私の居場所 146

 真土灯里はぽつり。

「私、思い出しちゃった。以前テレビに出てギターを披露したあと、何があったのかを・・・」

 日向隊員は唖然としてしまいました。と、日向隊員はあたりを見回しました。周囲にはたくさんのこの中学校の生徒がいます。大半はこっちを見てます。ここでその話をされたらまずいかも? 日向隊員はそう判断すると、真土灯里に、

「ここじゃなんだから、ちょっと向こうで話そ!」

 日向隊員は真土灯里の手を握ると、少し早いスピードで歩き始めました。明石悠もあとに続きます。それを見た中学生たちはびっくり。思わず質問。

「え、どこに行くの?」

 日向隊員は振り返り、作り笑顔で応えます。

「あは、ちょっと・・・」

 3人は校舎の隅に消えました。残された中学生たちは頭に?を浮かべたままになってます。


 校舎の端にある小屋。その陰から明石悠が顔を出してます。

「誰もついてきてないよ」

 小屋の裏には日向隊員と真土灯里がいます。明石悠も2人に近づいてきました。真土灯里はぽつり。

「私、以前テレビに出て父に教えてもらった通りギターを弾くと、あっという間に大人気になった。学校中のみんなが私をちやほやするようになった。私、とっても気分がよかった。ギターを習ってて、ほんとうによかったと思った。

 なのに父の曲がありもしない盗作騒動に巻き込まれると、みんなでてのひらを返し始めた。突然みんなで私を無視するようになったんだ・・・

 それだけじゃなかった。クラスの問題児に何度も何度も・・・」

 ここで真土灯里は言葉に詰まってしまいました。それでも言葉を続けようとします。日向隊員はいたたまれなくなり、言葉を遮りました。

「も、もういいよ! いいって! もうそれ以上言わないで!・・・」

 明石悠は小声で日向隊員に、

「どうしよう?」

 日向隊員は深く考えました。

「隊長を呼んで一度家に帰そうか?・・・」

 と、ここで日向隊員は思い出しました。隊長がセダンの中で真土灯里に手渡した防犯ブザー。あれだ!

「真土さん、うちのたいちょ・・・ 香川さんからもらった防犯ブザー、まだ持ってんでしょ?」

「え?・・・」

 真土灯里は一瞬なんなんだかわからなかったみたいですが、すぐに思い出したようです。

「あ、あれのことかな?」

 真土灯里は自分のカバンをまさぐると、防犯ブザーを取り出し、日向隊員に見せました。日向隊員はそれを見ると、

「そうそう、それそれ!

 なんでカバンの奥に仕舞いこんじゃったの? 万が一のときに鳴らすものだよ、それは。カバンの奥に仕舞いこんでおいちゃ、いざっていうときに鳴らせないじゃん!」

「ご、ごめんなさい・・・」

「もし真土さんがこのブザーを鳴らしたら、私、真っ先に駆け付けるから! たとえ授業中であっても!」

「ええ?・・・」

「だから安心して!」

「で、でも・・・」

「今日はどうしても授業に出られないて言うのなら、今すぐ香川さんを呼ぶよ!」

 真土灯里は少し考え、

「だ、大丈夫かな、私? あはは・・・」

 と苦笑い。さらに防犯ブザーを日向隊員に見せ、

「授業に出るよ、私、今日は! 何かあったらこれを鳴らすから、絶対来てね!」

「うん!」

 真土灯里は防犯ブザーのストラップをカバンの手提げにくくりつけました。日向隊員はそれを確認してにっこり。

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