私の居場所 3

 日向隊員はニコッとして寒川隊員を見て一言。

「寒川さん、お久しぶりです」

 寒川隊員は苦笑い。

「ああ・・・」

 日向隊員は今度は隊長を見て、

「隊長、かなで、弾けるようになりましたよ」

 隊長は笑顔で応えます。

「あは、そっか。じゃ、さっそくやってくれないか?」

「はい」

 日向隊員は立ったまま、ギターを弾き始めました。なお、ギターはストラップで首からぶら下げてる状態になってます。これは寒川隊員と同じスタイル。

 かなで、この曲の原曲はピアノから始まります。日向隊員はそのピアノの音をギターで1音1音再現しました。主旋律メロディとして弾いてるのです。寒川隊員はストロークで弾き始めると思ってたから、ちょっと驚いてます。

 さらに驚くことが。日向隊員のギターの音は主旋律メロディだけではなかったのです。ピアノで言えば左手、つまり伴奏コードの音まで入ってたのです。

 隊長が小声で寒川隊員に話しかけました。

「お前、すごいじゃないか。あいつ、ギターを手にしてまだ7日しか経ってないんだろ?」

 寒川隊員は苦笑。

「ふふ、オレは何もしてませんよ」

 寒川隊員が日向隊員の右手を見ました。指にピックがありません。指で直接弾く、フィンガーピッキングで弾いてるのです。寒川隊員は隊長の耳元に、

「オレはあいつにピックでギターを弾くように教えました。なのにあいつ、指で直接弾いてます。あれはオレのテクニックじゃないですよ」

 と囁きました。寒川隊員は思いました。

「ふっ、あいつ、もうとっくにオレを超えたな」


 最初のメロの部分はアルペジオ。サビの部分に入ったらストローク。日向隊員のギター弾き語りが続きます。

 寒川隊員は日向隊員の右手の指を見ました。ストロークでも相変わらずフィンガーピッキング。うまい人だとアルペジオ⇒ストローク奏法に変更した瞬間、掌の中に隠し持ってたピックを使う人もいるのですが、日向隊員はそのままでした。

 と、ここで寒川隊員はあることに気づきました。

「ん?」


 日向隊員は歌い終わりました。1コーラスだけでしたが、十分すぎるギターテクニックでした。隊長は笑顔で、

「あは、すごいじゃないか!」

 寒川隊員。

「日向、ちょっと右手の指を見せてくれないか?」

「え・・・」

 日向隊員はちょっとためらいましたが、すぐに寒川隊員に右手を突き出しました。なんと日向隊員の右手の指の第1関節より先はボロボロになってました。それを見て隊長、女神隊員、宮山隊員はびっくり。

「ええ?・・・」

 寒川隊員。

「やっぱり・・・」

 日向隊員の指はかなり血が滲んでます。ただし、これは空気に触れると血のような液体に変化するパウダー状の物質。本物の血ではありません。それでも痛々しく見えます。寒川隊員。

「おいおい、こりゃあまた、ずいぶん使いこんだようだな」

 日向隊員は顔を赤らめました。

「あは・・・」

「そっか、まだあのことは教えてなかったか・・・ じゃ、最後にこれを教えてあげよう」

 寒川隊員は日向隊員が使ってるギターを見て、

「ギターにはスティール弦とガット弦があるんだ。このギターはスティール弦だ。スティール弦はピックを使う人向きだ。指で直接弾くときはガット弦の方がいいな。スティール弦を指でじかに弾いたら、指がボロボロになっちゃうよ」

 隊長。

「仕方がないなあ。明日からまた手術だったな。そのとき指を直してもらおっか」

 日向隊員は笑顔で応えました。

「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る