第130話 七夕祭前日2 ~湯の山温泉駅22時53分~
「おー。楓!早いじゃないか」
食堂は前にあるので、前から柊が来るならわかるのだが、何故か後ろから声がしたので振り向くと。何やらボード?を数人で抱いている柊が居た。
「おつかれ。で、呼ばれた俺はどちらに行けば?」
周りをちょっとキョロキョロ見ながら柊に自分の行先を聞いていると柊と一緒に居た学生が――。
「なあなあこの人。あれじゃない」
「うん?あー、そうだそうだ。宮町さんの彼氏さん」
「1人で居るの初めて見たわ」
「確かに。いつも一緒に居るもんな」
「じゃ、どこかに宮町さんも来てるんじゃね?」
「マジか。お目にかかりたいかも」
マジですか……と、いろいろな声が聞こえていたが聞こえていないふりをした俺。えっ?俺ってそんなに有名人だったの?って大変申し訳ないが。俺は柊の後ろに居る人たち誰1人と見たことがないと思うのだが……同級生かな?海織の事を知っているということは。同級生だよね?
そんなことを思っていると柊に話しかけられた。
「楓。うん?どうした?こっちこっち。あっこのボード。奥に頼む」
「了解っす」
「運んでおきます」
「OK、OK」
柊と一緒に居た学生とはそこで別れて俺は柊に付いて行く。って、あまり柊の交友関係を俺は知らなかったが――うん。すごくいろいろな方とつながっている様子。
「先輩ー。来ましたよ。楓。とりあえず。先輩から説明受けてくれ。俺はまだ荷物運びがあるからさ。あっ、説明終わったら。来るときに会場あっただろ?そこ来てくれると助かる。人手が全く足りてないからな」
柊に食堂内まで案内してもらうと数人の男女がバタバタとチラシやら。何か会場の地図?やらを広げていた。そして、その中心に居た人物のところまでやって来た俺。
目の前には……今はまだ真夏ではないのだが。タンクトップに短パン。そしてとても良い身体。筋肉ムキムキの方が俺の前に居る。デカい。
「おお。白塚ー。彼が助っ人か?」
「そうです。楓。とりあえず先輩に明日の流れ聞いてくれ。じゃ先輩、俺は会場の手伝いに戻ります」
そう言うと小走りで柊がまた外へと……っていきなり先輩と1対1は……うん。っか。すごい圧力というか……身体がでかい。筋肉が――すごい。
「OKOKー、頼んだぞー。で、細いの。名前は?」
「あっ――加茂楓です」
「加茂か、よし。じゃ、早速で悪いが……」
そこからは本当に突然やって来た俺に筋肉ムキムキの先輩はすごく丁寧に明日の事を指導してくれた。っか、いきなりやって来た俺で大丈夫なのだろうか。とか思ったが。本当に人が居なかったらしく「マジで、助かったと」何度も何度も先輩に言われた。
話を聞くと、俺の作業は、明日、大学の入り口にあるテントで、パンフレットと短冊の配布をする。と言うものだった。もしかしたら、ただ立っているだけ。という時間もあるかもしれないとも言われたが。うん。これなら何とか俺でもできそうな気がした。
それから先ほどから食堂で他の学生がバタバタしていたのは、パンフレットに短冊を挟むという作業だったらしい。説明を聞いた俺もその後は、あまりに忙しそうに、数人の学生がバタバタ作業をしていたので、そちらの手伝いをした。パンフレットに短冊を挟んで、段ボールへ。どれくらいの人が来るかわからないが。一応大学祭と同じくらいの規模で準備とか……その作業をしながらそんな話を聞いたのだが。あれ?そのレベルの人がもし来た場合、俺一人は大丈夫なのだろうか――と、ちょっと不安になった俺だった。
それからしばらくして、一応パンフレットに短冊を挟むという作業は終わり。俺は柊が居ると思われる。会場の方に向かったら……その途中で柊に捕まり。地域の人が持ってきた荷物を運ぶのを手伝ってほしいやらやらで、駐車場と会場を10往復くらいした。千羽鶴?の飾りというのか。いや待て、千羽どころではないような飾りが……いくつか。あれ?これ初めてするんだよね?なんかすごい規模な気がしてきた俺だった。
そして準備をしていると途中で地区のおじさん?と思われる人が教えてくれた。どうやら。大学近くの地区では、昔は神社で七夕のお祭りがあったが現在は人口減少などでなくなってしまったらしいが。一部の人がそれを復活させようというので今回の七夕祭が始まったらしい。ちなみに発起人はあの筋肉ムキムキの先輩らしい。あの人……結構すごい人らしい。
大学に再び来てからバタバタと作業をしていたら、気が付いたら22時過ぎ。ある程度準備ができたらしく。先ほど解散になった。
「いやー、楓助かったわー」
「俺でいいのかなー。はあるんだけど。っか久しぶりに重労働した気がする」
「大丈夫大丈夫。俺も助っ人みたいな感じだし。基本地区の人たちがメインで屋台やらはするみたいだし」
「っか明日何時集合?」
「7時半だったかな?大学行くより早いな」
「だよな――早く寝よう」
「そうそう、受付が居ないとだからな」
「それをいきなりやって来た人にまかせるのはどうかと思うが……」
「大丈夫だろ。楓は有名人だから」
「……そう言えば途中でなんかごちょごちょ言われていたような……」
来た時の思い出がちょっと蘇って来た。
「宮町さんが目立つからな」
「—―だよね」
「その彼氏だからな。勝手に有名人。いいじゃん」
「いや……よくはないような……」
柊とそんな会話をしながら湯の山温泉駅で電車を待っている。
しばらくして22時53分発の近鉄四日市行きの電車が駅に入って来た。電車に乗り久しぶりに座る俺と柊。
「っか、腹減ったー」
「うん。考えたら。夕方に出てきたから何も食べてない。飲み物はさっきもらったけど」
「沙夜、何か作っといてくれないかなー」
そんな話をしつつ男2人を乗せた電車は駅を発車。
菰野駅で柊が降りて――伊勢川島駅には23時20分到着。あたりは真っ暗。そして改札を出て家に向かって歩き出した俺。そしてそこで気が付いた。
「……うん?メッセージが来てる。4時間も前に」
ふとスマホを開いたら、メッセージが来ていた。相手は――海織。
「楓君お手伝い終わった?」
というメッセージが19時28分に来ていた。現在23時25分。ほぼ4時間前。返事をしようかと思ったが。さすがにもう寝る準備。というか。もしかしたら寝ているかもしれない。ということで、メッセージを今開いたから、既読は付いたはずということで、俺は返事をしないでそのまま家に向かって歩いた。
家に到着。うん、真っ暗。海織がもしかしたら……居るのでは疑惑も10%くらいメッセージがあった時点で考えたが……それは無さそう。
鍵を開けて室内へ。当たり前だが室内は真っ暗。そして静かだった。とりあえず電気をつけて荷物を置く。すると――。
「……うん?」
テーブルの上にふと目がいった。何か置いてある。
「これ……」
俺が近くに行くと。お皿におにぎり2つと卵焼きが置いてあった。そしてその横には……。
「おつかれさま。優しい優しい彼女さんがお夜食を作っておきました!」
〇〇より。とか言う言葉はなかったが。まあ彼女と書いてありますし……この字は海織のもの。っか、確か一緒に家を出たはずなのだが……どういう事だろうか。でも……これはとってもありがたかった。「お腹空いたけど、今から作る元気は……カップ麺あったかな――」とか思っていたので。かなり嬉しかった。
あまりに嬉しかったので写真を撮ってから……お湯を沸かし。確か棚にあったはずの……うん。あった。インスタントの味噌汁を準備してから、海織が作ってくれた卵焼きを一口。うん、相変わらず上手に作っている。そして俺の好きな甘め。美味い。ちょっと気になったのは、普段は6等分いつもしているのだが……今日は5等分。まあ、海織が作りながらつまんだか。など思いつつ。感謝しつつ。完食した俺だった。
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