都市伝説 3
ただ、壁からコツン、と一回音がする。
「いるんですか? 幽霊さん、私の声が聞こえたら、反応してください」
反応はなかった。もしかしたら、一階の人か、このアパートの階段を登ってくる人がこの二○一号室に手を付いた音かもしれない。深く考えることはせず、寝ることにした。
一週間経ってみて、やっぱり、どこかがおかしい事に気付く。
音が増えていくのだ。
初日は、コツン。二日目は、コツン、コツン。三日目は、コツン、コツン、コツン。そして一週間経った本日。七日間で、七回音が聞こえた。
亜歌音は、こういう経験は初めてだった。ただ、解せない。なぜ、たかがこんな事で二週間以上も住めないのか。
絶対に音を数えてはならないというアドバイスは貰ったものの、それが一体何なのかが分からない。
様々な怪奇現象と共に二週間目を迎えた時、亜歌音はようやく理解した。『音を数えてはいけない』という意味を。
人通りが少なくなりかけた深夜。一心不乱に、てへぺりょというふざけたハンドルネームの相方に電話をかける亜歌音。応答はない。一体どれだけコールしただろうか。この時間なら起きているはず。いつもだいたい電話したら出てくれる時間帯なはずなのに。
「分かってるって。電話しなくてもここにいるから」
相方の声が聞こえた。おそらく電話しても出なかったのは、近くにいたからだろう。胸を撫で下ろしながら、メールでもしてくれればよかったのにと思う。
先日壊れてしまった電気。懐中電灯もない空間は月明かりだけが頼りだった。そんな時、背後から見慣れた影が近付いてきている。
あれ、だけど変だ。と振り返りながら亜歌音は疑問を覚えた。
――鍵、かけてたはずなのに。
そ こ に は……。
翌日の昼間、てへぺりょこと相坂は、亜歌音の安否を気にしつつ、いつまでたっても繋がらない携帯電話を握りしめて部屋を訪れる。
ノックをしてもチャイムを連打しても応答がない。冷や汗をかいた手のひらで携帯電話が浸水してしまう。もう数日連絡が来ていない。電話をかけても繋がらなかった。心配でたまらない。いつも一緒にいただけに、これは何かがおかしくなってると感じる。
玄関のノブを回すと、何の抵抗もなく開いた。靴はある。いる、中に。
エアコンはついてない。なのに、ものすごい寒気だ。
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