私の居場所 157

 扶桑テレビの苦情を受付するセクションは、抗議する電話が洪水のようにかかってきました。

 ただし、これは扶桑テレビの想定通り。電話オペレーターはいつもの2倍に増やして対応してました。それでも電話を捌き切ることができず、電話回線はパンクしてしまいました。

 真夜中のノックの演奏をスタジオの端から見てるプロデューサーはほくそ笑んでます。

「ふふふ、爆上がりだな、視聴率は、こりゃあ!」

 プロデューサーの横にいたディレクターもほくそ笑んでました。2人は含み笑い。

「ふふふ・・・」

 そのまま高笑いへ。

「あはははは!」


 ネットの世界では罵詈雑言の吹き溜まりと化してました。

「やめろ! やめろ! このドヘタクソーっ!」

「こんなヘタクソなバンド、初めて聴いたぜーっ!」

「こいつぁ、BPO案件だろw」

 これを楽屋でタブレットで見ている高浜さんは、もう言葉もありません。ただただ唖然としてました。

 真夜中のノックのメンバーの音楽レベルは、明石悠のヴォーカルはちょっと怪しいところがありますが、それ以外はプロのレベルを優に超えてます。決してヘタではありません。

 こんなの、音楽に興味がない素人でもわかります。ネット民の耳は、もう異常としか言いようがありません。


 ここはかなりくたびれたマンションの一室。カウチに寝転がり、老松啓一がぼーっとテレビを見てます。

 啓一の背後ではモヒカンの男とリーゼントの男がひそひそ話をしてます。

「なあ、どうする? やっぱ日向愛か明石悠を殺さないと、姐さん、許してくれないのか?」

「けどよう、オレたち、頭の中に何か仕掛けられちまってるんだぜ・・・ あの2人の顔を見たら、途端にひどい頭痛が襲ってくるんだぞ。どうやって殺せばいいんだよ?」

「う~ん、あねさんの傘下の暴走族に頼んでってもらおうとしたら、警察が先回りしてたっけなあ・・・」

「もしかしてオレたち、警察に24時間監視されてるのか?」

「何か別の方法はないのか?・・・ たとえばあの2人と中のいい人を殺すとか?」

「それで姐さんが許してくれればいいんだがなあ? 関係のない人を殺したら、オレたち、意味もなく刑務所入りだぜ。長い間な・・・」

「どうすりゃいいんだよ、オレたち・・・」

 カウチの啓一はつまらないと感じたのか、テレビのリモコンを手にし、チャンネルをザッピングし始めます。

 と、ある番組で手が止まりました。そこにはギターを弾く真土灯里が。そう、これは扶桑テレビのミュージックレッツゴー!、生放送です。これを見て啓一がつぶやきます。

「あれ? こいつ、うちの中学校の生徒じゃないか?・・・」

 そのつぶやきに、モヒカンの男とリーゼントの男がはっとします。

「えっ!?」

 そしてテレビに映る真土灯里に気づきました。

「こ、こいつ・・・」

「や、やばいぞ、おい!」

 2人は啓一に向かって猛ダッシュ。

「ぼっちゃん、ダメだ! それを見ちゃ!」

 啓一はそれを聞いてびっくり。

「えっ!?」

 テレビの中画面が切り替わり、明石悠と日向隊員が映りました。その瞬間啓一のこめかみからこめかみへ強烈な何かが突き抜けました。

「うぐーっ!?」

 ちなみに、あの事件以降啓一は、日向隊員と明石悠を見てませんでした。これが初めて。初めて体験する強烈な頭痛です。

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