第40話 〜亡霊(ゴースト)〜彷徨う魂

 今まさに、獣の軍団とアンとジョシュアによる戦いが始まろうとする同じ頃。


 白猫亭より離れた山あいの古民家で、降り続く雨と木々を揺らす風の音に怯え、父親にすがりつく小さな男の子がいた。


「ほら、またあの声、お父さん、あれが聞こえないの?」

「息子よ、何を怖れて顔を隠すんだ?あれは強くなった雨音だよ」


『ああ……ああ……』


「お父さん、違うよ。あれは亡霊の泣き叫ぶ声だよ」

「落ち着くんだ坊や、あれは木の葉が風で揺れる音だ」


『お、おお……おお……』


「お父さん、亡霊が見えないの?怖いよ、窓の外にいるよ」

「坊や、確かに見えるよ、あれは枯れた古い木だ」


 男の子は震えながら必死に訴えかけるが、父親には抱きしめるしか慰める術はなかった。



『ああ……どうして……どうして……』


 半ば透けたような白い亡霊が木々の間を彷徨いながら、オロオロと泣き続けている。


『おお……』


 立ち止まり、また歩き出し、立ち止まり、かすれ声で泣く。


『おお……アーサー……おお……』



 もはや彷徨うことのみが目的となってしまった哀れな亡霊。


 その背後には、一匹の白猫が見守るようにずっと後をつけている。


 白猫はふと顔を上げ、その深い海のような青い右目と真夏のひまわりのような黄金色の左目で山上の白猫亭の方向をじっと見つめたが、再び亡霊へと視線を戻すと小さくつぶやいた。



「あなたの魂が救われるまでーたとえ世界が終わる日が来ようともーずっと側にいるわ、アン」

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