第2話  前編

「ねぇ、百合!私は今、頭痛がするのよ?お前が行って宮廷で勉強して私に教えなさいよ」


お姉様のおっしゃる通りに、私は今日も宮廷に行く。お姉様は病弱でいらっしゃるから、お可哀想なのだ。雨が降れば頭痛がするし、日差しが強い日は目眩がするんですって。私は手の火傷以外は、至って健康だったからこうしてお姉様のお役にたてるのは嬉しい。


「やぁ、今日も百合が来たんだね?講義が終わったら侍女と一緒に私の部屋においで?いいものをあげよう」


黒髪赤眼の綺麗な顔立ちの皇太子様が親しげにしてくださるのも、私にはもったいないことだと思う。遠慮しようと首を横に振ると『たいしたものじゃないから』とおっしゃった。なので、私は講義が終わると皇太子様のもとへ急いで向かった。


「皇太子様、少し講義が長引きました。申し訳ありません。それで、私になにを‥‥」


「うん、お疲れ様!これだよ」


小し大きめな容器に入った軟膏だった。なかは、白いクリームだったがキラキラと粒子が輝いていた。


「私の治癒魔法を込めて作った。このクリームを毎晩塗って寝るんだ。それとレースの手袋をあげるから、いつもしているといいよ」


「治癒魔法?初めて聞きました」


「あぁ、皇室だけの、それも赤い目の者にしか使えない魔法だ」





私は毎晩、それを塗って寝た。一ヶ月もすると傷は綺麗になくなっていた。けれど、皇太子様はそのままレースの手袋をいつもつけているようにとおっしゃった。それから、私は講義のあとに皇太子様とお茶をするのが日課になったが、お姉様のお話をすすんでするようにしていた。だって、皇太子妃はお姉様がなるのだから‥‥


皇太子妃としてお姉様が宮廷入りすると、私も専属侍女として一緒について行った。宮廷での行事の歌あわせは毎週のように催された。私の仕事は後ろで控えていて、お姉様の手助けをすることだ。歌あわせとは、出題された歌題を歌に詠み優劣を競う文学遊戯だ。


「まぁー桔梗様はとても素晴らしいお歌をお詠みになるんですねぇー。しみじみとそのお歌の光景が眼前にひろがりますわ」


「お褒め頂き光栄でございます」


私が紙に書いてそっと渡したものをお姉様が詠むのだ。さも、自分で作ったというように詠んでくださるから、私もやりがいがあった。私は姉の役に立つことが本当に嬉しいのだ。


「今日は、百合のおかげで、とてもいいものが貰えたわ。ほら、絹とレースの生地。このレースの生地は色あせたようなベージュだからお前にあげる」


「わぁーいいのですか?手袋がたくさん作れますわ。ありがとうございます」


「いいわよ。だって、百合はその醜い手をレースで隠さないと外も歩けないものねぇ」



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