第36話 ナイジェル・ウォルズリー part3
「僕がやる!おじいちゃんの意思を継いで当主となり、そいつらと戦う!」
怒りに燃えるジョシュアの瞳が、ほんの僅かだがウォルズリーの人間に現れる力の象徴ー炎のように赤く染まっている。
『これは……アーサーへの愛と強い怒りが、眠っていた力を呼び起こしたか……』
ハワードはじっとジョシュアを見つめるとゆっくりと口を開いた。
「ジョシュアよ。このウォルズリーの当主となることが何を意味するか、本当に理解しているのか?」
「わかっているさ!同じ一族なんだ、おじいちゃんにできて僕にできないはずがー」
「馬鹿者!!」
ハワードが怒声とともに発した気のエネルギーは凄まじく、ジョシュアは見えない力で押しつぶされそうになりながら、膝立ちでなんとか堪えた。
「くうっ……!」
「アーサーは並外れた魔力を持って生まれてはきたが、その力を開花させるために想像を絶する命をかけた厳しい試練を受けたのだ。おまえにその覚悟はあるのか?」
「命……⁈」
「そうだ!今のおまえの様に、ほとんど力を持たぬ者が耐えられるものではない!」
「それでも……おじいちゃん亡き今、誰かがやらなきゃいけないなら……」
ジョシュアが顔を上げ、ハワードを睨みつける。
「僕はやる!例え後悔することになっても、前に進みたいんだ!」
その瞬間、ハワードの脳裏に八十年前、まだ少年だったアーサーの言葉が甦った。
黒い森の魔女を倒した後も、世界の行く末を心配し現世に踏みとどまる決意をしたアーサーに、それがどれほど残酷で困難な道であることを告げたハワードに向かい、毅然と放ったあの言葉ー
『それでも…誰かがやらなきゃいけないなら、自分にそれができるなら、例え後悔することになっても…ぼくは前に進みたいです!』
口角がほんのわずか上がったと思うと、まるでライオンの咆哮の様にハワードは叫んだ。
「よろしい!ジョシュア・ウォルズリーよ、若く愚かな者よ!おまえが次期当主にふさわしい器であるかどうか、我々がおまえを試してやろう!!」
ハワードのその言葉が合図の様に、周囲の白い影たちがゆっくりとジョシュアを取り囲んで、次々と実体化してゆく。
「まさか、あなたたちは……!」
ジョシュアにとってその顔はこの城に掲げられている肖像画で見知ったものばかりーウォルズリーを支えた歴代当主たちだった。
「ジョシュアよ。このミュージアムの中は、外界の時間の流れの影響を受けぬ。無限の時の中、我らの試練を受けてみよ」
ハワードは、今度は誰の目にも明らかな様に微笑んだ。
コンコン、コンコン。
「ジョシュア様、レスターでございます。お迎えの車が参りました」
執事のレスターがドアをノックするが、返事はない。
コンコン、コンコン。
「ジョシュア様?ご用意はよろしいでしょうか?」
ゆっくりとレスターがドアを開けると、ジョシュアは先ほどと同じく部屋の真ん中に立ちすくんだままだった。
「ジョシュア様、あの……」
ジョシュアが壁の方を向いたまま、ゆっくりと口を開いた。
「レスター。今は……いつだ?」
「……いつ、と申しますと?」
困惑した様子のレスターに何かを察したジョシュアは、質問を変えた。
「どれくらい……時間が経っている?」
「どれくらい、と言われましても……先ほどこのお部屋を出てから……30分程でしょうか」
ジョシュアが大きく目を見開いた。
「あそこでは外界の時の流れが関係ないというのは、本当だったのか……」
「……ジョシュア様、大丈夫ですか?お車が参っておりますが」
「レスター。車は必要ない」
「……と、申しますと?」
振り向いてレスターを見つめると、ジョシュアはきっぱりとした口調で告げた。
「僕はどこにも行かない。この城に残り祖父アーサーの後を継ぎ、ウォルズリー家当主としてやらねばならない事がある」
「本当によろしいのですか?」
「ああ、構わない」
心なしかジョシュアの表情に笑みが浮かんでいる。
「それとシッダールトを呼んでくれ。君と彼に手伝って欲しい事がある」
「私たちに……ですか?」
「そうだ。ウォルズリーと世界の未来のために、力を貸してくれ」
わずか30分ほどの間に、急激に大人びた様子のジョシュアに困惑するレスターだった。
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