第36話 夜の散歩 ~乗り遅れました~
最終電車に、乗り遅れた2人。
駅前は冷たい風が吹いている。湯の山温泉方面の電車は、まだ来るが、そちらに行っても、当たり前だが、2人とも帰れないので――。
「宮町さんどうする?タクシーでも、呼ぶ?」
「戻るものは――2人の邪魔しちゃうかもだし。でもタクシーだと――私、結構かかるなー」
「あー、うん。でも、歩いては、宮町さんのところは、絶対無理でしょ数十キロはあるから」
「だね。でも……」
「でも……?」
なぜか、最終電車乗り遅れたのに、楽しそうな宮町さん……あっ、やばい、これは、何か良からぬことを考えている気がする。
と、半年以上の付き合い。俺のセンサーか何かが、反応したが。遅かったようです。
「楓君のところなら、歩いて、帰れそうじゃない?」
「……まさか、だけど――今から、うちに来ようとしてるとか……言わないよね?」
「言う!」
「マジっすか……いや、むしろそれなら、寒いし。タクシー呼ぼう。宮町さんところよりは近いから」
駅前には、タクシー乗り場があるが、今そこには、タクシーはいない「じゃ、とりあえず、電話してみるね」と、宮町さんが、電話をしてくれたのだが……。
「今からだと、かなり時間かかるって」
「……マジか」
バスもすでに終わっており。電車もほぼ終わりの時間。タクシーは、この時間が一番忙しいのだろう。
すぐ来れるという、タクシーは、いなかったみたいで――結果。
「じゃ、歩きで、決まりだね」
「宮町さん……なんか、歩きたそうだね」
「うん。楓君とゆっくりおしゃべりできそうだから」
「風邪ひくよ、ほんと」
「じゃ、手つないでいこうよ。あったかいよ」
「—―はい?」
「大丈夫だよ。夜だし、誰も見てないよ?」
「いや……そういう問題?」
「うんうん。ほら、寒いけど、星も綺麗だし。話しながら歩いたら、そのうち着くよ」
と、その時、左手に感触があった。やわらかい。そして、ちょっと冷えている手の感触が。
「楓君の手も冷たいね」
「家に帰った時、手袋忘れてきちゃったからね。って、本当につなぐ?」
「いいじゃん。いいじゃん。ほら、レッツゴー!歩いてたら、身体も温まるよ」
宮町さんに、手を引かれ菰野駅をスタート……?
――いや、なんでこうなったんだろう。なんで、うん?
「これは……県道?国道かな?この道。線路に沿ってるから……この道、歩いて行ったらいいよね?」
「ま、うん。多分着くと思うけど――この、手つなぐ必要ある?」
「私が寒いから、ダメ?」
と、笑顔で宮町さんに、言われた。なんで、こんなに楽しそうなんだろうか。宮町さん。そして、断れない。
まさか、徒歩で帰ることになるとは思わなかったが。いや、あと、徒歩で着いたとして、そのあと宮町さんは――?泊まるのだろうか……とか、考えていたら、段差につまずいた。
「お、っと……」
宮町さんが支えるように、ぎゅっと手を握って来た。
「大丈夫?暗いからちゃんと、足元観ないとね。恥ずかしがり屋さん」
「名前がおかしくなったよ?」
「さっきから、なんか考えっぱなしで、話の相手してもらえないからなー」
「……すみません。でも、宮町さん。多分6キロはあると思うよ?」
「大丈夫だよ」
「その自信はどこから」
「ほら、あそこに、コンビニがあります」
宮町さんの指さす先には、コンビニの明かり。
「確かに、あるね」
「コンビニ見つけたら。休憩して、暖かいもの買いながら、行けば大丈夫だよ」
と、まず1つ目のコンビニに寄った。なぜか宮町さん店内入っても手離してくれないんですけど……結局、レジの時以外手つなぎっぱなし。なんで?とは……聞けなかった。コンビニで、少し温まり。また歩き出す。
「車も通らなくなってきたね」
「だね。もう12時過ぎたかな?」
「えっとね……あー、過ぎたみたい。なんか、夏の夜もこうやって歩いたね」
「手はつないでなかったよ」
「楓君は、つなぎたくない?」
「えっ――いや……その、恥ずかしいし」
「嫌じゃないなら、大丈夫だねー」
今日の宮町さんグイグイ系なのか。なんか、テンション高いです。
それから、さらに、車通りも少なくなってきた道を2人歩く。
風は後ろからなので、ちょっとマシ……なのかもしれないが、それでも、寒い。手は……暖かいです。
「楓君は、昔どんな子だった?」
「どうしたの?突然」
「せっかくだから、いろいろと話したいなー。って」
「宮町さん眠さで、テンション高くなってる?」
「眠くはないよ?でも……楽しいかなー、で、楓君の過去教えて教えて」
「テンション高い宮町さんでした」
「勝手に話を終わらさない。はい、で、高校とかさ。部活とかしてた?」
宮町さんは、とにかく、過去を知りたいのか。その話にしてくるので、無言で歩くよりはいいか。と、そこからは、過去の話をしながら歩いた。
「高校は、帰宅部だね。特にしたいことがなかったから」
「ちなみに、私は、書道部だったよ」
「あー、なるほど、だから、宮町さんの字あんなにきれいだったんだ」
「えー、そんなことないよ?コンクールとか出ても、賞も何も取ってないし」
「いや、帰宅部の俺よりは……」
「私のところ、部活は必須みたいな感じだったからね」
「うわー、俺のところもしそれだったら……どうしてたんだろう。何部入ったかな……」
「楓君なら、鉄道研究会?作ってそう」
「それはないよ」
「どうして?」
「いや、高校とかで、趣味とかそういうの話したことないからね。恥ずかしいことに、友人少ないから」
さすがに、高校時代の友人は、いなかったとは言えなかった。中学校もいなかったが……あっ、小学校も……あまり覚えてないけど、今、連絡先を、知ってる人……いないもんな。そもそも、小学校の頃とか、ほとんど覚えてない。
「……そうなんだ……昔と一緒だね」
「うん?昔と一緒って?」
「あ。うんん。独り言、独り言。そうか、そうかー、楓君は、静かな高校生活だったんだね」
「あ――うん。まあ、周りは、静かだったかな。ラノベとかは、すごく読めたよ」
「あ、それはそれで、楽しそう。なんか、私の周りは、グループ?いうのかな?なんか。みんな集まりたがって……あれ、疲れるんだ。周りに合わさないといけないから」
「……大変だね。それは、俺は、無理だわ」
「うん。でも、今はとっても楽しい」
「うん?」
「だって、楓君と話してても楽しいし。沙夜ちゃんと出かけるのも楽しいし。ムードメーカーの白塚君は、見てるだけで楽しいことしてくれるし」
「柊は、トラブルメーカーのような気もするけど」
「あ、ちょっとわかるかも。まあ、今がちょうど私はいいかなー」
「まあ、俺も、今は楽しいかな……いろいろあって、忙しいかもだけど」
「楓君いろいろと、引っ張られてるよね?」
「うん?」
「だって、沙夜ちゃんに連れて行かれたり」
「あ、はい」
「白塚君のお助け?に走って」
「宮町さんよく見てるね」
「よく大学でノート貸してるよね」
「観察力がすごいです」
話していると、気が付いたら半分くらい歩いたみたいだ。
2つ目のコンビニがいいところで、あったので、休憩。イートインのスペースもあったが、この時間は使えないらしく。立ち入り禁止になっていた。俺はホットコーヒー買い。宮町さんを待った。このコンビニでは、入るなり「ちょっと買いたいものあるから、ごめんねちょっと待ってて」と、宮町さん他の棚物色している。俺は入り口近くに居ても邪魔になるといけないので、外で待つことに。
少しして、宮町さんが買い物終えて出てきた。
「ごめんね。じゃ、行こうか」
「うん。欲しいものあった?」
「うん。最近のコンビニは何でもあるからねー、便利」
「だね、ほんと、探すと、大体のものあるんだよなー、こんなに小さいスペースに」
「緊急時助かるよね。あ」
「うん?どうしたの?」
「次は、中学生の楓君を聞かないと」
「宮町さんどんだけ、俺の過去知りたいの?なんか弱み握ろうとしてる?」
「ないない。知りたいだけだよー」
宮町さんを、待っている時に、スマホのアプリで、地図を見ていたら、ここからは、道なりに行くと。歩道がなくなるみたいで。線路沿いを歩いた方がよさそうだったので、線路沿いの方へ向かった。真っ暗かと思ったが、街灯がところどころにあったので、まだ、よかった。
「宮町さん、身体大丈夫?」
「うん。問題なし。元気だよ?楓君の過去知れて楽しいし」
「なんかおかしいけど、まあ、いいや。ちなみに、あそこが、
「もう少しかかると思ったけど、1時間くらい?で、歩いてきたね」
「まさか、歩いて帰って来るとは思わなかったけど……で、一番気になってるんだけど」
「何かな?」
「宮町さん、泊まろうとしてますよね?」
「もちろん。楓君は、こんな寒い中、追い出すような人じゃないからね」
「はははー。でも、宮町さんは、うちに、来たことあるから知ってると思うけど、2人が休むようなスペースは……」
「ベットは、あったよね?」
「あれ、1人用ですが」
「寒いから、一緒に寝れば、暖かいよ?」
「その考えはどこから出てきているのか」
「もしかしたら、楓君のお話聞いてたら、朝来るかもね」
「それはそれで、明日、いや、もう今日か。が、つらくなると思うよ」
「じゃ、やっぱり、仲良く寝るべきだね」
宮町さんが何を考えているかわかりません。はい。
田んぼ道を抜けていくと、やっと見覚えのある建物が。
「あっ、あれ、楓君のアパートじゃなかった?」
「そうだね。長かった……」
「早く温まらないとね」
1時間30分、40分くらい歩いてきただろうか。無事深夜1時半過ぎに帰宅できました。
もちろん、宮町さんいます。今からの方が、むしろいろいろ問題な気もするが……。
「とりあえず、荷物、適当に置いていいから」
「ありがと。あ、楓君、まず、シャワー借りていいかな?さっぱりしたくて……あと、温まりたいかな」
「えっと……まだ、部屋も温まってないから、それは、いいんだけど。宮町さん、着替えないよね?」
「楓君の服、上下だけ貸してほしいなー」
問題ありまくり見たいですが。どうやら、宮町さん先ほどのコンビニで、買えるものは買っていたみたい。緊急時ね。なるほど。
「服って、新品とか……ないけど、いい?」
「大丈夫、大丈夫。お風呂お借りしまーす」
「じゃ、服、出して、置いておくから」
「ありがと」
いいのかな……と、思いつつ。部屋の暖房付けてから、宮町さんに、貸す服出して、風呂のところに、って、普通に、ドア1枚向こうで、シャワー浴びている宮町さんがいるという現状。よし。忘れた。うん。物置いて、戻る。
――部屋が暖かくなってきた頃。
「ふー、温まった。服ありがと。あと、ごめんね。先にお風呂借りちゃって」
「あ――うん。問題ないけど……」
この光景はこの光景で、レア。前は、浴衣か。あれもすごかったが。普通に、自分の服着ている、風呂上がりの宮町さんが、部屋にいる光景。
「じゃ、じゃ――俺も、シャワー浴びてきます」
「いってらっしゃい」
風呂場に入ると、多分、いつもと同じなんだが。人の後に入るというのが、最近なかったからか……なんか変な感じ。というか。うん。余計なことは考えず。体洗って、温まったら出よう。よし。
しばらくして、部屋に戻ると、スマホをいじっている宮町さんが、普通にいる。
「あっ、おかえりー」
「あ――うん……」
「どうしたの楓君?」
「いや、なんか変な感じだなって、いつも1人だから、この部屋」
「あー、わかるかも、この前、沙夜ちゃん来た時、確かに、違和感みたいなのは、あったかなー。いつも夜は、1人なのにって」
それからすぐに寝るということはなかった。
理由は――。
「だめだよ。楓君も、ベットで寝るの」
「いや、狭いよ?」
「私だけぬくぬくで、楓君が床は、ダメだから、風邪ひくよ?」
どう寝るか。のバトルだった。まあ結局。この勝負宮町さんの勝ち。
以前に触れたと思うが、俺のところのベッドは2段でしたが収納スペースみたいになっているのだが……。
ほぼ密着、いや、少しは離れてますよ?と、なぜか宮町さんと同じ布団に入っている今。まあ、温かいのですが。
「いやー、楓君とこうして寝るとはね」
「宮町さんが押しに、押した気がします」
「まあ、楓君は安全だから」
「—―信頼はあるようで」
「あるある。なんか、楓君を抱き枕にしたらよく寝れそう」
「お願いだから、大人しく寝てください」
「はーい」
何だろうホント。ちょっと動くだけでも隣にいるのがわかるが。これ寝れるの?と、俺が思っていると、なんか背中の方では、すやすや、寝息が聞こえてきたような……マジですか。早い……今の今まで起きてなかった?
やっぱり歩いてきたのは、疲れたのか。宮町さんは、すでに、寝ている感じ。確認はできないが。今、そっと布団から出るという選択肢もある気がするが……多分バレたらめっちゃ怒られそうな気がするので……大人しくすることに。
ちょっと、気になり、宮町さんの方を、見てみると……結構近くに、居ました。はい。寝ます。
おやすみおなさい。はい。 寝ます。多分。寝れるかな……。
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