婚約破棄した王様は涙しながら神を呪う

青空一夏

第1話


麗しい美貌のアレクサンダー大王は婚約者のクロエに懇願した。


「お願いだ。その絵を踏みつければ良いだけなのだ。それだけで、これまで通り私の婚約者でいられる。私の妃としてずっと側にいてくれ」


「アレクサンダー様、ごめんなさい‥‥」


涙を浮かべてうなだれる女神のように美しいクロエは、決してアレクサンダーの懇願に首を縦には振らないのだった。代わりにクロエの瞳と同じ色のブルーサファイアの指輪を差し出した。


「これを、私だと思ってください」





「これから裁判をおこなう。この絵の神を信仰する者は罪人である。『皇帝も貴族も平民と同じ人間である。人間は等しく平等である』などという宗教は存在してはならん。さぁ、クロエ様がその信者でないことを証明していただきましょう」



ークロエ、早く踏むのだ!なにをぐずぐずしている!


アレクサンダーは、絶望の思いでクロエを見ていた。全く踏もうとせず、立ち上がりもしないクロエに激しい怒りさえ覚えながら。クロエよ、お前は私よりその神を選ぶというのだな‥‥


「クロエ様はお踏みにならない!確定です。国が禁じた邪教を信仰している魔女の証明だ!火あぶりの刑にしろ!」


貴族の裁判官3人が叫ぶと、他の貴族達もみな一斉に同意の声をあげた。


「「「魔女だ!殺せ!」」」


こうなってしまっては、王であるアレクサンダーでも貴族たちを止めることはできなかった。


「私、アレクサンダー王はこのクロエとの婚約は破棄する。この者は、‥‥蛇の毒で刑に処す」


「「「いけません!!蛇の毒など一瞬で死んでしまう!!もっと苦痛を与えなければ。火あぶりだ!!」」」


「っ‥‥火あぶりの刑に処す」


ー許せ‥‥クロエ‥‥


アレクサンダーがクロエを見るとクロエは優しく微笑んだ。まるで、その気持ちはよくわかっています、とでも言うように。







クロエは大きな木に縛られ、その周りには油を染みこませたぼろ布がたくさん置かれた。燃えやすいものはなんでも投げ込まれ、クロエは生きながら炎に焼かれて死んだ。



アレクサンダーは、胸がはりさけんばかりの思いでその光景を見ていた。クロエが焼き殺された後も、うららかな春の日差しは温かく、そよ風はなにごともなくクロエが殺された近くの花を優しく揺らしている。クロエの信じる神がもしいるのだとしたら‥暗黒の雲が覆って雷鳴が轟き神が怒り狂うべき場面のはずなのに‥‥


ー神なんていない‥‥これではクロエは無駄死にだ!こんな薄情な神などいらない!


アレクサンダー王は、自ら神と名乗り諸外国を次々に征服し人々から暗黒の神と呼ばれた。暗黒の神の首には、いつも鎖に通された青い宝石が埋められた指輪が輝いていた。



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