女神

私の居場所 64

　メガネの少女は思いっきり不満な顔を見せ、大声をあげました。

「ちょ、ちょっと待ってよーっ！」

　けど、日向隊員も明石悠もそれを無視して演奏を続けます。するとメガネの少女は実力行使に。なんと日向隊員が弾いてるギターのネックを掴んだのです。日向隊員はびっくり。

「へっ!?」

　メガネの少女は訴えます。

「なんでギターソロやらないのよ!?」

「ギターソロて、間奏のこと？･･･」

「そうよ！　あれをやんなけゃ、この曲を奏（や）る意味がないじゃん！」

「ご、ごめんなさい。私にはあのギターソロはむりって･･･」

「もう！　じゃ私が奏（や）るよ！」

「ええ？･･･」

　日向隊員は少女の豹変にただ、ただ戸惑うばかり。仕方なくギターを渡すことにしました。

「はい」

　日向隊員のギターを手にした少女は、ギターのストラップを被りました。が、ここでギターの弦に眼が止まりました。

「そうだ、ガット弦だったんだ･･･ こんなギターで奏（や）るっていうの、私･･･」

　少女はガット弦に不満があるようです。思いっきり嫌な表情を見せました。が、日向隊員を横目で見て、

「あの人だってこのギターで奏（や）ってたんだ。タッピングはちょっとムリだけど、代わりにハンマリングやブリングをやれば！」

　渋かった少女の顔は、途端にやる気のある顔になりました。

　少女は財布を取り出し、その中から硬貨を１枚取り出しました。明石悠はそれを見て、

「何、あれ？」

　日向隊員は応えます。

「外国のコイン･･･ かな？」

　メガネの少女は１つ深呼吸すると、ジャーン！と１つギターをかき鳴らしました。

「大丈夫！」

　と大きくつぶやくと、ギターの演奏を開始。ハイスピードなギターテクニック。マスコミやネット民はそれを聴いてびっくり。

「うわーっ、すげーっ！」

「なんだよ、これ!?」

　彼女のパフォーマンスはスマホやパソコンでライヴ中継を見てる人々も感動させてます。

「す、すげーや、こいつは！」

　パソコンで見ていた生徒会長も、口をぽかーんと開けたままになってしまいました。

「何、これ･･･」

　が、何か思い出したようです。

「あれ？　この娘（こ）、テレビで見たことあるような？･･･」

　群衆の中、日向隊員と明石悠もびっくりしてました。ただ、２人の驚きはほかのオーディエンスとはちょっと違うところにあるようです。明石悠は日向隊員を横目で見て、

「日向さん、すごいよ、これ！　昨日動画投稿サイトで聴いたギターとまったく同じだよ！」

　日向隊員はぽつりと反応しました。

「ええ･･･」

　　そう、昨日動画投稿サイトで見た(聴いた)真夜中のノックのundercoverて曲の間奏部分。メガネの少女はそれを完璧にトレースしてたのです。エレキギターとガット弦のアコースティックギターとの違いはありますが。

　なお、少女が手にしてた硬貨ですが、ピックとして使われてました。

　日向隊員もいつの間にかうきうき、わくわく状態になってました。今まで感じたことがない高揚感。

　けど、ふいに声が耳に入り、はっとしました。それはスマホを構えてる２人の男性ネット民でした。

「あ、あいつ、真土勝之の娘じゃないのか？」

「え、あの盗作の娘？」

　それを聞いて日向隊員は思い出しました。そう、この曲を作詞作曲し、ギターを弾いてたアーティストは、真土勝之という人だったのです。

　と同時に、日向隊員はこの２人に怒りを覚えました。たまたま似てる曲があっただけ。盗作じゃないよ、絶対！