黒の部屋 8

「えっ」



 すると、晶は降りはじめた。


 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三。


 ……十三。



「十三が、どうかしたのか?」


「知らないのですか?」



 晶は、逆に驚いたように目を見開く。全然、分からん。



「十三階段は……いや、知らない方がいいですね。とにかく、異常がないか確認を続けましょう」



 充電はファミレスでさせてもらっていたから、バッチリだ。


 十三階段という言葉に優太は疑問符を頭に出し続けていたが、話を逸らされた後だ。詳しく聞こうにも、晶の性格からしてここから先は絶対に口にしない。もちろん彼も、何回かその十三階段という言葉を聞いた事がある。しかし内容までは分からない。


 夜が明けてきた。あれから美香の様子が変わる事もなく、特に異変も感じられないまま彼女は起き出した。やけに眠たそうに目をこすり、拳が入りそうなくらいまでの大あくびをしている。


 定点カメラを設置されてあった事を思い出したらしく、ニッコリと手を振った。次に『なんにも問題なかったよっ!』と言わんばかりに元気よく親指も立てていた。


 ……思いっきり問題だらけだったから。むしろ問題起きるの早すぎだから。初日でこれだと先が思いやられる。



「これは、私の手には負えませんね」


「えっ」



 小さく呟いた言葉を、優太は聞き逃さなかった。



「いくら地元で名が知れ渡ったところで、私はプロの中でも修行中の身です。ウチの父や他のプロには遠く及びません。出来る限りの事はしますが、期待しないでください」



 言うなり晶はスマホを取り出し、メールかラインを誰かに送っている。



「え? あ、ウチの父にです。今季の依頼は特に多いわけじゃないので、おそらく来てくれるはず」



 送った途端、今度は電話が鳴り始めた。マナーモードにしているようで、ブルブルと震えている。



「お久しぶりです。元気にしてました?」



 晶は幼稚園児をあやすような優しい美声で電話の主に話しかけている。



「……えぇ、そうですね。今、あなたのお部屋の外にいます。優太さんも一緒ですよ」



 そう言った後、軽い音と共に窓が開いた。電話の主は美香だったらしい。そういえば確か、先ほど美香に電話を入れていた。だから折り返しの電話を美香がかけてきたのだろう。

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