私の居場所 5
南原主幹の説明が続いてます。
「君が街の中を歩いてるとしよう。信号は青、君は横断歩道を渡り始める。けど、そこに暴走車が突っ込んでくる。脳が危ないと判断して避けようとしてたら時間がかかってしまうだろ? そんなときは脊髄が判断して避けるんだ。それが脊髄反射だ。
あ、脊髄てわかるかな?」
日向隊員が応えます。
「はい、背骨のことですよね」
「う~ん、正確には違うな。脊髄は背骨の中に入ってる中枢神経の1つだ」
ここで日向隊員にさらなる疑問が発生。で、再び南原主幹に訊いてみることに。
「中枢神経てなんですか?」
南原主幹は右手の人差し指で自分の側頭部を指さしました。
「脳のことだよ。つまり、脊髄は脳の1つてわけだ。
将来君がメガヒューマノイドとして戦場に行くとき、脳の判断で動いていたら間に合わなくなる事態が必ず出て来るはず。そのとき必要になるのが脊髄反射だ。けど、それでもまだ遅いと思う。
そこで人工の脊髄反射を搭載することにしたんだ。それが今回の手術だ。この人工脊髄反射のお蔭で君の脊髄反射は格段に速くなるはずだ」
南原主幹は隊長を見て、
「彼女の人工脊髄は3つのセグメントに分かれてます。そのうち2つには、2人の達人から収集した脊髄反射のデータを入力してます」
「う~ん、もう1つは?」
「これはまだ実験段階ですが、そのときに必要な脊髄反射のデータをインストールするんですよ」
「ん、インストール、どうやって?」
「無線通信ですよ。スマホのアプリのダウンロードみたいなものだと思ってください。
今回取り付ける人工脊髄反射のデータの1つは、警視庁特殊急襲部隊、いわゆるSATの熟練者から採取してます」
「ん、SAT? 自衛隊の特殊部隊から収集した方がいいような・・・」
「あは、本当はそうしたかったんですがねぇ・・・」
隊長はピンときました。
「あは、そっか・・・ ふ、相変わらず自衛隊はうちに協力してくれないなぁ。もう1つの脊髄反射のデータは?」
「土屋翔介」
その固有名詞を聞いて日向隊員はびっくり。
「ええ、その人、とっても強い人じゃん!?」
隊長もその人を知ってるようです。
「土屋翔介と言ったら打撃系総合格闘技のチャンピオンじゃないか!? どうやってそんな人物を?」
「あは、うちのスタッフに弟が総合格闘技をやってる人がいましてね、その弟さんと同じ道場に土屋翔介がいまして、ダメ元で訊いてみたら喜んでデータを提供してくれたんですよ」
隊長は関心顔。
「ほ~・・・ 土屋翔介と言えば、2m近い外国の選手を強烈なパンチで殴り飛ばす選手だったな」
隊長は日向隊員を見て、
「背の低いお前にはちょうどいい選手じゃないか!?」
隊長は今度は南原主幹を見て、
「で、その手術、どれくらいかかるんだ?」
隊長は日向隊員を横目で見て、
「こいつ、来週から中学校に行かないといけないんですよ」
「あは、そうなんですか? ま、3日もあれば大丈夫ですよ」
改造手術中の日向隊員は、首だけになって病室で待機です。傍から見るとかなり不気味。まるで妖怪。
日向隊員は雑誌を読みたくっても、手がないのでページはめくれません。ラジオもチューニングで手が必要となります。もちろんパソコン(インターネット)もダメ。テレビだけはリモコンをアゴで押せるので、これだけはOKでした。
食事もありません。当たり前です。胃袋も食道もないのです。食べることも飲むこともできません。1日に1回首に取り付けられた小型空中浮遊ユニットのカートリッジを交換するだけ。いい加減日向隊員は飽きてきました。
「ふぁ~あ。お腹すいた・・・」
胃袋がないんだからお腹がすくはずがないのですが・・・ 食事はいつもの習慣。その時間になると脳が勝手に食事の時間だよう、と指令を出すのです。困ったものです。
手術は3日目となりました。けど、まだ終わりません。4日目になっても5日目になっても終わりません。日向隊員は焦ってきました。いつになったら私の身体は返ってくるの?
6日目になりました。明日から中学校。なのに日向隊員の首から下はまだできてきません。日向隊員は焦ります。
「ええ~・・・」
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