第35話 裏で手を組もう

「どうしてこうなったと思う?」

「いや、俺に聞かれてもね」

 路人の研究室。そこで決闘の準備に追われる暁良は、同じく準備に追われる翔摩にそう訊いていた。やはり何かと納得できない。

「まあ、百歩譲って対決はいいと思うよ。それで互いのわだかまりが消えるんだったらさ。時には殴り合うことも必要だとは思うよ」

「どこの世界の話だ?」

「まんが」

 そうか。こいつも普通の世界をあまり知らないんだったなと、暁良は面倒臭くなる。

 どうも、この大学では高校までのようにあっさり会話が繋がることが少ない。優秀者ばかりというのも問題だ。

「で、それはいいとして、ぶつかるってのは、人間関係の捩れの解決になることがあるんだよ」

「なるほど。たしかに今のままでは、互いの誤解を解けないからな」

「だろ? しかしそれがどうして、見合いまで絡んでくるわけ?」

「さあ」

 翔摩だって、何がどうなっているのか教えてもらいたいところだ。この茶色に塗装しておけと命じられた物体も謎だ。

 そう。準備とはロボットの準備だ。もちろん、メインの部分は路人がやっている。二人はその手伝いをするだけだ。ただいま、ボディを塗装中。

「これ? クマさん型ロボットだから茶色」

 前から作っていたから、そうだとは知っていたが、まさか対決もクマさん型ロボットで行くのかと、翔摩は思わず作業の手を止めてしまう。

「あそこに置いてある、可愛いクマがモデルね」

「なるほど。あの色に近づければいいのか」

 研究室の隅にで~んと置かれた大きなクマのぬいぐるみ。よく路人がお昼寝に使っているやつだ。そしてそれは、和解の印として穂波から送られたものでもある。

「蝶ネクタイしてるけど、それも再現するつもりなのかな」

「ここにそのパーツがある」

「本当だ。これは――赤色か」

 そんな確認をしつつ、作業再開。が、すぐに頭の中には疑問がよぎる。

「やっぱり、何もかもがおかしい」

「そうだな。俺たちの気づいていない、何かがあるんだろう」

「だよな」

 不毛な会話とはこういうことを言うんだろうなと、暁良はふと気づいた。これってどう頑張っても結論が出ない。

「おい」

 そこに、道場破りのように研究室に入ってくる奴がいた。問題の発端の一人でもある佑弥だ。

「何だ? 偵察ならばお断りだぞ」

「しねえよ。つうか、お手伝いクマさんロボットって何だ?」

「知らん」

 佑弥の質問には答える気のない暁良だ。まったく、次から次へと面倒臭い。

「って、訊きたいのはそこではない。何がどうなっているんだ? いつの間に一色先生と対決なんて話になったんだ? こっちは日々赤松先生がフリーズして困っているというのに」

 コンピュータみたいに言うなよと思ったが、事実なのだろう。この間もものの見事にフリーズしていた。常識人の礼詞の理解できる範囲を超えているのだ。

「全部、路人のせいに決まっているだろ」

「やはりか。あの変人」

 佑弥は苦々しそうに言う。変人は俺も認めると、暁良も思わず頷いてしまった。

「変人なんだよね。こっちの理解も超えてくれる」

「ということは、この対決の理由を知らされていないのか?」

「いや、ある程度は知っている」

 仕方ないなと、蝶ネクタイ型をしている鉄板を赤く塗りながら、暁良は手短に対決までの流れを説明しておいた。

「ややこしいな。いつの間に見合いまで絡んでいるんだ?」

「今、俺たちも同じ問題に直面している」

 佑弥も凡人側で助かったと、ちょっと安心する暁良だ。やはり路人と礼詞が突出しておかしい。

「それで解決するのか?」

「らしいよ。路人曰く、お嬢様は赤松を選ぶか、もしくはどちらも選ばないという結論になるらしい」

「いや、それは都合良く自分を抜いているだけだろ」

 さすが、そこにはあっさり気づいたかと、暁良も同意見なので頷く。

「あいつは結婚なんてしたくない奴だからな。まっ、それは母親の方も理解してるじゃん。だから赤松に振ったわけだし」

「そうだな。赤松先生はいつもあの男の被害者だ」

「たしかに」

 そこはフォローする気のない暁良である。翔摩がおいっという顔をしたが、事実なので声に出さないくらいに被害者なのは解っている。

「というわけで、ロボットは作るしかないぞ。そっちは何にするのか決まったのか?」

「いいや」

「その割に、一ヶ月後という日程だけは設定してるよな」

「そういう人だ。スケジュールが決まっていないと動けない」

 へ、偏屈と、暁良は仰け反った。面倒な性格だ。

「それより、裏側で俺たちは協力しないか?」

「へっ?」

 佑弥がこそっとそんなことを言い出すので、暁良と翔摩は顔を見合わせる。

「正直、一色に任せておくのは不安だ」

「まあね」

「協力しよう」

「まあ、解決するならば」

 二人では知恵が足りないのも事実。三人寄れば文殊の知恵ともいう。しかし、なんだか余計な要素が増えただけの気もするけどと、そう思いながらも、暁良はその申し出を受け入れることにした。

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