逆鱗島のバーバリアン

闇塚 鍋太郎

The Barbarian's Essay

令和元年(平成31年) 春の章

第1打:法廷芝居

 帰宅後、デパートで買ってきた品々をおさめるべき場所におさめた。自由気儘の独り暮らしとは云うものの、生きてゆくためには各種の道具が要る。それらが結構な数になってしまうのだった。

 俺の場合、シンプルライフとは、不要な道具は極力持たない生活を意味する。人間関係も同じで、自分にとってプラスにならない人間とは接触しないようにしている。面倒や厄介を運んでくるのは、大抵、バカな他人である。

 歪んだ感覚の人間と関わると、こちらの感覚まで狂ってしまう。俺にはもう時間がないのだ。残された人生を有意義に過ごしたいと思う。


 収納後、屋根裏部屋に行き、日課の腕立て伏せをやった。浴室に行き、湯舟を磨いた。洗い立てのそれに温水を張り、入浴剤を溶かし込んだ。両足にシャワーを浴びせてから、おもむろに身を沈めた。

 浴室を出て、体を拭き、衣類を身に着けた。台所の電気ケトルにミネラル水を注いだ。沸き立ての湯で即席コーヒーを淹れた。あずき蒸しパンなるものを食べながら、熱いやつを飲んだ。

 食後、愛機を起動させた。セルバンテスに飛び、ユーザー登録を済ませた。その後、シャットダウン。弁当を食べてから、再び起動させた。今度はメクるを呼び出し、ブログの編集を始めた。題名は「大安に、天気雨を射た」になった。


 ダウン確認後、居室にウイスキーとミネラル水を持ち込み、晩酌を始めた。呑みながら、池波正太郎の『江戸の味を食べたくなって』(新潮文庫)を再読した。同書収録の「江戸の味、東京の粋」は何回読んでも面白い。自分とはまったく無縁の世界ゆえに、かえって、興味を刺激されるのだろう。


 洗面所に行き、歯を磨いた。居室に戻り、円盤(DVD)再生機の中に原作大岡昇平、監督野村芳太郎の『事件』を滑り込ませた。1978年に公開されたもの。二回目の鑑賞だが、前回の記憶はほとんど消え去っており、まるで、初めて観るかのような感覚を覚えた。

 贅沢な配役が、野村映画最大の魅力ではないかと俺は考えている。同映画も然りである。弁護士に丹波哲郎が、検事に芦田伸介が、裁判官に佐分利信が扮している。まさに鉄壁の布陣と云える。

 この作品、内容的にはあまり好きになれないが、今は亡き名優怪優たちが展開する迫真の演技合戦が堪能できるだけでも、借り賃の価値は充分にある。映像特典の「渡瀬恒彦インタビュー」もまことに貴重である。〔3月17日〕

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