんだろうけどな。俺も攻撃力はお前と匹敵するぐらいだろうが、生憎センスがなくてな。知恵を使うしかなかったんだ。」



「あんなに卑怯な技を思いつくのはお前くらいのものだ。俺はそこは評価している。」



「卑怯なんて人聞きが悪い。勝ちに全力なだけだ、俺は。」



「はっ、それは皆そうだろうよ。で、今回はどんな作戦を考えてきたんだ?」



「それを教えたら意味がないだろう?」



 黒髪の男は不敵な笑みを作る。戦闘前に必ずするこの男の癖だ。



「チッ、折角お前の初めての間抜けを見れるかと思ったのに。」



「そんな簡単なミス俺がするわけがないだろう?……ただ、そうだな。今回ばかりは教えてやってもいいぞ。過激軍ロタミーの幹部様。」



「急にかしこまってどうした。いつも敵をなめくさっている、お前らしくもない。」



「なめたことなんて一度もないよ。それは今回も同様だ。だけどな、勝ち負けとかルールとか勝算とか、そんなの抜きに俺はお前と純粋な勝負を挑みたかったんだ。」



「……どういうことだ?」



 逆に間抜けな顔をしている金髪の男を見て、黒髪の男はさらに口角を吊り上げた。



「つまりはな。何も策を考えていない。……だから、初めて俺はお前と持てる力だけで、勝負を挑む。」



「……本当か?それも、どうせブラフだろ?」



「安心しろ、本当だ。だからこの場所を選んだんだ。この何者も隠れることが出来ない、この場所を。」



 金髪の男は周りを見渡し、確かにそうだなと思っていた。戦いの場所にここを選ぶなんてこいつらしくもない。



「その顔は信じてよさそうだな。皮肉なもんだ、お前が嘘をついているかどうかは敵である俺が一番分かるなんてな。」



「全くだ。さあ、幕は上がった。殺り合おうか、純粋な勝負を。」



 黒髪の男はそう言って、鞘から剣を抜いた。彼の気持ちに応えるように、剣は白く輝いていた。



「……こんなに胸が高鳴る勝負は生まれて初めてかもな。なんてたって、平和軍フリデン一の策士の本当の実力が見られるんだから。」



 そう言って、お互い剣を構えた。この世界の五本の指に入ると呼び声高い、2人のバトルが幕を開ける。





 



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戦いの火蓋 早瀬茸 @hayasedake

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