第10話 【メフィスト】

 燦々と陽が差していた。

 今日も寒暖計は優に三十五度を越えている。


 酷暑日間違いなしだ。




 高台にある『美浦霊園』。


 周りの樹々から蝉の声が耳をわずらわせた。



 高遠家の墓石の前に男が一人、花をそなえ手を合わせている。


 およそ墓石に供える花には相応ふさわしくない可憐な花だ。



 僕は、ゆっくりと背後から近づいた。

「今日は、彼女の月命日……

 毎月、ここへ来ているらしいな」

 彼に声を掛けた。



「ン……」

 承知していたかのように、彼もゆっくりと振り返った。



 馬場アキラだ。



「高遠彩香さんのお墓か」

 僕もアキラの脇に立ち両手を合わせた。 



「ああ、そうだ」


「ずい分、シャレた花だな。お墓へそなえるにしては。なんて花だ」



「ああ、これか。マーガレットだよ。

 彼女が好きな花だ」


「そうか」僕も手を合わせたまま頭を下げた。

 途切れる事のないセミの声がやかましい。




「やはり、この事件の【悪魔メフィスト】は……

 お前だったのか❓ 馬場ジョーカー


「おいおい、なんの事だ」



「ここまで来てとぼけるなよ」


墓地ここじゃ、あまり話したくないな」

 スッと立ち上がり墓石を見つめた。



「ああ、そうだな。彩香かのじょに聴かせるような話しじゃない」

 僕らは、もう一度、高遠家の墓石に手を合わせた。




 いつまでも鳴りまない蝉の声がヤケに鬱陶うっとうしかった。






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