私の居場所 2

 けど、寒川隊員はすぐにあれ?という感じになってしまいました。実は日向隊員は5歳のときからピアノを習ってました。そのせいで絶対音感が身についてたのです。つまり寒川隊員は絶対音感のある女の子を弟子にしてしまったのです。もちろん、15歳のときにギターを覚えた寒川隊員に絶対音感なんていうものは当然ありません。

 日向隊員は音楽の知識もけてました。寒川隊員が尾崎豊の曲の楽譜を始めて見せたとき、

「あ~ この曲、イ長調ですね」

 と言ったのです。

 寒川隊員は楽譜は読めます。と言っても、それは基本のキの部分だけ。五線譜のどの部分に#が付けばイ長調になるのか、考えたことがありません。ともかく主旋律メロディとそれに付いているコードが読めれば問題ないのです。それに対し日向隊員は、伴奏部分の楽譜まで読むことができました。

 さらにギターを教え始めると、別の驚きが発生しました。初日いきなりFのコードが弾けたのです。

 Fのコード、ギターに挑戦した人はわかると思いますが、これが大変。弦を押さえる左手の指の位置が複雑すぎるのです。これだけでギターを投げ出してしまう人がたくさんいます。寒川隊員もこれをまともに弾けるようになるまで1月近くかかりました。なのに日向隊員は瞬間に弾けてしまったのです。

 実は日向隊員の首から下は海老名隊員の身体。海老名隊員は右手も左手も義手でした。この義手、宇宙傭兵部隊ヴィーヴルからもたらされた技術で造られたもの。その指は通常の地球人の指と比べるとかなりしなやか、かつ力がありました。Fのコードなんかお茶の子さいさいだったのです。

 さらにです。日向隊員は寒川隊員の気に障る行為をやってしまいました。ギターを習い始めてすぐ日向隊員は気づいてしまいました。

「寒川さん、ちゃんとした音楽教育を受けたことがないな」

 意地悪な日向隊員はそれに気づくと、わざとらしく難しい音楽用語を並べ立てて質問したのです。ほんと日向隊員は、デリカシーがありません。こんなことされたら寒川隊員は嫌になって当然です。

 3日もしないうちに寒川隊員は、日向隊員を避けるようになってました。日向隊員はちょっとやり過ぎたかなあ? と反省してるところです。

 はたで見てた隊長もなんとなくそれが読めてました。で、隊長はちょっと課題を与えてみることにしました。

「日向、かなでて曲、知ってるか?」

「え、スキマスイッチの曲ですか?」

「ふふ、まあな。あれをギター弾き語りで歌ってみないか? ちょっと聴いてみたくなったんだ」

「え・・・」

 日向隊員は一瞬困惑の顔を見せましたが、すぐに笑顔を見せ、

「ええ、いいですよ」

 ちなみに、かなでは隊長がカラオケに行くと必ず歌う曲。と言っても、隊長はあっち方面のマニア。ついてくる映像は当然アニメです。

 さて、まだ1曲もギターで弾いたことがない日向隊員、はたしてかなでをどう料理するでしょうか? その指令があった直後から日向隊員は自分の部屋に籠るようになりました。


 それから数日後、ここはテレストリアルガードサブオペレーションルーム。たった今引き分けの自動ドアが開きました。録画した深夜アニメを見てた隊長はそれに気づき振り返ると、そこにはギターを抱えた日向隊員が立ってました。

 今この部屋にはほかに女神隊員と寒川隊員と臨時雇用の宮山隊員がいます。なお、女神隊員はウィッグで特徴的な単眼を隠してました。

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