赤ン坊殺しの英雄 10

 海老名隊員は10歳のときに見たアニメ、パトロール魔女ジェニーのように空を飛びたくって飛びたくってしょうがありません。メガヒューマノイド計画はそれを実現させてくれました。けど、飛んだのは1回だけ。あれ1回でエアジェットユニットは外されてしまったのです。

 約束では18歳になったらまた飛べることになってます。でも、ここでテレストリアルガードをクビになったら、もう2度と飛べなくなるかも? ここは隊長の命令に従うしかないのです。

 海老名隊員は声を発しました。

「わかりました。学校に行きます。着替えるから外に出て行ってください」

「わかった」

 隊長は自動ドアを開け、廊下に出ました。


 廊下では上溝隊員が待ってました。上溝隊員は隊長の顔を見ると、

「どうしたんですか、いったい?」

「ん、反抗期だろ」

 隊長は我関せずと言った感じで歩き始めました。慌てて追いかける上溝隊員。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 このあと海老名隊員は学生服に着替え、中学校に行きました。海老名隊員は空を飛ぶ、この大きな夢を諦めることはできなかったようです。


 サブオペレーションルームの引き分けの自動ドアが開き、隊長と上溝隊員が帰ってきました。室内では橋本隊員が待ち構えてました。

「隊長、昨日の犯人がわかりましたよ。ふっ、思いっきりオレと関係のある人物でした」

 それを聞いて上溝隊員はびっくり。

「ええっ?」

 隊長の質問。

「誰なんだ?」

 橋本隊員はその質問に応えました。

「田村佐恵子」


 ほぼ同時刻、晴天下、ここは半農半住宅地の路地。黄色い帽子の園児とその母親が道端に佇んでます。道の向こうから幼稚園バスが見えてきました。お母さんがそれを見て、

「あ、バスが来たよ」

 それを聞いて園児がバスを指さしました。

「あ、ほんとだ!」

 バスが2人の前に停まりました。バスのドアが開くと、そこには先生添乗員の姿が。

「おはよう、みなとちゃん!」

 それに園児=みなとちゃんが応えました。

「おはようございます!」

 みなとちゃんがバスに乗り込むと、すぐにお母さんに振り返りました。

「行ってきまーす!」

 お母さんは微笑んで、

「行ってらっしゃい!」

 バスが発車しました。

 バスはそのまま片側1車線の道路を走ります。しばらくするとその真上を1つの人影が追い越しました。メガヒューマノイドの女です。頭部は剥き出し。どうやらヘルメットは壊れてしまったようです。

 なお、女は背中のエアジェットユニットはついてますが、両腕両脚の姿勢制御用のエアジェットユニットはついてません。そのせいで空中で静止することはできないようです。


 再びテレストリアルガード基地サブオペレーションルーム。海老名隊員以外のテレストリアルガードの隊員が揃ってます。橋本隊員がほかの隊員に説明してました。

「5年前・・・ いや、もう6年前になるかな?・・・」


 橋本隊員の記憶の中、ここは大きな駅の近くにあるデパートのビルです。昼下がりようです。

 その地下駐車場、今1台のアッパーミドルクラスの外国車が停車しました。運転手はちょっと若かりし頃の橋本隊員です。

 現在の橋本隊員の声。

「あの頃のオレはいろいろと嫌なことがあってな、いい年こいてグレていたんだ。半グレってやつかな?

 あの日は駅前のデパートに行ってた。取引のためだ。人には言えないようなモノを取引してたんだ」

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