朝日の願い

雑食紺太郎

第1話

日が登るとともに、私は目を覚ました。


「もう、朝が来たのね。」


私は朝が嫌いだ。

もっと言えば朝に顔を出す太陽が嫌いだ。

どこもかしこも照らされて、陽を浴びている。

そんな光景を見ていると、息が詰まってしまう。


私、天乃神燈は代々続く天乃神家の跡取りであり一人娘なのだ。女系家族でもあり他家から婿養子を取り子孫を次世代へ繋ぐのだ。

そんな立場の私は、日々人前に立つ。

それも嫌と言うほど人前に立つ機会が多い。


ある時は、母のお付きで偉い人達への挨拶。

ある時は、名家の子供同士の交流会。

ある時は、名家の子息達とのお見合い。


来る日も、来る日も跡取りである責務が私の心を押し潰そうとする。

逃げ出したい気持ちもあった。

でも、逃げられなかった。母には逆らえない。


「はぁ……。」


全く、嫌気がさしてしまう。

弱い自分の心に、強くあろうと自身を偽る私に。


でも、しなければならない。


止めることはできない。


私の光を必要とする人達がいる限りは。


私は、人々を照らさなくてはいけないのだ。


あぁ、もっと普通な日々を過ごしてみたい。

もっと、和気藹々と友人達と笑い合いたい。


あぁ、もっと……。


「幸せを感じたかったわ。」


求めても、求める分だけ遠ざかる。

私は他のために己を犠牲にする。

望んでいないと分かっていながら、流されるがままに身を任せる。


照らす側ではなく、照らされたいのに。


そう、だから私は。


「朝が、嫌い。」


そう言った私の頬には涙が伝う。

拭うこともせず、朝日を眺める。


私はそっと目を閉じた。


今見た景色が、夢であることを願って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝日の願い 雑食紺太郎 @zasshoku_konntarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ