私が愛した男《ひと》 9
「オレたちはほんの数十分前にこの星に雇われた。オレたちが来たからには、もうやつらの好きなようにはさせないさ。安心しろ」
それを聞いて香川さんはかなり安堵の顔を浮かべました。傭兵は香川さんの身体を見回して、
「しかし、あんた、かなりやられてるなあ。ちょっと救護班を呼んでやるか」
傭兵は視線をずらして意味不明な言語てしゃべり始めました。どうやらヘルメットに内蔵された無線機で会話してるようです。ちなみに、傭兵はフルフェイスのヘルメットをかぶってました。シールドはミラーになってて、顔は見えません。身長は香川さんよりちょっと高いくらい。
傭兵は香川さんの顔を見て、今度は日本語で話しかけてきました。
「ああ、すまないなあ。救護班はみんな出払ってしまったようだ」
それに香川さんが応えました。
「いや、構わないさ。命があっただけでも十分だ」
と、ここで数人の兵隊が現れ、こっちに向かって駆けてきました。全員傭兵と同じヘルメット、同じ戦闘服を着てます。傭兵はそれを見て、
「ん、なんだ?」
兵隊の1人が傭兵に意味不明な言語で話しかけ、そのまま通り過ぎて行きました。香川さんは不安になって、傭兵に話しかけました。
「何?」
「まずいなあ。やつらの大部隊がすぐそこまで来てるらしい」
傭兵は香川さんに背中を見せ、腰を降ろしました。
「乗れ!」
「え?」
「オレの背中に乗れと言ってるんだよ」
「で、でも・・・」
「あんた、ここで死にたいのか?」
「わ、わかった・・・」
香川さんは傭兵の背中に乗りました。
「よいっしょっと!」
と言うと、傭兵は立ち上がりました。でも、なんかきつそう。
「あは、あんた意外と重いなあ~」
「おい、ほんとう置いてっていいんだぞ」
「バカいうな! オレたちヴィーヴルはどんな不可能でも可能にする傭兵部隊なんだよ!」
傭兵は走り始めました。意外と脚は速いようです。
後ろを見ると、丘の上から敵部隊が横1列で現れました。いや、1列だけではありません。2列、3列、4列と次々と丘を越えてきたのです。とんでもない数です。それを見て香川さんは叫びました。
「おい、これはほんとうにダメだ。オレを置いて逃げろ!」
それでも傭兵は脚を止めません。
「うるせーっ!」
光弾が次々と飛んできました。そのうちの1発が傭兵のくるぶしをかすめ、傭兵は転んでしまいました。
「ぐわっ!
ちくしょーっ!」
香川さんはすぐ側にある巨大なガレキの陰にゴロンと転がりました。そして傭兵に手招きしました。
「おい、こっちだ!」
傭兵は横座りになってます。撃たれた箇所がかなり痛そう。
「くっそー! くるぶしをやられた・・・」
香川さんは再び呼びかけました。
「こっちへ来るんだよーっ!」
傭兵は四つん這いで岩に向かって進みました。
「くっ!」
が、その顔(ヘルメット)の側面に光弾が命中。
「うぎゃーっ!」
傭兵の身体は吹き飛ばされてしまいました。それを見て香川さんは唖然です。
「ああ・・・」
香川さんは意を決して光弾の雨の中に飛び出しました。
「くっそーっ!」
香川さんは傭兵の両腋の下に腕を入れ、傭兵の身体を引きずり始めました。
ここで現在の香川隊長。
「そんときオレは、とんでもないものを見ちまったんだ」
女神隊員の質問。
「何を見たんですか?」
香川隊長の記憶の中、傭兵を引きずっている当時の香川さん。さきほどの光弾は傭兵さんのヘルメットのシールドの端に着弾したらしく、シールドの1/3が破れていて、血だらけの顔面が見えます。その眼は・・・
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