第165話 火曜日2 ~湯の山温泉駅までが遠い~

「あっ、楓君、おつかれー」

「お疲れ様」


うん。斎宮さんの言う通りだと、海織が俺を無視をしてくるとかいうパターンもあるかと思ったのだが。心配無用だったらしい。海織は普通に挨拶してくれたが……うん?斎宮さんの表情がやっぱりなんか変ですね。はい。


「斎宮さんどうしたの?」

「……いや、そのね――」


斎宮さんが話そうとしたときにチャイムが鳴り。それと同時くらいに先生が講義室へと入ってきて講義が始まった。10分の休み時間とはそんなもの。そういえば休み時間と言っているが。もしかしたら、移動のための時間なのかもしれない。だから移動時間的な?って今日の俺は余計な話が多いな。うん。家で1人で居ると誰かと話したくなる……みたいなことだろうか――。


講義中におしゃべり……とか言うことはなく。3人は真面目に講義を聞いて……居たはず。何か斎宮さんがチラチラ隣を見ていたのが気になるが……どうしたのだろうか。


それから90分後。講義終了。


「疲れたー」


海織がそんなことを言いながら背伸びをしている。するとすぐに斎宮さんが俺に話しかけてきた。


「楓くん楓くん。やっぱりおかしいよ」


小声でそんなことを言ってきた。


「—―何が?」


俺が聞き返すと。それと同時くらいに。


「あっ、そうだそうだ。今日も用事あるから私先に行くね。ごめん」


そういいながら海織が荷物をまとめて座っていた席を立った。


「あっ、海織ちゃん待っ――」

「ごめんね。じゃ沙夜ちゃん。加茂君。またねー」


海織は荷物を持つとそう言いながら笑顔で手を振りつつ出口の方に向かって行った。


「……」

「あ、ああ。気を付けて……うん?」


……俺も違和感というのだろうか。自然な感じで言われたからすぐにはピンと来なかったのだが。海織が教室から出て行ったあたりで気が付いた。


「—―加茂君?」


俺がそうつぶやくと、斎宮さんが俺の正面に移動してきた。


「楓くん」

「……はい?」


海織が俺の言い方変えた?と、気が付いたと同時に――うん。斎宮さんが今日も俺に急接近してきました。


それからは……俺は斎宮さんに連行されていき……大学の売店で飲み物を購入。もちろん斎宮さんが欲しいと言ったものをです。はい。なんか……斎宮さんが怒っていますね。はい。これは大人しく従うが正解かと。っか、柊とどこかで会えば助けを求めれた気がするのだが――あいにく柊とは遭遇せず。うん。居ませんでした。


そんなことを思いつつ。斎宮さんの前の席に座った俺。何でしょうね。この雰囲気。俺今から公開説教でしょうか。何も話していない今でも何か視線を感じる気がするのですが……。


「さて、楓くん」

「はい。何でしょうか――斎宮さん」

「海織ちゃん明らかにおかしいよね?どう見てもおかしいよね?絶対おかしいよね?」


斎宮さんはそう言いながらどんどん顔を近づけてきた。


――はい……ちょっとおかしいかもしれませんね。はい。って、斎宮さん――怖い。


「えっと……呼び方が変わったこと?」

「そう!そうだよ。私が朝から海織ちゃん捕まえて話したんだけど。そしたら海織ちゃん。何もないよ?とか言いつつ。楓くんの事。加茂君って言ってたし。さっきもだよね?どういうこと!?ねえ!」

「いや……どういうこと言われましてもね……って、斎宮さん声のボリュームを……もう少し検討していただけると」

「それはいいから!」

「いや、視線がですね……はい」

「いいの!問題なし!とにかく。はい。白状する!」


斎宮さんのお声がちょっと大きいからか。斎宮さんが話すとですね。ちょっと……周りから視線を感じるんですよ。はい。大丈夫かな。これ――大丈夫じゃない気もしなくはないのだが……。


「絶対何かあったよね?」

「いや……心当たりは……たまたまということも――」

「楓くんが気が付かないところで、なんかしちゃったんだよ。これは早く謝らないと。大変なことになるよ?絶対なるから。いい?早く解決して。私が気楽に遊びに行けないじゃん!」

「いや……でも……」


斎宮さんに言われて、いろいろ考えてみるが……思い当たることがですね。全くないんですよ。


――ふと思い出したのは……ホントに海織と喧嘩したのなら……俺の家にある私物を持って帰る。とかいうことがありそうな気がするのだが――海織は俺の部屋、家の合鍵を持っているからほぼ出入り自由だし。海織なら俺の講義時間も把握しているだろうし。俺が講義あって海織が休みということもあるので……うん。俺のいない時に家に侵入。荷物持って帰る……はできるよな。まあ、あの量は1回では無理だと思うが……協力者が居れば1回でも可能—―だろうが。


するとちょっと余計な事を考えていたから。


「……楓くん?聞いてる?もしもーし?大事なお話し中ですよ?聞いてる?」

「あ、はい、大丈夫です」

「ホント、傷が深くなる前に何とかしないと」

「でも、理由もわからず――って、でも海織も無視とかじゃなかったから――」

「楓くん……実は浮気したとか?」


斎宮さんがちょっと引き気味—―とかではないが。まさかね。とかいう雰囲気で、でもちょっと引き気味にそんなことまで聞いてきた。


「ないですよ」

「ホントに?」

「……この休みも柊としか会ってないレベルなのですが……ちなみに女性でいえば斎宮さんとしか基本接点ないのですが――」


なんやかんやと、結局俺はそのまま薄暗くなるまで斎宮さんから取り調べをされましたとさ。はい。ちなみに飲み物は2杯ほど奢ることになりましたね。長かった。うん。絶対周りから変な2人が居るとか言われていた気がする。斎宮さんも見た目が目立つ上に今日は声もそこそこ大きかったからな……うん。


講義の後の方が長い1日でした。


にしても、海織は――どうしたんでしょうね?本当に俺……何かしたのだろうか……うーん。


――現状わかりません。はい。 

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