第34話 果たし合い!?
「というわけで、決闘を申し込む」
「――」
あまりに唐突な果たし状を受け取り、礼詞はものの見事に固まっていた。
それを横で見ている暁良は当然、額を押さえて頭痛と戦っていた。
だからどうしてそうなる? と、真顔の路人にツッコミたい。
「いいか? 互いに頼っている部分を改めなければならない。そのために、ロボット開発対決を行う」
「――」
いや、どうして互いに頼っている部分を改めるために、ロボット対決?
全く以て意味不明だ。暁良は固まっている礼詞をちらっと見た。まだ、脳みそが再起動していないらしい。果たし状と毛筆で書かれた手紙を握ったままだ。
「俺はお手伝いクマさんロボで戦いを挑む。こちらはある程度の大枠は出来ているから、期限はそっちが設定していい」
「あ、あのさ」
暁良が一度ストップを掛けるべきかと声を上げた時
「お前は」
礼詞が小さく呟くのが聞こえた。そこで二人の視線は礼詞へと集まる。
「お前は、どうしてそうなんだ! なぜ解らない?」
その礼詞は、唐突にブチ切れた。今まで腹の中に溜めていたあれこれが、今の一言に集約されたらしい。
「解らない? 解らず屋はそっちだろ?」
で、路人。火に油を注ぐようなことを言う。当然、礼詞はブチ切れモードへと突入した。
「何だと? いつもいつも好き勝手しやがって。そういうお前を、周囲は全力でサポートしてきたんだ。それなのに」
「はあ? サポートしてなんて頼んでないね。あそこで切ってくれれば楽だったのに、ああだこうだと言っちゃって。技術省なんて立ち上げるんだったら、自分たちで責任取ってやりなよね。俺はね。こんな堅っ苦しい場所なんて真っ平なんだよ。出来ないことばっかりなの。必死なの。お解り?」
「――」
路人に怒鳴り返され、礼詞の怒りは急ブレーキをかけることになった。そして、値踏みするかのように路人の顔を見る。
「何だよ?」
「お前が必死?」
「そうだよ」
「出来ないこと?」
「出来ないじゃん。俺の脳みそ、具体化って段階がきれいさっぱり抜けているもん」
「そうだが……」
おやっと、暁良は予想外の効果をもたらしたらしい果たし状に、こちらも冷静になる。どうやら、蟠りの核心に、自然と触れたらしい。
「お前はさ。出来ないことを並び立てても仕方ないんだよ。あと、山名先生を全面的に信じるのも止めた方がいい」
「それはおかしい」
「ふんっ。潰されそうになって、理解したと思ったんだが。ストレスなんだよね。出来たって、それは望んでやっていることじゃないの」
ずびしっと言い切る路人に、礼詞は何かが落ちたかのように、椅子に深く座ってしまう。一体なんだったんだと、そのまま頭を抱え始めた。
「ロボット対決はやってもらうからな」
「いや、今ので解決じゃないのか?」
「根本的な解決になっていないだろっ!」
もうよせという暁良を、路人はあり得ないねと一蹴した。まったく、言い出したら聞かないから困ったものだ。
「いいかい? これは全体的な構造を変える上にも必要だ」
「へっ?」
いつもいつも、急に教授モードに入るのは止めてもらいたいものだ。この天才様は自由な部分と責任感が混然一体としている。
「このままでは互いに限界が来る。それがはっきりした今こそ叩き時だ。訳の分からん見合い話も、どうにか出来るかもしれんからな」
「ほう」
お前の頭の中はに何がどう繋がっているんだと、暁良は妙に抜けた返事をするしかない。
「見合い。そうだ。穂乃花さん」
礼詞がぴくりと反応する。それに、何事だと暁良が訊こうとした時――
「面白いですわね」
「!?」
その穂乃花の声がした。入り口を見ると、にっこりと微笑む穂乃花の姿があった。デートの約束だったのかと、暁良は礼詞と穂乃花を見るしかない。
「よろしいのではないですか? 私としても、お二人の実力をちゃんと知りたいです」
「ふん。勝手に介入するなと言いたいところだが、君に協力してもらった方が早そうだな」
「でしょ?」
固まる礼詞を放置し、路人が穂乃花に向き合った。やはり、路人の方がお似合いなのではと、暁良は思わなくもない。
「君が全員に声をかけてくれると」
「ええ。でも、お二人が素晴らしいことを証明するだけになると思いますけど」
「ふんっ」
自信満々な穂乃花に、路人は気にくわないと鼻を鳴らす。が、抗議はしなかった。たぶん、そこは変化しないと解っているのだろう。
「けれども、役割分担をはっきりさせるというのは重要です。そうすることで、路人さんも、今後は逃げようなんて思わないでしょうしね。礼詞さんに迷惑を掛けないで済むということです」
「あ、あの」
礼詞がどういうことかと声を上げたが、穂乃花のにっこりと華やかに笑う笑顔に遮られた。
「私がどっちと結婚するかも、その対決次第となりますわ」
「望むところだ。君は確実に赤松を選ぶことになる。もしくは、どちらも選ばないだ」
「ふふっ」
結局誰と果し合いがしたいんだと、暁良はこの展開に心の中で大絶叫するのだった。
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