第二話・我が名は【サカナカナ・セーラー】この体、とくと熟視するが良い

 田園の下に密かに建造された『YMG─T』本部──怪獣出現時には、田んぼが上昇して『YMG─T』本部が現れ。

 戦闘機や戦車やなんやらが、迷惑に出撃していく。


 その本部の通路で、制服姿の坂名 香菜は隊長の『ウタガイ ユキ』から、壁ドン状態で尋問に近い質問を浴びせられていた。

「白状しなさい、あなたが人類の危機が迫った時に現れる。裸の巨人なんでしょう」


 美人の女性隊長から、顔をそむけて答える香菜。

「知りません、裸の巨人なんて」

「質問に答える時は、相手の目を見て答えなさい……前任の男性隊長が言っていた『こういった怪獣退治チームの隊員の中には、必ず一人は巨大ヒーローに変身できる隊員が隠れているって』白状しなさい……あなたが、裸の変態巨大ヒロインなんでしょう」


「違います!」

「じゃあ、なんで怪獣が現れると一人だけ、現場から不自然に姿を消すの?」

「それは、緊張するとお腹が痛くなって、トイレに駆け込みたくなるから」

「ふ~ん、トイレねぇ……まっ、いいわ。近いうちに化けの皮を剥いでやるから」


 そう言い残して

ウタガイは去っていった。

 香菜は、与えられた自分の部屋に駆け込むと、ウタガイの手で盗聴器や監視カメラの類が設置されていないか確認してから、ベットにうつ伏せで倒れ込んだ。

「もうイヤっ! どうして、あたしがこんな目に!」

 香菜の脳内で、体の中に入る宇宙人との会話がはじまる。

『よくぞ、ワレと香菜の関係を悟られなかったな……下等生物ながら、あっぱれだ』

 香菜の頭の中には、女性型のヒューマン宇宙人が住み着いていた。

 アーモンド型の目をしていて、耳が尖ったエルフ耳である限りは人間と変わらない。

 ただ、その体は百均で売られている商品のような、パステルカラーの模様で色分けされている。


 彼女の名前は『ニー・ガッタ』遠い星から、ある目的を持って地球にやって来た憑依型宇宙人だった。

 香菜が言った。

「体の中に宇宙人が入っているなんて知られたら、解剖や生体実験されちゃいますよ……この組織には、そういうのが大好きな危ない科学者もいるんですから」


 香菜はニー・ガッタに過去に、チームへの協力を申し出てきた、平和的な子供の宇宙人が解剖されてしまったコトをニー・ガッタに伝えた。

 香菜の話しを聞いた、ニー・ガッタが言った。

『心配ない、細胞の遺伝子レベルにまで、香菜が解剖解析されても──ワレと香菜の関係を証明できるモノは何も出てこない』


「そういう問題じゃなくて……どうして、怪獣に踏み潰されてペッシャンコになっていた、あたしを生き返らせてくれたんですか? 感謝はしていますけれど」

『感謝せよ、下等生物……特に深い理由はない、風船のように膨らんで生き返る香菜の姿を見たかっただけだ』

 香菜は脳内で会話している、レトロな戦隊シリーズに登場するキャラクターのミスア〇リカみたいな顔をしている、ニー・ガッタの顔を凝視しながら訊ねた。


「だいたい、なんの目的があって、この地球にやって来たんですか?」

『知りたいか、下等生物』

「その、上から目線の言い方は気に入りませんが、教えてください」

『いいだろう、教えてやろう……ワレはこの星が【侵略するのにふさわしい星か】調査して母星に報告するために、やって来た』


 衝撃の事実を知ってしまい、驚く香菜。

「な、侵略者⁉」

『ワレに畏怖したか下等生物……心配するでない、母星には侵略するに値しないサル文明レベルの、辺境の無価値惑星と報告しておいた……ワレはこの星の人間が気に入った〝ペット〟として』


「地球人がペット?」

『ワレの夢は、地球人専門の宇宙ペットショップを開くことだ……爬虫類専門のペットショップみたいに、その未来に商品となる人類を、殺したり食べたりする怪獣や、地球を植民地化して使役に使おうとする宇宙人は許さぬ』


 ニー・ガッタは、自己利益目的で人類を守っていた。

 香菜はさらにニー・ガッタに質問する。

「そのニー・ガッタって名前……新潟と混同しやすいですね? なんとか改名できませんか?」

『無礼な、新潟は関東だ! 愚弄すると許さぬぞ』

「日本海に面した県を関東と言い張るのは、ちょっと……だったら、新潟の名物、言ってみてください」

『〝いぶりがっこ〟とか』

「それ、秋田……本当は新潟のコト、何も知らないんじゃ」

『知っておるわ! あの赤いの……確か名前は、えーと』


 その時、『YMG─T』本部に警報が鳴り響き怪獣出現と、香菜の出撃指示を伝えるアナウンスが聞こえた。

〈怪獣出現! 阪名 香菜隊員【メカ・ムスメ】に搭乗して出撃お願いします〉

 ニー・ガッタが助かったという感じで言った。

『香菜、怪獣と闘う時はワレの意識が戦闘意識で優先する、何も心配はないぞ』

「変身している間は、あたしの意識は体の奥から状況を観察しているような、あの感じにまたなるんですか」


 香菜が続けて言った。

「そろそろ、巨大化後の正式名を決めてくれませんか……子供から【変態巨大裸女】って言われるの、もうイヤなんです」

『そうか、ならば【サカナカナ・セーラー】が良かろう』

「セーラー服やブルマなんて今は絶滅種ですよ、セーラーよりもブレ……」

 アーモンド型の目をさらに吊り上げて、香菜の言葉をさえぎるニー・ガッタ。

『セーラーだ! こちらにも大人の事情があるのだ! 異論は認めぬ! さっさと出撃しろ下等生物』

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