私の居場所 94
日向隊員=金目ひなたは5歳のときからピアノを習ってました。彼女の父は家にピアニストを招き、彼女に個人レッスンを受けさせてました。
教えてくれるピアニストは何度か変わりましたが、最後に教わった人はストリートピアニストとして世界中を旅行した人でした。
その人は白紙の五線譜にちょちょちょいとコードを書き、これで
それまで五線譜に書かれた音符通りにピアノを弾いてた金目ひなたは面くらいましたが、馴れてくるとこっちのレッスンの方が楽しくなってきました。
そのレッスンが今になって役だってきました。日向隊員は渡された楽譜を見ると、あえて音符は無視し、コードだけを見てピアノを弾きました。これが楽譜通りに弾くよりかっこよく聴こえたのです。
初日は自分のペースで好き勝手にギターを弾いてた真土灯里ですが、日向隊員のピアノテクニックに驚き、いつの間にかソロプレイを日向隊員に譲るようになってました。
2人のプレイはほんとうに息が合ってました。ヴォーカルの明石悠も気分よく歌ってます。オーディエンスも盛り上がりました。
演奏が一段落し、真土灯里のMCになりました。
「今日最後の曲になりました!」
するとオーディエンスから不満の声が。
「えー、もう終わっちゃうの!?」
「もっと聴かせてよーっ!」
真土灯里は横目で警官たちを見て、
「あは、私たち警察から許可もらってここでライヴしてるんだ。けど、もう約束の時間なんだ。ごめんね!」
真土灯里は横目で日向隊員を見て、
「じゃ、行くよ!」
「うん!」
日向隊員がピアノの鍵盤にポロンと触れると、明石悠が歌い出しました。I was born to love you 真土灯里の父真土勝之が憧れ、リスペクトしてたクイーンの名曲。当然真土灯里もクイーンをリスペクトしてました。
真土勝之はクイーンの曲のギターのパートすべてを弾くことができましたが、真土灯里も弾くことができます。もちろんI was born to love you この曲も完璧にコピーすることができました。
この曲が始まるとオーディエンスはなお一層熱狂します。すさまじい勢い、そして圧力。
日向隊員も明石悠も負けてはいません。日向隊員のピアノも明石悠のヴォーカルも完璧に真土灯里のギターについてきます。完全な三位一体。
曲が間奏に入りました。真土灯里の人間業とは思えないギターテクニック。オーディエンスたちはさらに熱狂します。
「うぉーっ!」
明石悠はその真土灯里を見て、ふとあることを思い出しました。それは十数日前、真土邸に石が投げられ、それを日向隊員が追い駆けて行ってしまったときのこと。取り残された真土灯里はぽつり。
「私、世間様からイジメられないようにつつましく生きるつもりだった。なのにせっかくもらった八幡このみて名前を勝手に棄ててしまった。きっとこれはその罰よ」
その発言をけげんな顔で聞いてる明石悠。
現在の明石悠。
「ふ、何がつつましく生きるつもりよ。こんなに熱くなってギターを演奏して、みんなの注目を集めて。
あなたの本心はこうでしょ? 売れて売れて売れまくって、社会に私の存在を認めさせ、自分と父親をバカにした世間様に復讐する!」
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