私の居場所 166

 隊長は高浜さんを見て、

「ほんとうにあなたが暴力を振るったんですか?」

 けど、高浜さんの眼は寒川隊員を捉えたまま、フリーズ状態。隊長は今度は強めの言葉で、

「わからんよ、黙ってちゃ!」

 高浜さんははっとし、我にかえりました。

「あ? ああ・・・」

 高浜さんは遠藤原を見て、

「昨日掲示板にうちのバンドのメンバーを侮辱することを書いたんですよ、こいつ!」

「うちのバンド?・・・ おお、あなた、真夜中のノックの高浜さんじゃないですか?」

 それを聞いて遠藤原はびっくり。

「ええ?・・・」

 どうやら遠藤原は今まで眼の前にいた人物を真夜中のノックの(元)メンバーとは認識してなかったようです。

 遠藤原たちネット民を動かしていたのは、真夜中のノックの真土勝之が盗作した。だからいくらでも真土勝之を攻撃してもいい、という身勝手な論理。

 真夜中のノックのメンバーは何人なのか? 真土勝之以外誰がメンバーなのか? そんなのどうでもよかったのです。

 なお、何度も書きますが、真土勝之は盗作などしてません。ネット民はたった1人が、

「こいつが盗んだ!」

「こいつが殺した!」

 と書けば、誰1人裏を取らず信じてしまう、暗愚極まりない連中ばかりなのです。

 隊長が高浜さんに質問しました。

「あなたのバンドのメンバーを侮辱することを書いたと? この男が?」

 高浜さんは1枚のA4の紙片を隊長に見せました。たくさん文章が並んだ紙片。高浜さんはその中の一文を指差します。

「これです!」

「失礼!」

 寒川隊員はそれを受け取り、読みました。

「おいおい、オレなんか一度もギターなんて持ったことないが、こんなだせー曲、すぐに弾いてやってもいいぜw」

 隊長。

「ほー、こりゃあ完全に侮辱罪成立ですなあ!」

 遠藤原は慌てます。そして怒鳴ります。

「ふざけんな! そんなこと一言も書いてないよ、オレは!」

 寒川隊員はA4の紙片の一部を指差し、

「しかし、これを書いた人物の住所は、ここになってますよ」

 寒川隊員はマンションを見上げ、

「このマンションの10階の住民。名前は遠藤原紀一」

 するとそれを聞いた隊長は、わざとらしく反応しました。

「おいおい、遠藤原紀一てあの遠藤原紀一のことか!?」

 寒川隊員もそれにわざとらしく反応します。

「え? そいつ、有名なんですか?」

「ああ、ネットの掲示板に善意の他人ひとを侮辱する書き込みをして逮捕されたことがあるんだ。

 そんときは裁判官の前で泣いて泣いて泣き崩れて、もう2度としません。被害者には十分償いをしますと宣言して、懲役1年、執行猶予2年半で赦してもらったんだ。

 けどなあ、その後の民事の裁判には1度も出席せず、確定した賠償金も、1円も払ってないらしいんだ」

「う~ん、ひどいなあ・・・」

 寒川隊員は横目で遠藤原を見て、

「あれ? もしかしてまだ執行猶予中なんですか、この人?」

「ああ」

「てことは、ここで逮捕となれば、執行猶予取消?」

「てことになるな。それに加え、執行猶予中にまた同じ侮辱罪を犯したとなれば、それにプラスして3年は喰らうんじゃないか?」

 ここまで黙ってた遠藤原が、ここで突如爆発。

「ふざけんなーっ! あの事件とこの事件は、ぜんぜん関係ないだろ!」

 隊長は呆れたという顔を見せ、

「何言ってんだ、お前? 執行猶予中に刑事事件を起こせば、どんな事件だろうと、執行猶予は確実に取消になるんだぞ!」

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