9:4 Tyrant ─タイラント─

 三十分前──

 

「ギギィァアァアッ!!」


 貨車を圧し潰せるほどの体積を持つタイラント。その頭部を薙ぎ払った一打で壁にめり込ませるフローラ。衝撃で坑道全体が揺れ貨車の車輪が軌条から脱線しかける。


「マジかよ、どこからあんな力が……」

「……波動か」

「は、波動って……俺がお前に教わった動術だよな?」

「ああ」


 Abelアベル家が改良した波動。『時に慈悲深く、時に残酷であれ』という言葉を元に考案された動術の一種。

 波のような緩急を様々な動作に浸透させることで外側ではなくその内側へと衝撃を伝わせられる。それこそ外殻が鋼のタイラントのような存在、対人であればレインズ家の『受動』に対しては有効な動術だろう。


「あんな化け物まで吹き飛ばせるのかよ。じゃあ俺も頑張って習得すれば……」

「どうだろうな」

「えっ?」

「あの女の一打は受動と波動を噛み合わせている。異例中の異例だろう」


 しかしフローラが放った一打は波動だけの力ではない。『肉体で受け止めた力を自身の筋力の原動にする』レインズ家の動術も利用している。

 流れとしてはまず受動でタイラントによる頭突きの衝撃を筋力へ変換。そして受動の筋力を込めた波動を相手に打ち込む。これらを瞬時に行うことであの凄まじい一打を放つことが可能になるのだが、 


「……変わった女だ」


 前提として波動は筋力を持たぬアベル家の為に、受動は筋力を持つレインズ家の為に考案された動術。対となる動術に対となる遺伝。史実を踏まえれば選ぶとしてもどちらか片方のみで、その両方を噛み合わせることなど遺伝上不可能。

 可能性があるとすれば動術の元祖であるアーネット家のみだが……フローラという女はれっきとしたアベル家の身の上で、不可能を目の前で実現して見せた。


「ギギギィア"ァアア"ッ……!!」

「あのデカブツは私とシスターフローラ……アレクシア殿の三人で牽制する! とにかくアモンイシルまで貨車を進ませろッ!」


 壁にめり込んだタイラントの寄声。 

 一撃で仕留められるはずもなく貨車との距離を再度縮めようと、坑道の中で巨体を唸らせてこちらへと凄まじい速度で迫って来る。エレナに抜擢された私はルクスαを鞘から抜いて、距離を詰めてくるタイラントを最後尾の付随車で見据えた。


「ギギギギッ……!!」

「私と我が主であの異形の攻撃を受け止めます。エレナさんたちは異形を倒す方法を見つけてください」


 そう言いながら先頭に立つと聖書を構えるフローラ。私とエレナは視線を交わした後、各々の得物を構えつつ軸足を整える。

 

「ギギギィイィア"ァァア"ア"ァーーッ!!」

「来ますッ」 


 追いついてきたタイラントは大口を開き、私たち三人が乗った最後尾の付随車を呑み込もうと試みたが、フローラが右腕を薙ぎ払う動作だけでタイラントの上顎を天井まで吹き飛ばす。


「ギギギギィッ……!」

「堪えた……?」

「チッ、脳味噌もデカいようだな」


 が、頭部が壁や天井にめり込むことはない。どうやら学習しているようで距離を離されまいとフローラの凄まじい殴打を堪え切った。エレナは舌打ちをすると大型の狙撃銃を腰で構え、


「アレクシア殿、我々でヤツを叩くぞ!」

「どこを狙う?」

「あの手足がうじゃうじゃ生えた腹部だ! 心臓があるやもしれん!」


 上体を起こすタイラントの腹部まで距離を詰めて腰撃ちをした。その反動で逆の手に握るルクスαで手足やらを斬り落とす。周囲に飛び散るのは手足の残骸。私も後に続いて何度か斬り刻んだ。


「ギギィアァアァアッ!!」

「「……ッ!」」


 途端、タイラントの腹部から鉄の槍や鉄の剣を握った無数の腕が飛び出し、こちらを拒むように襲い掛かる。私は寸前で身を躱しつつ武器を握る腕をルクスαで斬り落とし、エレナは狙撃銃を発砲した衝撃を利用して器用に回避する。


「ギギギギギィイッ!!」

「……! まずい、隣の車両に飛び移れ!」


 そして口元に生えている螺旋状の切削工具を回転させ、敢えて貨車から距離を取り始めるタイラント。私たちはすぐさまその行動が『突進の予備動作』だと勘付き、エレナの呼びかけと共に二台目の付随車へと避難した瞬間、


「ギギギギィグァア"ァア"ァッ!!」

「んにゃあぁあ!?! あかんあかんあかん! 壊れる、うちの列車が壊れてまうでぇえぇえぇッ!!?」


 タイラントは暴れ狂うように突進し、最後尾の付随車が跡形もなく粉砕する。大きく揺れた貨車の操縦席で悲鳴を上げるジャンヌ。エレナは残りの二台の付随車を視認してからタイラントを見上げた。


「シスターフローラ、あのデカブツの突進を止めることは?」

「任せてください。あれぐらいなら止めて──」

「迎え撃つのは愚策だ。貨車があの衝撃に耐えられると到底思えん」


 受け止めようが衝撃は貨車全体に伝わる。下手をすれば脱線、最悪故障する可能性も十分にあり得るだろう。私はエレナとフローラに反論してから操縦席付近で傍観するキリサメに視線を移した。


「あの百足ムカデとやらに欠点はないのか?」

「ラノベの中のタイラントは『背中にある太い管』が弱点だけど……こいつは俺の知ってるタイラントと姿が違う! だから多分──」


 タイラントの全身をくまなく観察をし目を付けた箇所。キリサメはハッとした様子で私と再び視線を交わし、自身の憶測を訴えかけるようにこう説明した。


「──そうか! 手足が生えた腹の奥に何かあるはずだ!」

「少年、その根拠は何だね?」

「腹を攻撃されたときタイラントは露骨に嫌がってた! それは深く潜り込まれるとマズイ何かがあるってことに違いない! 手足は移動手段じゃなくて隠蔽するための飾りだ!」


 腹部に隠されている生命の核。その言葉を耳にしたフローラは再び最前線へと突き進み、持っていた聖書を開くと、上体を揺らすタイラントを見上げる。


「ギギギィッ!!」

「お二人はこの異形の弱点を狙ってください。私がその時間を稼ぎます」

「ああ頼んだシスターフローラ! アレクシア殿、我々でヤツのはらわたを引きずり出すぞ!」 


 風を切りながら繰り出されるタイラントの頭突き。フローラは開いていた聖書を閉じて額の位置を全力で突き上げる。

 衝撃で怯みを見せるタイラント。私とエレナはその隙に距離を詰め、生命の核を見つける為に無数の手足を乱雑に斬り捨て始めたが、


「チッ、これではキリがないなッ……!」

「……小賢しい抵抗だ」


 処理よりも再生の方が数段速く一向に奥が見えてこない。何よりも武器を振り回して抵抗してくる為、このまま続けていても埒が明かない現状だった。私とエレナはその現状に眉を顰めつつも、タイラントの頭部が復帰する寸前にすぐさま距離を取る。


「ドグラフ、『試作型AEG』を私に!」

「しかしエレナ様! この武装はA機関に実戦で使用するなと……!」

「実戦だろうが演習だろうが撃てれば変わらん! 早く寄越せ!」


 エレナが要求した試作型AEG。

 ドグラフが金属製の外殻をした大型の収納箱を貨車の上で滑らせれば、エレナはその箱を右脚で踏みつけ押さえ込む。そして鍵がかかった箇所を踵で蹴り下ろし、箱の蓋を開くと、


「アレクシア殿、デカブツが怯んだタイミングでこれを腹にぶち込む! 手足が再生する前に叩けッ!」

 

 中で保護されていた筒のような銀の発射機。外側に刻まれているのは『O機関』と『Charlotteシャーロット』という名。エレナは発射機を持ち上げると弾頭を詰め込みながら私へ指示を出す。


「ギギィィイィッ……!!」

「……! 次の攻撃が来ます!」


 フローラの呼びかけと共に迫りくるタイラントの頭突き。エレナは銀の発射機を右肩に担ぐと照準器を覗いて身構えたが、


「ギギギギッ!」

「なっ……!?」


 突然私たちが乗った付随車が持ち上げられ、真っ逆さまにひっくり返る。何が起きたのかと見下ろせば、車輪に挟まるのは触手のように伸びた無数の手足。気が付かれぬよう密かに忍ばせていたらしい。


「……下らん小細工を」


 私はそう吐き捨てた後、宙に舞う中で視線を向けるのは操縦席側と付随車を繋ぎとめる連結部分。右手に構えたディスラプターαを何度か発砲して連結部分を破壊する。


「ジャンヌ! 列車を止めないとアレクシアたちが……!」

「んなこと言われても急に止まれるわけないやろ!?」


 操縦席は何とか持ちこたえられたが、このままでは私たち三人が置き去りにされ、タイラントに轢き殺されてしまう。やむを得ないと血涙の力で蒼い蔓を操縦席まで伸ばすために瞳を赤く染めた。


「ギギィアァアァアッ!!」

「この程度の危難なら──」


 瞬間、私たちに背を向けながら大型の狙撃銃を一発だけ空撃ちするエレナ。その反動で私とフローラの横を通り過ぎ、迫りくるタイラントの方へ即座に振り返ると、


「──造作もないッ!!」

「ギギィア"ァア"ァァア"ァア"ア"ァア"ッ……!!?」


 右肩に担いでいた銀の発射機の引き金を引き、弾頭を腹部へと撃ち込んだ。爆炎と煙が立ち込める最中、エレナは爆発の衝撃を利用して反動を使い、私たち二人の腕を掴んで操縦席まで華麗に着地する。


「な、なんや今の!? 空を飛び回っとったで!?」

「反動を使いこなすとあんなことできんのかよ……」


 圧巻の危機回避能力。キリサメは目を見開きながら呆然していると、片膝を突いていたエレナは私とフローラを交互に安否の確認を始めた。


「シスターフローラ、アレクシア殿、怪我はないか?」

「は、はい……お餅みたいにぺったんこになるかと……」

「……問題ない。礼を言う」


 修羅場を潜り抜けてきたであろう機転の利かせ方。小柄な肉体を上手く利用した反動の扱い方。O機関の主導者と十戒の肩書きを持つだけの実力はあるらしい。


「礼を言うのは我々の方だ。貴殿が連結部分を破壊しなければ、私は重い選択を迫られていたのだからな」

「ご、ごめんなさい……私だけ何にもできませんでした……」

「反省は後にしろ」


 後方で立ち込める爆煙。奥からタイラントの奇声は聞こえてこない。始末はできずとも引き離せたのか、と一瞬だけ脳裏を過った瞬間、


「エレナ様ッ──うッぐぁあッ!?」

「──ッ」


 何かに気が付いたドグラフが横からエレナを跳ね飛ばす。吹き上げる鮮血と共にドグラフの胸に突き刺さる鉄の弓矢。それも一本だけではなく何十本と白煙の中を突き抜け、操縦席へと向かってくる。


「チッ、我々O機関の誇りにかけて操縦席だけは身を挺して・・・・・守り抜けッ!!」

 

 掛け声と共に操縦席を守るように肉壁となるO機関の人間。私とフローラは自身に迫りくる鉄の弓矢を得物で叩き落とし、エレナは最前線に立ちディスラプターαによる二丁拳銃で鉄の弓矢を撃ち落とすのだが、


「かはッ……!?!」

「ごほぁあぁッ!?!」

「すまない、同志諸君ッ……」

 

 すべてを撃ち落とせるはずもなく断末魔を上げて次々と倒れていく。エレナは振り返らず、歯を食いしばりながらひたすらに弓矢を撃ち落とし続け、


「ギギィイァアァァアアァッ!!」

「貴様は、何なんだッ……」


 平然と後を追いかけてくるタイラントに力強くそう呟いた。鋼鉄の外殻には据え置き式の大型弩砲どほうが形成され、腹部では鉄の弓を握りしめる無数の腕。始末しようにも手間がかかりすぎる存在。


「エレナ様……ごほっごほっ、私が時間を稼ぎますっ……」

「ドグラフ、貴殿は何を言って……」

「まだ『試作型AEG』が、残ってるはずです……。あいつを足止めするために、げほッ、自爆してこの坑道を塞げばッ……」


 ドグラフが指を指すのは『試作型AEG』が入った大型の収納箱。エレナは険しい顔をしながら答えを出すことに戸惑いを見せる。


「ギギギギィァアァアッ!!」

「早く、追いつかれる前にッ! この車両を切り離してッ……先に進んでくださいッ……!!」


 エレナは苦渋の選択を強いられた末、『試作型AEG』の収納箱から銀の発射機を取り出してドグラフへと握らせる。

 

「シスターフローラ、アレクシア殿! この車両を切り離す! 操縦席まで移動を!」

「……あなたに我が主のご加護があらんことを」


 フローラは祈りを捧げ、私はしばらくドグラフを見つめた後、操縦席まで後退した。一人残されたエレナは顔を強張らせつつもドグラフの右手を強く握りしめる。


「エレナ様ッ……最期までお仕えできたこと光栄でしたッ……」

「私もだドグラフ。共にO機関として戦えたこと光栄だったぞ」

「ははっ、ありがとうございますエレナ様……。さぁ私を置いて早く行ってください……!」

 

 エレナは立ち上がり背を向けた後、しばし歩みを止めてから俯きながら操縦席まで駆けてきた。そして切り離される連結。ドグラフを乗せた付随車は速度を落とし、後を追いかけてくるタイラントに近づいていく。


「……」

「エ、エレナさん?」


 しかしエレナは付随車へと無言で飛び移った。想定外の行動に目を丸くしたフローラが呼びかける。


「シスターフローラ、この先の指揮権を貴殿に託す」

「えっ、えっ、わ、私に指揮権ですか……?!」

「大事な同志を置き去りにはできんのでな。それに勇敢に散っていった同志諸君の為にも……あのデカブツに一矢報いてやらんと気が済まんのだ」


 背を向けたまま私たちへそう伝えるエレナ。部下を殺された怒りが込められた言霊。フローラはエレナを呼び止めることはできず、口を閉ざしてしまう。


「……アレクシア殿に少年、貴殿たちの身分は虚偽なのだろう?」

「……勘付いていたか」

「我々の目は誤魔化せん。本来であれば処分を下すところだが……シスターフローラが庇おうとするのにも、この辺境の地まで足を運んできたのにも理由がある。ならば我々は関与せず、我々のなすべきことをするまでだ」


 エレナはタイラントを見据え、私とキリサメが偽の身分だと勘付いていたと明かす。そんな後ろ姿を見せながら紅水晶ローズクォーツで作られた金糸雀カナリア色の十字架を右手で摘まみ、


「ギギギギギギィッーー!!」

「我が主ヘメラよ。我らは汝へ栄光を捧げ、汝より救いを授かりし者。我らが栄光を阻むは罪。我らへ汝の加護を与え給えば、我らが栄光なき罪人へ神弾しんだんを与え給おう」


 タイラントの不快な奇声が坑道を反射する中で加護の詠唱を始め、


「六ノ戒──りつノ加護」


 銀を基調とし黒鉄で装飾が施された散弾銃を具現化させる。銃口が向けられる先は貨車が既に通り過ぎた天井。


「貴殿たちの武運を祈る」

「ま、待ってください、エレナさ──」

 

 一発だけ撃ち込まれる弾丸。

 天井は跡形もなく崩壊。呼びかけようとしたフローラの声すらも遮断。自ら退路を塞いだエレナは速度が落ちていく付随車の上を歩く。 


「ドグラフ殿、そこで休んでいたまえ」

「エレナ様ッ……?! なぜ、ここにッ──」

「貴殿を連れて帰還する為だ。……生きて帰るぞ」

「……ッ!」


 声を荒げるドグラフにそう声を掛ければ、丁度のタイミングでタイラントが停止した付随車に追いつく。威嚇するように奇声を上げ、エレナを四十個以上の単眼で睨みつけた。


「ギギギギィァアァアッ!!」

「おい貴様──」


 近づいてくるタイラントの頭部。エレナは二丁の散弾銃の銃口を向け、


「──ガンつけんなよ」


 崩れた口調でそう吐き捨てると引き金を引いた。



────────────────────



 エレナを置き去りにして坑道を突き進む貨車。私たちは操縦席で後方を眺め、辺りには車輪が軌条を通過する摩擦音だけ響く。


「アモンイシルまで後どれだけかかる?」

「中継地点は突破しとる! 到着まで十分程度のはずや!」


 時期に辿り着くと語るジャンヌ。

 前方を視認してみれば暗闇はより濃くなり、貨車の照明だけが唯一の灯となっていた。フローラは未だにエレナのことを気にかけているようで、辿ってきた坑道をじっと見つめるのみ。


「アレクシア、ちょっといいか?」

「何だ?」

「タイラントを従える眷属Geryonゲリュオンについて。知ってることを今のうちに話しておきたいんだ」

「……言ってみろ」


 眷属Geryonゲリュオン。私は操縦席の壁に背を付け前方を眺めながらキリサメの話に耳を傾けることにする。


「ゲリュオンの見た目は大柄の騎士でさ。他の眷属と違って変な力とか特性とかはないし、不死身みたいなチート染みた眷属じゃないけど……」

「……? 何だ?」

「身に着けた鋼鉄の鎧はあらゆる衝撃や刃を通さない。血錆びの大剣はどんなものでも破壊する。特徴がない分、馬鹿みたいに強い眷属なんだ。真正面からやり合うのはあまり有効的じゃない……」


 身体能力と剣技のみの眷属。

 始末する為には小細工なしの死闘を繰り広げる必要がある。私はゲリュオンの説明を聞きながら静かに俯く。

 

「それとさ、あの変異体もゲリュオンが従えてるはずだ。だからゲリュオンさえ倒せばタイラントもあの変異体も止められ──」

「グスッグスッ……」


 すぐそばで聞こえるすすり泣く声。

 操縦席の中央で気配もなく立ち尽くす一体の食屍鬼。私たちは突如の出来事に一瞬だけ思考が停止したが、


「下がってください! 我が主の命の元、私が粛清を……!」


 フローラだけはすぐさま行動を起こして波動を込めた聖書で貨車の外へ薙ぎ払おうとする。食屍鬼は抵抗もせずただすすり泣くのみ。


「な、なんやこれぇえぇッ!?」


 ジャンヌが声を上げた為、貨車が通過する坑道を見渡してみれば壁や天井一面が赤い肉壁となっていた。肉壁に埋められるのは無数の眼球。四方八方をせわしなくギョロギョロと見回す。


「まさか……! ゲリュオンだけじゃないのかッ!?」

「何だと?」

「アモンイシルを支配してる眷属の数だ! この奇妙な目はゲリュオンのものじゃない! 二体、二体の眷属がいるはず! もう一体の名は」


 二体目の眷属。

 キリサメにその名を言いかけた直後、フローラが振り抜くのは聖書。すすり泣く食屍鬼は凹凸の激しい肉体を風船のように膨らませると、


Argusアルゴスッ──」


 失明するほどの閃光と鼓膜が破れるほどの断末魔が食屍鬼から放たれ、視界が真っ白に染められた。

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