第 2 章 第一ユニバース:覚醒(2) 1978年5月6日(木)
木曜日の夜、僕はメグミに電話をした。「もしもし?メグミ?」「明彦?・・・宮部博士?」「そうだ、加藤博士。8年間、長かった。待っていたよ、加藤博士」「宮部博士、これがそうなの?」「そうだよ。これがわれわれの第三ユニバースからの転移だ。思い出せたかい?私たちの2010年までを?」「まだ、頭がいたいのよ」「無理もない、キミのあちら、あちらは第三だけど、あちらの39年間の記憶が、何テラバイトあるかわからない膨大な加藤恵美博士の記憶が、20才のこちらの類似体のキミに移植されたのだから」
「このメグミのアイデンティティーと私のアイデンティティーはどうなっているのかしら?」
「リーインカーネーションみたいな、輪廻転生みたいな状態にはなっていないから安心して欲しい。輪廻転生は別の人格に転移するようだから、類似体への転移とは違う。私の転移状態は、20才までの記憶がある部分では第三の記憶に置き換えられている。上書き保存みたいに。ある部分は別フォルダーに保存されていて、この第一の記憶が優先されている。どう選別したのかはわからないが、この体の脳が気に入る記憶は上書きされ、矛盾のある記憶は別フォルダー、という感じかな。幼少時からの性格形成は似たようなものだから、基本の性格はほぼ同じだ。しかし、知識体系は大いに違う」
「これからどうするの?」「明日、直接会おう。この第一は、今GWが終わるくらいだ。明日は金曜日だから、大学のゼミがあるんじゃないか?」「え~っと、そうね、ゼミが有るわね」「明日、ゼミが終わるのは何時だい?」「5時ぐらいかしら?」「じゃあ、お茶大に5時に迎えに行くよ。春日通りの付属高校の入口前に路駐しているから」「あら?車?」「そうそう、車。それから、ママには、金曜日の夜から日曜日まで友達の家に泊まるからとか、口実を考えておいて。着替えも持ってくるように」
「え?お泊り?エッチ、しちゃうの?火曜日までと違って、メグミは39才の加藤恵美でもあるわけで・・・」
「何を勘違いしているのだ。8年間、私が何もせずにさぼっていたわけじゃない。何かに手繰り寄せられて、心の声みたいなものを聞いて、1970年からいままで世界と日本で何があったか少しずつだが思いだしていた。われわれの活動資金を作っていた。ティーンエージャーが内緒で資金作りをするのは大変だったよ。ドルや株を買ったり売ったり。隠れ蓑の会社も設立した。事務所もある。研究所も有る。マンションも2つ、会社名義で購入した。金曜日から日曜日まで事務所やマンション、研究所をキミに紹介して見せて回るつもりだ。それで、これからどうするのかも説明しておこうと思っている」
「なぁ~んだ、そういうこと。ちょっと期待しちゃったのよね。39才の私がいるこの肉体は20才なわけでしょ?豊富な知識にこの若々しい肉体だから、かなりなことができると思って」
「わからなくもないよ。だけど、キミのほうがまだいい。私の場合なんて、39才の私が12才の男の子の肉体に宿ったんだぜ?豊富な知識が12才のチビに宿ったんだ、何もできなかったんだよ。最近になって、やっとそういう年令になったからマシになったのだけどね。だから、メグミの気分もわかる」
「う~ん、複雑。だって、あっちの第三では私たちはそういう関係じゃなかったんだから」
「ここじゃあ、状況が違う。第一、39年間の知識のある20才のメグミがこの世界の同年輩の男性とお付き合いできるか?この世界で、自分のことを隠して、結婚できるとでも思う?男の子ならいろいろと方法がある。風俗だって有るし、普通の女の子とキスしちゃポイッもできるけど、80年代の20才の女の子にはそれは難しい。まだまだ、18才前に処女を捨てちゃえ、とかの風潮までは一般的じゃないんだよ。結婚までは貞操を守る、というのが一般的だったんだから」
「あら、そういうことまでは考えられなかった。だけど、確かにそうね。だったら、このメグミって女の子は進んでたんだ。親友のボーイフレンドを誘惑して寝ちゃうんだから」
「そうだね。あっちの、第三のキミとはいささか違うようだよ。大胆なんだな。でも、欲しいものは欲しい!という基本人格は同じなような気がするよ」
「う~ん、基本人格の指摘は腑に落ちないけど、なんとなくわかった。そう考えると、この状態で誰かを愛して人並みに結婚することは難しいわね」
「だから、今は、メグミがお相手できる可能性があるのは私だけ、ということ。もちろん、キミ次第ではあるけどね」
「私次第なのね?明彦?だったら、もちろん、やりましょう!」
「まあ、いい。とにかく、明日、会ってからいろいろ話そう」
「わかったわ。宮部博士、じゃない、明彦。じゃあ明日」
A piece of rum raisin
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