私の居場所 194

 レコーディングスタジオの中、日向隊員はびっくり。

「ええ、なんで?」

 明石悠が応えます。

「日向さんが作曲してるかもしれないから、ちょっと様子を見てきてくれないかって、千石さんが・・・」


 ちょっと時間を巻き戻しましょう。ここはファミレスの中。お昼12時までまだちょっと時間があるのですが、土曜日のせいか、すでにかなりにぎわってます。

 その中で真夜中のノックのメンバー6人が談笑しながら食事してます。けど、相変わらず日向隊員の顔は芳しくありません。と、その日向隊員の異変に真土灯里が気づきました。

「日向さん、どうしたの?」

「あは、ちょっと気分が悪くて・・・」

 これに代官さんが反応。

「ん、大丈夫か?」

 久領さんも、

「家の人を呼ぼうか?」

 すると日向隊員は苦笑して、

「あは、そこまでひどくないですよ。ちょっと休めばすぐによくなると思いますよ」

 久領さん。

「そっか?」

 日向隊員は立ち上がり、

「ちょっとスタジオで休んできます」

 日向隊員はそのまま店の出入り口へと歩いていきました。千石さんはそれを眼で追ってましたが、日向隊員がドアを開け出て行くと、真土灯里と明石悠に、

「君たちも行った方がいいんじゃないか?」

 明石悠が慌てて応えます。

「あ、はい」

 が、真土灯里は、

「日向さん、ほんとうに身体の調子が悪いのかなあ?・・・」

 それを聞いて明石悠はびっくり。

「え?」

 千石さんは落ち着いて応えます。

「ふ、君もそう思うか?」

 真土灯里。

「はい。高浜さんが言ってた、真夜中のノックの再デビューアルバムのために1人1曲用意しろって話、この時点でまだ曲が用意できてないのは日向さんだけですよね。彼女、そのことで焦ってるんじゃ?・・・」

「ああ、たぶんそうだろ? ちょっと見てきてくれないか?」

 真土灯里と明石悠が同時に応えます。

「はい!」


 再びレコーディングスタジオ。日向隊員は含み笑い。

「あはは、さすが千石さん。私が作曲で悩んでること、気づいてたんだ・・・」

 日向隊員は再び鍵盤にタッチ。

「私にピアノを教えてくれた先生は3人。いや、個人授業が始まる前に通ってたピアノ教室の先生を入れたら4人かな?

 みんな楽譜通りにピアノを弾くように教えたけど、最後に教えてくれた先生はそうじゃなかった。

 先生は白紙の五線譜にコードをサッサッサッと書いて、これで即興で曲を作ってピアノを弾いてみろって教え方だった。最初は面喰らったけど、馴れてくるとこの先生の教え方が私にぴったしだった。

 だから簡単にメロディを作れると思ったんだ。けどねぇ・・・ いざピアノの前に座ると、いいメロディが浮かんでこないんだよなあ。あはは・・・

 こんなときは・・・」

 日向隊員はおもむろにピアノを弾き始めました。それを聴いて明石悠ははっとしました。

「あれ? この曲、聴いたことある?」

 真土灯里が応えます。

「パッヘルベルのカノンだよ」

「へ~ そんなタイトルなんだ? でも、クラシックなんでしょ、この曲?」

「たぶん日向さんはカノンコードを使うつもりなんだよ、作曲に」

「ええ、カノンコード?」

「この曲のコード進行は超スタンダードで、ポップスやロックンロールの世界では定番になってるんだ」

「ええ、クラシックの曲のコードなのに?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る