第40話 路人も認めるヤバさ

「み、路人」

 ともかく何かを言わなきゃ。その義務感で暁良は声を出す。

「何やってるんだ、こんなところで。勝負の最中なんだから、気軽に研究室に来るなよ」

 しかし、路人は暁良を見ることなく、礼詞に向ってそんな言葉を投げつける。

 やめろ、これ以上その人を奈落に落とすな!

 三人は心の中で悲鳴を上げた。

「勝負・・・・・・なんて、出来るはずない」

 そして礼詞からぽつりと呟かれる言葉。それに路人は器用に片方の眉だけ吊り上げる。

「出来るはずがない、だと」

「そうだよ。俺は負けているんだ。何も出来ない」

 下を向いたまま、礼詞はぽつりと零す。

「・・・・・・」

 路人はそこでようやく、この人は大丈夫なのかという顔で暁良たちを見た。おかげで三人は揃ってダメですと首を横に振る。

「ったく、なんでこうなるんだよ」

 で、路人もヤバい自体に陥っているとようやく認め、頭をがしがしと掻き毟った。問題を解決しようとしているはずなのに複雑化している。そこにやっと気づいたのだ。

 互いに出来ないところに気づき、そしてもう一度考える努力をしよう。それが路人の作戦だったわけだが、自信喪失中の礼詞にはそのガッツがまずなかった。果たし状を突きつけられ、ついに見捨てられるんだと絶望してしまっている。

「だって、俺」

「ちょっと来い。ああ、暁良も来て」

「いや、なんで俺だけ指名するんだ」

 まだまだ落ち込んでいきそうな礼詞の腕を引っ張り、ついで暁良を手招きする路人だ。暁良は抗議の声を上げたが、翔摩と佑弥に背中を押され、行ってこいと放り出される。

 あいつら、裏切りやがって。

 暁良が後ろを睨むと、二人は頼んだぞと手を合せてきた。ったく、丸投げかよ。

「どうするんだ?」

 しかし、路人が動いてくれるのは非常に助かるので、暁良は付き合うしかない。路人は礼詞を引っ張りながら

「気分転換だ。暁良、この辺で思いっきり気分が変わりそうなところってないか?」

 と訊いてくる。

 まさかの強制的な気分転換とは。暁良はびっくりしたが

「それって何でもいいのか?」

 とスマホを取り出しながら訊く。

「出来ればアミューズメントパーク的なやつ」

 それに対し、路人はそんな注文をつけてくる。わおっ、路人からアミューズメントパークなんて言葉が出ることがあるんだ。そこにビックリした。

 この男、サボることはしょっちゅうだし余計なことはいっぱいやるし、クマさんぬいぐるみ愛好家だが、そういうところとは縁が無い。だから、行くという発想になること自体がびっくりだった。

「遊園地でいいのか」

「素晴らしいね」

「ほう」

 呆然とする礼詞を引っ立てながら、遊園地案が素晴らしいという路人。もはやカオスだ。暁良は呆れつつもスマホで検索。ちょっと離れた位置になるが、大きなテーマパークがあることが解った。ホームページを見てみると、昔ながらの乗り物が多いことも解る。

「ここでいいか」

「いいね」

「で、何をしようっていうんだ」

 男三人で遊園地って。しかも一人は項垂れているのに。暁良が呆れ返っていると

「そりゃあもちろん、童心に返るんだよ」

 路人はにやっと笑ってそう言い放ったのだった。

 

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