赤ン坊殺しの英雄 15

 倉見隊員。

「その話は聞いたことがあったけど、まさか橋本さんのことだったんだなんて・・・ 今日初めて知りましたよ」

 橋本隊員。

「ふ、一応どのマスコミも名前は伏せておいてくれたからな。田村佐恵子自身もインターネットでオレの名前を公表しようとしたらしいが、弁護士に止められたらしい。オレは人権派弁護士ていうやつが大嫌いだが、あのときだけは人権派弁護士に救われたな。

 しかし、田村佐恵子・・・ 自ら宇宙人にかけあって改造してもらったのか・・・」

 上溝隊員。

「橋本さん、さっきインターネットで一昨日殺された人を見てましたけど、知り合いがいたんですか?」

「ああ。天沼吉郎。オレと一緒に田村佐恵子に訴えられていた男だよ」

 上溝隊員。

「ほかの2人は?」

 隊長。

「巻き添えだろうな。橋本をおびき出すための」

 すると上溝隊員は申し訳なさそうに、

「い、いえ・・・ 今回殺された2人ではなく、橋本さんと一緒に訴えられた2人なんですが・・・」

「あは」

 どうやら隊長の勘違いだったようです。隊長はちょっとはにかみました。

 橋本隊員が応えます。

「須賀と長瀞。何分6年前のことでな、下の名前は忘れた。あれ以来会ってないから、どこで何やってんのかもわからんな。

 本当はもっと田村佐恵子を押さえつけてた人がいたが、判明した、もしくは自ら名乗り出た人はオレを含め、4人だけだった。田村佐恵子があれじゃ、名乗り出なかった方が正解だろ」

 隊長。

「その2人の命も危ないな。すぐに警察に保護してもらおう」

 隊長は上溝隊員の顔を見て、

「おい」

「はい」

 上溝隊員はテーブルの上の受話器を右手で握り、左手の指で電話のダイヤルボタンを押しました。

「あ、警察ですか・・・

 ええ?」

 上溝隊員は驚きました。すぐに隊長の顔を見て、

「隊長、テレビをつけてください! さっき言ってた女が・・・」

「え?」

 隊長はテーブルの上のリモコンを手にすると、電源ボタンを押してテレビつけました。


 テレビの中では女性リポーターがマイク片手にしゃべってました。

「犯人はテレストリアルガードの橋本隊員との面会を求めてます!」

 それを聞いて橋本隊員がびっくり。

「おいおい、いきなりオレか?」

 再びテレビの中、リポーターは野外にいます。とてつもなくだだっ広い土地です。どうやら造成地のようです。リポーターの後方に眼をやると、等間隔に並んだ警官隊と規制線が見えます。その向こうにはたくさんの人がいます。どうやら警官隊がヤジ馬を押さえてるようです。

 今一塊で歩く3人のカメラクルーが映し出されました。再びリポーターの発言。

「犯人に指名された民放のリポーターが、今プレハブ小屋に向かって歩き始めました」

 それを見ている隊長。

「あれ、どこのテレビ局だ?」

 隊長はリモコンを操作し、チャンネルを1局1局変えました。すべてのチャンネルはほぼ同じ画像。その中にさきほどのカメラクルーが映してると思われる画像がありました。隊長はここでリモコンを握る手を止めました。

「ここだな」


 そのカメラクルーが映した映像。少し大きめなプレハブ小屋と無造作に駐車してある幼稚園バス。幼稚園バスは先ほどのバスです。プレハブ小屋とバスの周りには、建物や樹木などはいっさいありません。

「私たちは今から犯人の要求通り、このプレハブ小屋に入ります」

 これはカメラクルーの女性リポーターの声です。プレハブ小屋の中からは、異様な泣き声が聞こえてきます。幼児の泣き声です。

 リポーターがプレハブ小屋のドアノブに手を掛けました。

「では、入ります!」

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