第41話 遊園地初体験の天才たち

 やって来たのは、ビルの中にある遊園地だった。だが、その中にある遊具はジェットコースターにメリーゴーラウンドにコーヒーカップなどなど、昔から定番としてあるものばかりだ。

「凄い色んな音がするね」

「子どもより大人の方が多いな」

 そんな場所にやって来た、天才児としてずっと大学で生きてきた男たちは、初めて目にするものばかりで圧倒されている。

「まず、何から乗るんだ?」

 取り敢えず落ち込みから復活したらしい礼詞に、暁良は乗りたいやつはあるのかと訊いてみる。すると、嫌がる素振りもなくあれと何かを指差した。

「ん?」

 見てみると、看板には海賊船の文字。でもってその乗り物は、大きな船の乗り物が前後に大きく揺れるというもの。

「あれでいいのか」

「ええっと、うん」

 礼詞は何だか恥ずかしそうだ。それに路人は面白い表情だと笑っている。

「船に興味があるんだ」

「ああ、うん、まあ、機会があれば、乗ってみたい」

 この真面目男が工学以外に興味を持っているのを初めて知った。路人はいいねと頷く。

「船だけはレトロなままだからな。俺も乗ってみたい」

 そしてそう付け加えた。船ってレトロなのか。まあ、自動運転になったり空を飛んだりする車に比べれば、形状も走行方法も昔のままだが。

「あれは海を進むわけじゃないけど、まあ、乗ろう」

 ということで、最初は海賊船に乗り込むことになる。そして、暁良は楽しませてやろうと、その二人を船の先端に誘導。一番振れ幅の大きな席にまんまと座らせることに成功した。

「では、しゅっぱ~つ」

 ハイテンションな女性の声でスタートした船は、最初はゆらゆらと揺らめくだけだ。

「船の揺れってこんな感じかな」

「どうだろうな」

 二人はこれが絶叫系のマシンであることをマジで知らないらしい。そんな会話が聞こえてきて、暁良は思わずにししっと笑ってしまう。

 やがて揺れが大きくなり、ぐわんっと船が垂直に近く揺れ上がる。

「ぎゃあああ」

「めっちゃ揺れる!」

 初体験の大人二人は大絶叫だ。

「ひゃっほう」

 一方、何度か経験している暁良は両手を挙げて揺れを堪能。

「あ、暁良、危ない」

「安全ベルトしてるだろ」

「だ、だけど」

「ぐぅ」

 わたわたと注意する路人と、明らかに乗り物酔いを催す礼詞だ。その反応だけでも暁良は面白い。

 こうしてしばらく海賊船に揺られ続け――

「だ、大丈夫か」

「大丈夫」

 降りた時には大人二人はぐったりしていた。ああ、本当に遊び慣れていないんだなと、その状態で暁良は理解する。と同時に、勉強以外だとこんなに普通の反応するんだと、それにもびっくりだった。

「一回休憩するか、そんなにハードじゃない乗り物に乗ろう」

 暁良の提案に

「あ、あれは大丈夫だよね」

 と路人が指差したのはコーヒーカップだ。全く以て大丈夫じゃない。

「あれは後で。そうだな」

 仕方ない。この二人に任せていたら遊園地を堪能する前に潰れる。暁良は入り口でゲットしていた見取り図を広げた。そして、上の階にゲームセンターがあることに気づく。

「取り敢えず、簡単なゲームをやろうぜ。その後にコーヒーカップに乗ろう」

「解った」

「あ、ああ」

 こうして一先ずゲームセンターに向ったのだが

「おおっ、凄い音だ」

「あっ、景品がクマさんぬいぐるみだ!」

 耳を塞ぐ礼詞とUFOキャッチャーの景品に目を輝かせる路人と、ここでも対照的な反応をしてくれるのだった。

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