第12話 あの逃走は何だったんだ?
問題を整理しようと、言い出したのは楽しんでいた穂波だった。このままでは多くの無駄が発生すると、ようやく気づいたのである。
暁良としては、ともかく一人でもまともに思考する人がいてよかったと、ちょっと安心した。
が、相変わらず路人は蚊帳の外。今回も路人が講義で絶対に教室から出てこない時間を使って作戦会議となった。
メンバーはいつもどおり。紀章に礼詞、それに佑弥。そして暁良と翔摩、さらに今回から参戦の瑛真、議長の穂波だ。
「まさかそんなことになっていたなんてね」
これは今まで何をこそこそやっているのだろうと思っていた瑛真の感想だ。
たしかにざっと話を聞かされてみると、ややこしい事態になっていることがよく解る。
「問題点は二つだ。赤松の研究室で起こっている盗難事件。そして路人の縁談。盗難事件は誰かがメッセージとしてやっていると結論づけられる。問題は路人だ」
穂波は穗乃花が完全に路人にしか興味がないと聞かされ、より面白くなったと思っていた。そうでなければ、あの厄介な息子を選ばないだろうとも思える。
「路人が恋愛に興味がないのは、はっきりしているぜ。面倒だと言い切っていた」
暁良はこの間の会議でのことを話す。すると紀章が頭を抱えた。
「恋愛に興味がないということは、絶対に結婚なんて考えていないということだ。つまり、縁談を本人に話せばより厄介になるということだな」
「そうっすね」
もうどうでもいいよと、暁良は思わなくもない。そもそも路人に惚れた穗乃花が悪いのだ。こうやって大人たちが寄って集っていいか悪いか言い合っているのが間違っている。
「でも、どうして路人さんなんでしょう。彼はここ一年半、表舞台から遠のいていたんですよ。大学側がどれだけ上手く隠していたとはいえ、科学技術省の立ち上げに携わっている人たちが知らないはずないですよね」
瑛真の疑問に、たしかにと紀章も穂波も頷いた。
あの騒動、すでに解決したから忘れそうになるが、路人はここ一年半の間、責任放棄のうえに大学から逃走。呑気に何でも屋さんをやっていたのだ。
その何でも屋さんは瑛真が紀章から頼まれ、路人に納得させる形でやらしていたものだ。路人もそれには気づいていたが、自由に過ごせるならばと引き受けていたところがある。完全に切れてはいないのだが、それでも会議などの公の場にはいなかったことに変わりはない。
「あれのせいで、路人は変わってしまった」
礼詞が深々と溜め息を吐いて零すが、それは全員が無視した。今の路人が素だと、誰もが知っているせいだ。
「そうか。もし完璧な旦那を求めるとすれば、路人はよくないはずだな。ううん、しかしその後の会議は完璧にこなしていたし、路人がいたから話がまとまったと思っている政治家も多い。一年半の逃走なんてどうでもいいと思われているのかも」
紀章は別の意味で悩む。
路人の困ったところ。それは本心を完璧に隠せることだ。あののほほん顔に騙されてはいけない。そして、完璧な科学者としての顔にも騙されてはいけない。どちらも路人の一面であり、さらに本質の一部でもあるのだ。
「今までの功績もあるからな。本人は認めたくないようだが、路人の研究の素晴らしさは内外に知られていることだ。まったく、あの逃走は何だったんだ?」
穂波はよく解らないんだよなと、今更そんなことを言い出す。
暁良としては逃走していたところからしか知らないから、その科学者として素晴らしい路人が解らない。
科学者狩りをしていた暁良が、たまたま科学者狩りを狩っていた路人と出会ったのは去年の九月。そこからの半年は怒濤だったなと、懐かしむ余裕もないものだった。
詳しくは第一部にあたるところに書かれてますよと、無駄な補足も付けてしまうほどだ。
「そこを路人に聞けばいいだろう。科学者狩りを解決したところで問題を終わらせるから、こういうことになった時に路人の真意が解らないんだ」
暁良がそうぼやくと、全員の視線が暁良に集まった。
あ、やべっ、考え事をしていたせいで墓穴を掘ったと、すぐに気づくが取り消し不能だ。
「そうだ。そもそも路人を再定義しなければ、俺たちは行動を見誤る。暁良、当然、それはお前が聞き出してくれるんだろう」
期待を込めて紀章が見つめてくる。いや、じぶんでやれよと暁良は心の中だけで思う。口に出しても無駄であることは、もう嫌と言うほど経験していた。
それに再定義ってなんだよ。お前らが勝手な定義を当てはめていただけだろうと思うも、こちらも口にしない。
「そうだな。俺たちがお嬢様の惚れる点を理解していないだけかもしれない。これは盲点だった」
よりによって礼詞までそんなことを言う。
「――やればいいんでしょ」
まあ、あの一連のことがなんだったのか。それを知るのは悪くない。
暁良は路人の本心を聞き出す役目を引き受けるのだった。
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