『脅威ふたたび』後夜

【ファジー《fuzzy》】──続発する怪獣少女出現に対処するために政府が設立した、対怪獣少女&異星人少女組織。

 時には怪獣や宇宙人を倒してみたり、時には怪獣や宇宙人を保護してみたりの臨機応変な対処をする。


 四角すいを逆さにしたようなファジー本部──その通路で、ファジーの女性隊員が上司の男性隊員から、ハラスメントを受けていた。


 帰宅する女性隊員に壁ドンした、男性隊員が言った。

「白状しろ……おまえが巨大ヒロインなんだろう」

「ちがいます! あたし、光りの巨人とは無関係です」

「ウソをつくな、おまえ怪獣が出現した現場に到着すると、すぐに居なくなるじゃないか……変身して、でっかくなっているんじゃないのか……オレだけに本当のコトを教えろよ」

「あれは、怪獣を目の前にすると緊張してお腹が痛くなってトイレに……あっ! なに人のバックの中身を物色しているんですか!?」


 男性隊員は、女性隊員のバックの中から銀色に輝く、棒状の物体を見つけて取り出した。

「これはなんだ? マッサージの道具か?」

 なぜか、顔を赤らめる女性隊員。

「知りません、いつの間にかバックの中に入っていました」

「ふ~ん、本当はこうする道具じゃないのか」

 男性隊員は何も考えずに、棒状の金属物体を頭上に掲げてスイッチを押した。

 閃光フラッシュが周囲を包む、両目を押さえて悲鳴を発する女性隊員。

「目がっ! 目がぁ!」

 男性隊員の衣服が千切れ、光りの中から裸の男がファジー本部の建物を突き破って現れる。

 裸の巨人化した男性隊員も、片手で股間を隠し、もう一方の手で両目を押さえながら。

「目が! 目がぁぁ!」

 と、悲鳴を発っしている。


 その様子を、瓦礫がれきの陰から見ている、裸体に銀色のマントを着たような、糸目の温和そうな女性が呟いた。

「おやおや、やっぱり『タマタの乳』の提案はダメでしたね……地球人に変身グッズを渡せば、無条件で巨大ヒロインに変身して怪獣少女と戦ってはくれないようです……」

 糸目女性の体には、赤い模様があるので裸ではない。


「やはり、不肖ふしょう息子の『タマタマン』に頼んで、サカナカナを復活してもらわないとダメみたいですね……うふっ、裸じゃありません。こういう模様なんです」

 そう言って額にサイの角がある『タマタの母』は、銀色のマントをひるがえして、去って行った。


【タマタ星】──膝抱え座りをして。額にサイの角を生やして、アーモンド型の目で。

 のっぺりとした顔の、銀色のヒーローもどき『タマタマン』は、ふて腐れた感じで『タマタの乳』と、『タマタの母』の話しを聞き終わったタマタマンが言った。

「つまり、オレに僻地へきちの田舎星……地球に、もう一度行ってサカナカナを巨大ヒロインに変えろってコトか」


 巨乳女性姿のタマタの乳が言った。

「不肖な息子のおまえの頭でも、理解できたようだな……怪獣が活動期に入った、やつらは人間の少女と融合して暴れている……自衛隊は少女に攻撃をすると非難されるからな、怪獣たちも学習している」


「しゃあねぇな……地球には人間に化けたダチの宇宙人もいるから、行ってやらあ……カナは、巨大ヒロインの力を失った時に、巨大ヒロインだった時の記憶を失って、今は普通の女子高校生やっているがな……ところで」


 立ち上がったタマタマンは、タマタの乳とタマタの母を指差して言った。

「お袋が人間の女の姿をしているのはわかる、親父のその巨乳姉ちゃんの姿はなんなんだ?」


 タマタの乳は、巨乳を両手で持ち上げて、乳誇示をする。

「すごいだろう、地球ではTS〔性転換〕モノが人気だと聞いてな……一度やってみたかった、どうだ似合うか?」

「気色わりぃよ」



 地球の公園ベンチ──女子高校生の『阪名 華奈サカナカナ』は、クレープ屋車両の近くにあるベンチに座って、アイスクレープを食べていた。

「う~ん、このチーズアイスクレープ最高、おいしい♪」

 華奈がクレープを食べていると、チョコレートアイスクレープを持った一人の女性が華奈の隣に座り深いタメ息を漏らした。

「はぁ……ファジー本部、いきなり巨大化した上司のアポのせいで、半壊して今は公園の狭いプレハブ小屋が仮本部……どこかの工事現場じゃあるまいし……情けないったらありゃしない」

 ファジーの制服を着て、片目を海賊眼帯で隠した女性は、華奈が横に座っているコトに気づいていない様子だった。


 眼帯隊員の愚痴独り言は続く。

「おまけに、上司が巨大化した時に浴びた、変な閃光のせいで……片目が地球人に化けた宇宙人を、判別できるようになっちゃうし……あたしって不幸体質、はぁ」

 華奈が女性隊員に話しかける。

「あのぅ……チョコレートソース、クレープから垂れてスカートに落ちていますよ」

「えっ!? あら、やだっあたしったらドジ」

 女性隊員は華奈が差し出したハンカチで、スカートに落ちたチョコレートを拭くと、ハンカチをそのままポケットに入れた。


「あのぅ……ハンカチ返してください」

「えっ!? うわぁぁ! あなた、いつから隣に座っていたの?」

「最初から座っていましたけれど……ハンカチ返して」

 眼帯女性隊員は、ポケットを探って見慣れないハンカチを取り出して眺める。

「なんで、見たこともないハンカチが? いけない、あの変な閃光を浴びてから時々、記憶が途切れる……あなた、誰?」

「阪名 華奈です、ハンカチの持ち主です」


 眼帯女性隊員は、片目の眼帯を持ち上げて華奈を見る。

 女性隊員の片目の黒目部分は、宇宙の星雲が回転していた。

「華奈は人間みたいね」

 女性隊員は、華奈にハンカチを返しながら言った。

「あたしの名前は『甘露 蜜子かんろみつこ』ファジーの隊員よ」

「何か悩み事があるみたいな感じでしたが?」

「あっ、わかる……実はね」

 甘露 蜜子は、華奈にファジー本部での一件を語った。

「でね……上司は元のサイズにもどって、閃光を発する変なアイテムは消滅しちゃったんだけれど……あの一件以来、同僚のあたしを見る目に巨大ヒロイン疑惑が強まってしまって、いくら違うって言っても信じてくれないの」

「それは大変ですね」


「もしも、巨大ヒロインや巨大ヒーローに変身できる人間がいたら、取っ捕まえて【高電圧を体に流す拷問】をしてやる。ほらっ、巨大ヒロインや巨大ヒーローって。とんでもない電圧の電気を浴びても平気でしょう。たぶん人間体の時も平気だと思うの」

 顔色が変わった華奈が立ち上がって歩き出して、蜜子に手を振る。

「それじゃあ、あたしはこれで……めげずに頑張ってください」

 ベンチに残って、微笑んで手を振っていた蜜子は、華奈の姿が見えなくなって呟いた。

「今の子、誰? それより、あたしは誰? ここはどこ? あたし何をしているの?」



 帰宅して自分の部屋に入った華奈は、胡座あぐらをかいて、ゲームをしているタマタマンと遭遇した。

「よっ、華奈ひさしぶりだな……悪美のヤツは成仏して昇天しちまったな」

 華奈の脳内に瞬時に甦る、怪獣少女たちとの羞恥な闘い。

「ひっ! タマタマン」

「小難しい説明は省略だ、華奈……巨大ヒロインになれ」

 即答で拒否する華奈。

「イヤです!」

「おまえに拒否権なんざ、ねぇんだよ裸で闘え華奈!」

 タマタマンは、手の中に出現させた光球を華奈の体に押し込む。

 異物の挿入感に、震える華奈。

「あぁぁ……何か異物が体の中に」

「ふふ……これで、帰ってきたサカナカナの完成だ、今回は他次元住人の力も貸してもらえるからな……試しにここで、等身サイズ変身してみろ」

「イヤです!」


「イヤだと言っても強制的に変身させる、変身妖精『タマタマ』」

 タマタマンの体から、ポンッとミニチュアサイズでデフォルメ化したタマタマンが飛び出して華奈にしがみつく。

「タマーッ」


「なんですか? このちっこいタマタマンは? こら、離れろ! 可愛くない」

「オレの分身の変身妖精『タマタマ』だ……そいつを食べろ」

「げぇ!? イヤです!」

「食え!」


 華奈の口に飛び込む、タマタマ……華奈の口から血肉が飛び散る。

「げぇぇぇぇ!」

「タマタマは、かじっても再生するから気にするな……変身だ! 華奈」

 光りに包まれた華奈の体が室内で、等身サイズのサカナカナに変身する。

 愕然とする、サカナカナ。

「あぁ、また変身してしまった……あっ、今度は模様に一本線が入っている」

「帰ってきたサカナカナだからな」


 その時、テレビから怪獣少女出現の臨時ニュースが流れた。

「絶好のタイミングだ、闘えサカナカナ! 御唱和ごしょうわくださいカナの名を……強制瞬間移動」

「ち、ちょっと待って! あたしの都合も考えず……」

 言い終わる前に華奈の姿は、瞬間移動させられ、出現した怪獣少女の座標に送られた。


 後夜~おわり~

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