第4話

 弟と取り巻きたちは何をしたのか。私にはその考え方がさっぱり理解できないのだが、姫を破落戸ごろつきに襲わせ、そこを弟が颯爽と助けに現れれば、きっと私よりも素晴らしい人物であることに気付くだろう、と考えたらしい。

 穴がありすぎるその計画は、当然ながら簡単に頓挫した。一国の姫の警護が彼らが繋ぎをつけられる程度の破落戸に負ける筈もない。反対に計画を察知し、囮を用意してそちらを襲わせ、連れ込んだ先、隠れ家の別室で待機していた弟や取り巻きごと一網打尽となった。


 弟と取り巻き達はそれぞれ相手が悪いと主張した。弟はあいつらが勝手にやった、自分はなにも知らない、あの場には奴らに連れていかれただけだと。取り巻き達は最初は否認していたものの、減刑を仄めかせた途端に次々と供述。弟の為にやった、勿論弟も全て承知の上計画だと。


 破落戸共は言うまでもなく極刑なのでどうでもいいが、彼らの処分に私と当時の忠臣達は頭を悩ませた。まず取り巻きのほとんどは下級貴族の次男三男だったため、貴族籍からの抹消で済んだのだが、中にひとり騎士団長の息子が混じっていたのが問題だった。


 取り巻きの中で一番地位が高く侯爵家嫡男。他の取り巻き達が言うには元々彼が計画を立案したのだという。厳しい取り調べの末、自供により判明した衝撃の事実。ここ数十年平和な時代が続き、騎士団の権力は小さかった。そこで密かに彼の父である騎士団長は、息子に頭の弱そうな弟を操って上手く王太子たる私を排除、弟に王位を継がせ、軍事国家へと舵切りを取らせようと目論んでいた事が判明したのだ。


 彼の中では姫を誘拐、助けに来た私をどさくさに紛れて殺害または再起不能にし、その後弟に助けさせる予定だったらしい。所詮は世間を知らない子供の計画で杜撰としか言いようがないが、彼の中では完璧で何故失敗したのかわからず相当ショックだと言っていたらしい。


 そんな経緯で騎士団長の国家転覆を最終目的とした計画が判明したのも皆が頭を抱える要因のひとつだが、一番困ったのはやはり弟の処遇だった。本人が直接指示した訳ではなかったが、他国の王族の誘拐計画に携わった、という事実からは逃れられない。

 動機がどうであれ、未遂とはいえ他国の王族に対して計画実行した以上、良くて生涯幽閉、大抵は毒杯か蟄居後に病死になるだろう。それは如何に彼らが騒ごうとも覆らない。


 ひとりの男としては、愛する姫を害そうとしたというだけで全員殺してやりたいが、王太子として私情で刑を課すわけには行かない。そればかりか国のためであれば司法取引すら行い減刑しなければならない。


 だが、そんな中私情まみれで無理を通そうとする輩が一人居た。母だ。

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