第38話 獣の軍団 目覚めるときpart2
「禁じられた魔法である
想像を超える話に、アンは絶句して言葉が出なかった。
「その後、時期は不明だが奴はヨーロッパを脱出し新大陸アメリカへと渡ると、正体を隠すためにユダヤ民族の末裔だと自称し、死霊魔術と人を獣へと変化させる獣化魔法を巧みに使って不死身の傭兵部隊を創り上げた」
「各地での先住民との紛争や独立戦争、南北戦争。争いのたびに莫大な利益を手にし、奴の組織は大きくなっていった。これが現在の世界最大の軍需企業ゴールドバーグ&サンズの礎となったのは間違いない」
「じゃあ、もういいじゃん!そんな地位も名誉も手に入れたなら、何で今さらあたしたち一族に執着するの?」
「もちろん自分を追放した一族への復讐もあるだろう。だが、おそらくこっちが本命だと思うのが一族の当主しか立ち入る事が許されないあのミュージアム」
「……そうか!世界の過去や未来を知る事ができるならー」
「そう。今の奴なら巨額のビジネスなんてレベルの話じゃない。世界を支配することも可能だ。それだけは絶対に阻止しなければいけないんだ」
「でもーそんな事、そんな巨大な連中相手に何ができるの?」
戸惑うアンにジョシュアはきっぱりと告げた。
「だから僕はこの白猫亭を復元させ、君を招いたんだ、アン」
「そのために、ここを……?」
「ああ。かつて
おじいちゃんは、ノーラは孤独の内に亡くなった曽祖母ーアン・ウォルズリーを慰めるために、ずっとこの地から離れないんじゃないかと考えていたんだ」
「そう言えば、あたしがあの化け物たちに襲われた時に助けてくれたのもひょっとしてー」
「何らかの形で彼女が手を貸してくれたに違いない。彼女は、確かにここにいるんだよ」
「だからこの白猫亭を復元してアンおばあちゃんの魂を救えば、ノーラは復活すると僕は考えたんだ。馬鹿げていると思うかもしれないけど、方法はこれしかなかったんだ」
「ジョシュ、わかった。あたしも協力する。それがアーサーおじちゃんの願いで、
でも……具体的にこれからどうすればいいの?」
「僕に一つ考えがあるんだ。それはー」
話しかけたところで、ジョシュアの動きが止まった。
「どうしたの、ジョシュ?」
「……この話の続きはまた後にしようか。どうやらお客さんが来たみたいだよ」
「敵の連中?どうするの?」
「どうやら様子見といったところか、予想していたより少人数だ。これなら僕たちだけでやれるだろう」
ジョシュアの眼が赤く染まり出したのを見て、驚いたアンが叫んだ。
「ジョシュ!あなたもあたしと同じ力が使えるの?」
「ああ。あのミュージアムの中で、ご先祖様たちに無限とも思える長い時間をかけて鍛えられたからね」
よほど辛い試練を思い出したのか、心底うんざりしたジョシュの顔を見てアンがクスクスと笑い出した。
「うわあ、タイヘンそう!泣いた?ねえねえ、泣いちゃった?」
「泣くどころじゃないよ、号泣だよ!数え切れないくらいにね」
声をあげて笑うアンの瞳も赤く染まってゆき、まとめた髪がふわふわと浮かび上がりはじめた。
「ねえ、ジョシュ。手加減なしで思いっきりやっちゃっていいんだよね?」
「もちろん!でも君、その前に着替えた方がいいんじゃないか?僕の服でよければ貸すからさ。その浴衣姿のままじゃあ、さっきみたいにあられもない姿を見せることになるんじゃない?」
「失礼ね!じゃあ、お言葉に甘えて借りるわね」
ジョシュアは着替えに引っ込んだアンを笑って見送りながらつぶやいた。
「さあて、獣くさい連中にウォルズリー家の本当の力を見せつける時が来たようだな」
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迷彩服姿の三人一組のグループは、遠巻きに白猫亭を包囲した状態でリーダーらしき男の指示を待っていた。
「こちらギデオン。各隊応答せよ」
「こちらサムソン隊、配置につきました」
「こちらマカバイ隊、同じく」
「こちらエフタ隊、同じく」
「こちらギデオン。エフタ隊、周囲の状況はどうか」
「こちらエフタ隊、周囲に“はじまりの魔女”の気配はありません!」
「こちらギデオン。エフタ隊、館内の状態は確認できるか」
エフタ隊の内、最も小柄な隊員が赤外線熱探知機のスクリーンに映る館内の反応を確認する。
「館内はTPT=最優先標的(トッププライオリティ・ターゲット)であるジョシュア・ウォルズリーとCMT=継続的監視標的(コンテニュー・モニタリング・ターゲット)のアンこと吉岡杏奈の二名だけです!」
「了解。こちらギデオン。各隊に告ぐ」
各隊の緊張と興奮が高まるのが伝わってくる。
「今こそ我らに与えられた聖なる力を解き放て!殲滅戦を開始する!」
白猫亭を取り囲んだ連中が一斉に雄叫びをあげると、次々に巨大な獣へと変身していった。
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