私の居場所 175

 日向隊員が歌い出すと、みんなワクワク、ドキドキ状態に。オーディエンスはいつのまにやら廊下にもあふれてました。他のクラスの生徒たちも聴きにきてたのです。

 と、ときどきみんなで一斉に声を飛ばします。いや、これはただの声ではありません。声援コールです。そう、あるタイミングでみんなで一斉に声援コールを送ってるのです。

 これは誰かが決めたルールではありません。自然発生した声援コールです。オーディエンスにこんな行為をさせる。日向隊員のギターと歌唱はそれほど魅力的なのです。

 この曲を作った真土勝之の手腕も見逃せません。ま、彼はそこまでは計算してませんでしたが。

 気持ちよく歌ってるように見える日向隊員ですが、まだ自分が見た正夢を若干信じてました。水をぶっかけられるかもしれない? そんな思いが頭の片隅にあるのです。もちろんそんなことはありませんでしたが。

 歌が終わりました。その瞬間みんな一斉にウォーっという地響きのような声をあげました。

 続けて1人が「アンコール! アンコール!」と連呼すると、それがどんどん伝播して、みんな、アンコールの大合唱。日向隊員は顔面真っ赤になり、

「あは! じゃ、今度はundercoverを歌います!」

 日向隊員は再びジャーンとギターを鳴らし、歌い始めました。2人組時代の真夜中のノックの大ヒット曲、undercoverです。

 さらに真夜中のノックのテーマ曲、I Was Born To Love Youをギター弾き語りで熱唱。

 しかし、日向隊員は真土灯里ほどのギターテクニックはありません。ギターもアコースティックギター。エレキギターではありません。そんなわけで日向隊員は、ギターテクニックを披露しないといけない間奏部分を省いて演奏しました。

 日向隊員はI Was Born To Love Youを歌ってるときは、完全に悦にってました。水をぶっかけられるなんて、もう完全にどこかに行ってました。

 I Was Born To Love Youも歌い終わりました。再びみんなからアンコール、アンコールの大合唱。日向隊員は次の曲を歌おうと思いましたが、時計を見ると、もう朝のホームルームの時間でした。

「みんな、もう朝のホームルームの時間だよ!」

 みんな、不満そう。

「え~!・・・」

 女生徒A。

「もっと歌ってよ!」

「あははは、もう先生が来るって! 今度学校でライヴしようと思うんだ。早ければ明日にでも! みんな、聴いてくれるよね!?」

 するとみんなが一斉に応えました。

「うん!」「もちろん!」「絶対聴くよ!」

 日向隊員は再び笑顔になりました。

「あは!」

 この朝の即席ライヴはこれで終了。その後休み時間になるたびにこのクラスの生徒たちは日向隊員に集まってきました。みんな、日向隊員の歌唱に期待してたようです。

 けど、休み時間はそんなに長くありません。この日日向隊員は、学校内でギターを弾くことは2度とありませんでした。

 下校時刻になると、日向隊員は猛ダッシュでクラスを出て行きました。

「えーっ!?・・・」

 日向隊員にまた歌ってもらおうと思ってギターを持ってきた女生徒Bは残念そう。

「え~ もう帰っちゃったの~?・・・」


 中学校の校門からたくさんの生徒が出てきました。その間を縫うように走る3人組がいます。日向隊員、明石悠、真土灯里です。

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