第41話 戦闘開始 part1
ギデオンは改めて全員に向かって叫んだ。
「女の方は早い者勝ちだ!その肉を喰らい、血を啜すすれ!存分に兎狩りを楽しめ!」
全員が獣のような咆哮を上げ、目を血走らせ白猫亭へ殺到して我先にと扉を開けようとしたその瞬間ー
ドオオオオオオオオオーン!!!
「グワアアアアアー!!!」
先陣を切って扉に取り付いていた2、3人が内側からの凄まじいパワーで、轟音と共に後方へと大きく吹き飛ばされた。
「どうした!トラップか⁈」
「わかりません!爆発物の反応はありませんー」
「状況を確認せよ!被害を報告しろ!」
不意をつかれた出来事にさすがの獣化した兵士たちもパニックになっている中、扉の向こうから長い金髪を逆立てたアンがゆっくりと姿を現し、燃えるような真紅の瞳であたりをにらみつけた。
「アンタたち……ひいばあちゃんの大事なお家に、汚らわしい手で触らないでくれる?」
さっきまで降り続いていた雨が上がり、雲の隙間から見事な満月が顔をのぞかせた。
「現れたぞ!CMT=
「今のは何だ?貴様、何をした!!」
興奮して唸り声をあげる兵士たちを落ち着かせるように、リーダーのギデオンが低い声で話しかけた。
「諸君、喜べ。手間が省けた。兎が自らシチュー鍋に飛び込んできてくれたぞ」
アンはさらに一歩前に進み出ると、下卑た笑い声をあげる連中を
完全にリラックスし切った自然体のアンの全身から、少しずつ怒りのオーラが立ち上ってゆく。
挑発するように、アンは前方に突き出した左の手を手首からクイクイッと前後に動かした。
「能書きはいいからかかっておいでよ、ワンちゃん猫ちゃんのアニマル軍団さん」
「舐めやがってえ!」
「ズタズタに引き裂いてやる!」
「気をつけろ!その女はカンフーを使うぞ!」
様々な罵声に混じって兵士の一人が注意するように叫ぶのを聞いて、アンは軽くため息をついた。
「ほんと、失礼しちゃうわね、あたしがやっているのは沖縄剛柔流ー歴史ある伝統派空手よ」
「うるせえ!てめえええ!」
「死ねえええええ!」
四人の兵士が、まさに野生動物のような跳躍力で四方から宙を飛ぶように襲いかかり、その鋭い爪が届くかと思われたその時ー脱力した構えから、目にも留まらぬ高速の右上段まわし蹴りで正面の相手を倒すと、そのまま回転を利用しての左後ろまわし蹴りを後方の敵に決めて二人を吹き飛ばした。
返す刀で突っ込んでくる残る二人に対し、右側の猪のような相手には大きく踏みこみざまの突き上げるような右の
その間、わずか1、2秒。
まさに目にも留まらぬ早業に、四人の兵士はアンの周囲を囲むようにどさっと地面に倒れこんだ。
「ワオ!ちょーっと本気でやりすぎちゃったかな?」
片手を口に当て、大げさに反省したポーズのアンに残りの兵士たちの怒りが爆発した。
「調子に乗るな小娘!」
「油断するな、あの攻撃の破壊力は普通ではないぞ!」
「まさか、軽く四百ポンド《約180キロ》以上はある連中を一撃で倒すとはー」
兵士たちに動揺が広がる中、リーダーのギデオンが口を開いた。
「面白い。体技であるカラテのワザに、そこまで魔力を乗せる事ができるとは。実に面白い技だ。勉強になる」
そこまで言うと、長い牙をむき出しにして笑った。
「だが、君のその技では、我々に一時的なダメージを与えることはできても、命を奪うことはできない」
その言葉通り、先ほど倒した連中がゆっくりと立ち上がってきた。アンに対する憎悪と興奮のあまり口元からは大量のヨダレを垂れ流し、鋭い牙がのぞいている。
「さっきは不意をつかれただけだ……!」
「許さん……許さんぞ!」
「全身を引き裂いて、生きたままその肉を喰らってやる!」
グルルルル……という低い唸り声が、あたりの空気を完全に支配する。
「どうかね、これこそが選ばれた人間である我々が神により授かった聖なる力、
獣の軍団はアンを包囲すると、じわりじわりとその輪を狭めていく。
「さて、お嬢さん。抵抗しなければせめてもの情けに、あまり苦しまぬように主の元へ送ってやる。もう一人のターゲットージョシュア・ウォルズリーはどこだ?」
だが、アンはにっこり笑うと獣の軍団の兵士たちの思惑とは異なる返事を返してきた。
「うん、知ってるよ」
ドン!ドン!ドン!
アンの言葉が終わるか否かのタイミングで、超高速の巨大な火球がアンを取り囲む兵士を連続で吹き飛ばしてゆく。
「なに⁈ど、どこからだ!」
見上げたギデオンたちが目にしたのは、白猫亭の屋根の上に立ち目を閉じて呪文の詠唱をするジョシュアの姿だった。
「紅蓮の炎よ、煉獄の炎よ。不浄の獣どもを射抜く強大な槍と化せ」
ジョシュアは大きく目を見開くと、真紅に燃える瞳で獣化兵士たちを見つめ叫んだ。
「
ウォルズリー家当主、ジョシュア・ウォルズリー参る!」
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