8:16 Tea Party Without Lighting Fire ─火付かずの茶会─


「おー、見ろよ相棒。使用人と騎士団が勢揃いだぜ」

「そうだな」


 茶会とやらが始まる翌日の昼頃。

 私とロックは中庭の隅でおどおどするヤミと、三つの席が用意された机の前で待機するミールを遠目に観察していた。周囲では使用人や騎士団がその様子を眺めている。


「茶会が見世物になってんじゃん」

「……城内で噂が流れていたはずだ」

「どんな噂だよ?」

「『茶会で雪月花が全員揃う』という噂だ」


 雪月花が揃う光景はまさに奇跡と呼べるほどのものらしく、アフェードロストの民衆すらも城門に集っているようだ。私は中庭の柱に背を付けながら腕を組む。


「てか相棒」

「何だ?」

「んで俺らがなんちゃら騎士団の制服着てんだろうな?」


 何故か私たちが纏うのは花月騎士団の制服。男が履くのは純白のズボン。女のものは膝に届かない程度の丈がある純白のスカート。腰には携帯型の小型鞄が付けられている。

 男の足元は膝丈ほどの白の皮のブーツ。女の足元は男と同様の白の皮のブーツに、下には太腿丈程の純白のソックスを履かされていた。


「……あの女に嵌められたからだ」

「やっぱあの皇女さま一発ぶん殴っといた方がいいんじゃね?」


 上に羽織った『ワスレナグサ』の花が刻まれて特殊な材質のコートを気怠そうになびかせ、ロックは茶会への期待に胸を膨らませたミールを睨みつける。


「手を出して解決するならとっくにしている」


 私たちがなぜ騎士団の制服を着ることになったのか。その理由は先日の大浴場で身体を流した後の話。


『すっきりしたぜ。ばっちぃのから解放されてサイコー』

『……』

『あ? どうしたんだ相棒?』

『あの女が置いていった着替えを見ろ』


 大浴場から脱衣場まで戻れば脱いだ衣服はとっくに回収され、代わりに置かれていたのは騎士団の制服。周囲を見渡すが他の衣服は置かれていない。


『おっ、裸族になれってことじゃん。このまま出てってやろうぜ相棒』

『……そうもいかん』

『あ? あー、そういや今さっき黒薔薇の証について話したばっかだったな』

『このまま出て行けば黒薔薇の証を見られる。それを踏まえれば……選択肢はただ一つしかない』

 

 黒薔薇の使徒だと勘違いをされ刃を向けられる危険性。白薔薇とやらと遭遇する可能性。それらを考慮して騎士団の制服を着ることが最善策となる。


『……あの女と接触するのは愚策だったな』

『あぁ、ぜーんぶあの皇女さまの思惑通りだしな。やっぱでっけぇ爆弾抱えてやがった』


 笑顔を絶やさず人当たりの良い性格を巧妙に利用し、自身の考えた筋書きを歩ませようとする策士。スノウやクレスとは違った方面で厄介事に巻き込もうとしてくる。


『んじゃまぁ、俺もこれ着てくわ』

『何故お前も着る必要がある?』

『だってペアルックになんじゃん』

『……勝手にしろ』


 その厄介事に自ら巻き込まれようと身を投じるロック。私は脱衣所で花月騎士団の制服を纏い、廊下へと顔を出せば、 

 

『あら、素敵です転生者様。とってもお似合いですよ』

『……騎士団の制服を着せて何がしたい?』

『ふふっ、目的なんてありません。たまたま騎士団の制服しか無かったもので♪』


 ミールが何食わぬ顔で私たちを待っていた。目的を問いただすが張り付けた笑顔で真意を隠し通す。


『では転生者様、お話をしましょう♪』

『んぁ? 何の話をすんだよ──』

『明日の茶会についてです♪』


 こうして応接間で聞かされた茶会の詳細。私とロックはその内容を思い返しながら中庭のミールを眺める。


「……この茶会で雪月花を一つにする、か」

「まっ、雪月花の瓦解が茶会一つで戻るとは思えねぇけどな」


 ミールの目的は分裂した雪月花を一つに戻すこと。茶会はその為に開いたと私たちに説明をした。


「んで元に戻ったら、その流れで故郷を奪い返す。俺らはそん時に利用されるってわけじゃん?」

「あぁ」

「あの皇女さま、この茶会で関係を戻せるって自信ありげだったろ。一体どうなんだろうな」


 故郷を奪い返すための段取りを先に済ませる判断。それが意味するのは茶会を成功させる自信があるという証拠。


『ていうかよ、んでそこまでして雪月花を戻してぇんだ? 俺らを利用してまですることじゃねんじゃね?』

『ふふふっ、利用なんて人聞きが悪いですよ♪』


 脳裏を過るのは先日茶会の説明を聞いた記憶。ロックが呆れた様子でそう聞けば、ミールは微笑みながら返答した。


『……私にとって雪月花はかけがえのない家族ですから。世話焼きの姉様がいて、考え過ぎな兄様がいて、ちょっと不出来な私がいる。雪月花を再結成させることは、家族を取り戻すことと変わりません』

『上手くいく保証はあるのか?』

『ふふっ、私はただ信じて・・・いるだけです。兄様と姉様が分かり合ってくれることを』


 その微笑みと共に吐き出した言葉。私たちはミールの本心だと受け取った。そしてその言葉の裏に含まれた──家族を取り戻すためならば手段を選ばないという強い意志も。


「ミール様、ご姉妹様の到着を確認いたしましたが……いかがいたしましょうか?」

「あら、やっと来たのね♪ 準備はできているから早く中庭へ招いてあげて♪」

「承知しました」


 ミールにそう指示を出された騎士はその場から速やかに去る。すると中庭に立ち入るための東西の入り口が開き、


「……クレス?」

「……何であいつがここにいるんだ?」

 

 東側からスノウと使用人のルミが、西側からクレスと使用人のラミが姿を現した。お互いに想定外だったようで一瞬だけその場に立ち止まる。


「兄様に姉様♪ 早くこちらへ来てください♪」


 ミールが交互に微笑みながらそう促せば、クレスとスノウの表情は張り詰めたものへと変わり、そのまま中央にある茶会の席まで歩を進めた。


「久しぶりですね♪ 二人共、元気そうで良かったです♪」

「……不敬ですねミール。私はクレスが茶会に来るとは聞いていませんよ」

「俺の招待状にも書かれていなかったぞ。第一、この人が来るなら俺は茶会になんて来なかっ──」

「あら、ごめんなさい兄様に姉様♪ 招待状に書き忘れていたみたいです♪ でも折角なので……久々に三人でお茶会をしましょう♪」


 ミールは一斉に問い詰められるが、いつもの惚けを駆使してどうにか茶会の席へと二人を座らせる。茶会の机にはエルドラド産地の和菓子が籠に置かれ、三人分のティーカップが置かれていた。


「ヤミちゃん、兄様と姉様に紅茶を淹れてあげて♪」

「は、は、はい……! わ、分かりまし──」

「いえ、お構いなくミール様。スノウ様の茶は私が淹れますので」

「こっちも必要ないわ。バカ皇子の紅茶ぐらいラミでも淹れられるもの」


 ヤミに三人分を紅茶を淹れるよう指示を出すが、横に割って入るのはルミとラミ。互いに睨みを利かせながら自身の主へと茶を淹れる。ヤミはその様子に視線をきょろきょろさせて不安に駆られてしまう。


「見てください二人共♪ 建国した時に植えたサクラの苗木、ついこの間やっと花を咲かせたんです♪」

「「……」」

「この和菓子も良ければ口にしてください♪ エルドラドの菓子職人さんが作ってくれた柏餅カシワモチなんです♪」

「「……」」


 ミールが積極的に話題を振ったとこでスノウとクレスはただ黙り込むのみ。視線すらも別々の方角へ向けていた。ルミとラミは主の隣でただ目を瞑って直立するだけ。


「あっ、良ければ姉様と兄様で近況を報告し合ってみては?」

「「……」」

「きっと何か伝えたいこともあるはずです♪ 私も二人のお話を聞きたいですし♪ そうですよね、姉様、兄様?」 


 スノウとクレスは微笑んでいるミールへ顔を向け、俯いた状態で顔の向きを互いの方角へ変える。


「クレス」

「……何だ?」

「今朝の朝食を答えてください」

「朝食は摂っていない」

「『朝食は必ず摂るように』と何度も忠告したにも関わらず……未だ無視するとは不敬極まりませんね」


 心底どうでもいいようなやり取りを一度だけ交わすとしばし無言が続く。周囲の関係者の誰もが息を呑みながらその光景を眺めていた。


「……噂で耳にしましたよクレス。民衆への税を軽くするため、国全体の兵力を著しく低下させていると」

「それがどうしたんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」

「変わらず見通しが甘いですね。過去の経験から何を学んだのですか? 他国の侵攻、もしくは吸血鬼の侵攻に耐えうる兵力を持たない国に未来はありません」

「国の未来を担うのは国民だ。その国民への税を増やして軍事力に費やすような……頭の固い政策・・・・・・にこそ未来はないと思うけどな」


 クレスとスノウが不機嫌な様子を露にすることで空気が重くなれば、隣に控えていたルミとラミも不穏な空気を漂わせ始める。


「では兵力を持たなかったSillebenシルレベンMaltadマルタードの行く末を思い返すべきでしょう」

「それを思い返して何になる?」

「民衆の骸と瓦礫の山を国と呼ぶほど品格を失っていないかの確認です」

「……確認じゃなくて挑発にしか聞こえないけどな」


 そのクレスの一言で空気が更に重苦しいものへ一変した。ラミとルミも瞑っていた目を開き、互いに睨みを利かせる。


「優秀ですねクレス。確かに挑発でしょう。故郷を支配された身の上で……すべてを諦めた腰抜け・・・に対する挑発」

「……今、何て言ったんだ?」

「腰抜けだと言いました。あなたは故郷を奪われ、家族も奪われたというのに……受け身のまま行動も起こせない。有限の平穏を噛み締めるだけの腰抜けです」

「だったらあんたは恩知らず・・・・だッ……! 母さんも父さんも、俺たちを逃がすために命を懸けてくれた! それをこっちから捨てに行くなんて……母さんたちが無駄死にしたことになるだろッ……!!」

「に、兄様、落ち着いてください。姉様もこんな暗い話をするのは……」


 スノウに挑発をされたクレスは声を荒げる。張り詰めた空気の中でミールは初めて戸惑うような笑顔を見せた。


「母さんたちだけじゃない……! あんたを庇って死んだMichelミシェルもだ! あんたがしようとしていることは、ミシェルの命すらも無駄にする行為だッ……!!」

「……! 不敬、いえ不愉快極まりない。クレス、今の発言を撤回しなさい」

「あ、あっ! そうでしたっ! 姉様と兄様に紹介したい方々が──」

「撤回はしない。故郷を奪い返すなんて馬鹿げた考えを捨てない限りはな」


 遠目で眺めていた私はクレスの発言に眉を顰める。隣にいたロックは欠伸をしながらこちらへこう声を掛けてきた。


「故郷を奪い返すことが馬鹿げた考え。そこが気になったんだろ相棒」

「あぁ、あの男はアモンアノールを奪還するつもりはないのか?」

「ねぇんだなそれが。クレスがしてんのは全部見せかけ。一回たりとも大蛇の風穴やアモンアノールに兵士や騎士を派遣したことがねぇ。情報や写真はぜーんぶ他所から買ったもんだ」

「……どうりで他の方法を勧めてきたわけだ」


 思い返せば脳内に浮かぶのは、アモンアノールへ向かうことを不可能だと遠回しに強く主張するクレス。考えてもみれば鉄の雨によって肉塊になった兵士の胸元には、エメールロスタ特有の氷晶の証が刻まれていた。あれらはすべてスノウの元から盗んだ情報だろう。


「落胆しましたよクレス。あなたは変わらずアーネット家の恥。父上や母上もさぞ悲しんでいることでしょう」

「一人の命がどれだけ重いのか。それを理解していないあんたにどうこう言われる筋合いはない。ミシェルや家族の命以外を軽んじてるあんたにはな」

「兄様、姉様……私は、雪月花をもう一度、家族をもう一度──」

「撤回ができないのであればその不敬な口を塞いであげましょう」

「やってみろよ」


 狼狽えるミールの言葉を遮りながら、机に勢いよく手を突きスノウとクレスは立ち上がる。ルミはどこからか銀の杭を一本だけ取り出し、ラミは太腿のホルスターからナイフを取り出し、臨戦態勢に入ったが、


「──!」

「ミ、ミミ、ミール様ぁ!」

「「……っ!」」


 手を突いた勢いでスノウとクレスの前に置かれたティーカップが一つずつ跳ね、淹れられた紅茶がミールの頭から降りかかる。スノウとクレスはそれに気が付き、顔をミールへと向けた。


「す、すぐに拭くものを用意しま──」


 ヤミは慌てた様子で手拭きを用意しようとするが、ミールは黙ったまま勢いよく席を立つと茶会の会場を飛び出してしまう。突然の出来事に周囲はしばし静寂に包まれた。


「……ミールの前でこんな口論する必要はなかったはずだろ」

「不敬者、すべてはあなたの目を覚ます為です。それに食い付いてきたのはそちらでしょう」

「挑発したのはあんただ。俺は穏便に済ませようとして──」

「ど、ど、どうして……」


 再び始まろうとする二人の喧騒。その喧騒を遮るのは胸の前で手を強く握りしめるヤミの呟き。


「どうして、分からないんですか……っ」

「……何の話でしょうか──」

「ミール様の雪月花に対する、お二人に対する想いの話ですよぉッ!! どうして、分かってあげないんですかっ!?」


 声を荒げつつ目を見開きながらそう叫ぶヤミ。予想だにしていなかったのか、スノウも言葉を喉に詰まらせてしまう。

 

「ミール様は、ただお二人に仲良くしてほしいだけなんですっ!! 雪月花はミール様にとって家族だから、また三人で仲良くしたいだけなんですっ!!」

「……家族」

「前に、前にミール様が私に話してくれました! お二人に抱いてる大切な想いをっ!」


 クレスの呟きに重ねるようにしてヤミはミールと交わした過去の会話。中庭で紅茶を啜るミールと交わした会話をぽつぽつと語り出した。


『……ヤミちゃん』

『は、はい、何でしょうかミール様?』

『ヤミちゃんは、兄様や姉様のことをどう思う?』

『ス、スノウ様とクレス様についてですか? そ、それは、その、偉大なご姉妹様だと思っています……』


 謙遜しながらもそう答えるヤミ。しかし嘘を付いていることに気付いていたミールは紅茶を置くと、

 

『ありがとうヤミちゃん。……でも今は正直に答えて』

『しょ、正直にですか?』

『ヤミちゃん、私の前だから遠慮してるでしょ? 私は正直な気持ちを聞きたいの』


 ヤミに対して本心で答えるよう促した。ヤミは両手の人差し指を合わせながら慎重にこう述べる。


『……ス、スノウ様とクレス様は、み、身勝手だと思います』

『……』

『だ、だって、そもそも雪月花の瓦解はあのお二人が原因だったじゃないですか。意見が合わないってだけで雪月花を分裂させたのに……私たちも誰についていくのか決めないといけないって、あまりにもひどいですよ……』

 

 僅かに怒りを込めながら本心を伝えるヤミ。ミールは口を閉ざしたまま話に耳を傾けた後、傍に控えたヤミの顔を見上げた。


『ヤミちゃんは、雪月花が嫌い?』

『せ、雪月花は分かりません……。でもミール様は、好きです』

『ありがとうヤミちゃん。私もヤミちゃんのことが大好き』


 面と向かって言われたヤミは気恥ずかしそうに視線を逸らす。しかしミールは真っ直ぐな瞳でヤミの顔を見上げると、


『けど私はヤミちゃんと同じぐらい雪月花も大好きなの。皆の為に厳しくしちゃう素敵な姉様に、皆の為に考え過ぎちゃう素敵な兄様。私の大好きな、素敵な家族です』

『家族……』

『きっと二人は、お互いの為を想って喧嘩してるのよ。ほんとは雪月花が大好きだけど、退けない状態になっちゃってるだけ』

『ミ、ミール様……』 

『だから見ててねヤミちゃん。私は兄様と姉様を和解させて、必ず雪月花を一つにして……。素敵な雪月花を──もう一度この地に咲かせてみせるから』


 逆境に立ち向かおうとする一輪の花のような、そんな笑顔を浮かべてみせたと。ヤミからミールの話を聞いたスノウたちは表情を思わず曇らせる。


「な、なんで、顔を合わせるたびに、兵力があるとかないとか、国の在り方だとか話してっ!! そんなこと、どうでもいいじゃないですかぁっ!?」

「不敬ですね。どうでもいいとは──」

「じゃあ教えてくださいよぉ……っ!! どうして私たちが、平民の私たちが、お二人のいがみ合いでバラバラにならないといけないんですかっ!? どうして、一人を選ばないといけないんですかっ!?」 


 ヤミは狼狽えることもなくスノウに対して必死の形相で想いの内を吐き出す。ルミとラミは三女が感情的になる姿を神妙な面持ちで見つめていた。


「故郷を奪い返すとか、救われた命を無駄にしないとか……っ。そんなこと考える前に、妹のミール様をまず見てあげてくださいっ!! 私たち平民のことを考えてくださいっ!! 三人・・を選べる一つ・・の雪月花に、早く戻ってくださいよぉっ!!」

「ヤミ、お前は使用人だろ。何故そこまで必死に……」

「私は使用人じゃありませんッ! 私は、私はッ……ミール様の友達・・ですッ!! 友達だから、ミール様の悲しむ姿を、もう見たくないんですよぉッ!!」


 クレスの問いかけにすべてを吐き出したヤミは「ぜぇぜぇ」と酷く呼吸を荒げる。私は表情一つ変えなかったが、ロックは「やるじゃん」と称えながら空気の読めない拍手を送った。


「こんな簡単な話なのに……。言い争って、けなし合って、批判し合って、それでも答えが出なくて、ミール様の想いにも気が付けなくて……。ここにいるお二人は──ただのバカ・・じゃないですか」


 訴えかけられたスノウとクレスは険しい表情を浮かべて口を閉ざす。しかし使用人のルミとラミは主人に対する「バカ」という罵倒に機嫌を損ね、ヤミの方へと詰め寄っていく。


「ヤミ、スノウ様への無礼な言動は許せません」  

「そうね。大バカ皇子を貶していいのはラミだけ──」

「んだよ。使用人もバカじゃん」


 が、私とロックが二人の前に立ちふさがり、ヤミへ近づけないよう壁を作った。私を知る者たちが僅かに顔へ反応を示す。


「新米ワンコと、あなたは誰……?」

「んぁ? 俺はあれじゃね? なんちゃら騎士団のロック」 

「あなた方は、邪魔をするのですか?」

「……茶会に邪魔なのは下らん喧騒だろう」


 ルミとラミはその場で足を止めこちらを睨みつけてきたが、私たちは平然とした顔で二人と視線を交わした。

 

「お姉ちゃんたちも、そこのお二人と同じですよ……」

「「……」」

「勝手にいがみ合って、勝手に疎遠になって、自分が正しいと主張するのに必死で……。妹の私のことなんて、知らんふりで……。自分のことばかり、考えてるじゃないですか」

「……! それは違いま──」

「ルミ、茶会はお開きです。速やかに帰国しましょう」


 震えた声でぼそぼそと呟くヤミの言葉を否定しようとしたルミ。しかしスノウが言葉を遮って帰国を促したため、口から出そうとした言葉を呑み込むと、「承知しました」と返事をする。


「ラミ、俺たちももう帰るぞ」

「……分かったわ、大バカ皇子」


 続けてクレスも同調するようにラミへ帰国指示を出す。スノウとクレスは互いに一度も視線を交わすことなく、そのまま入ってきた東側と西側の入り口まで歩を進めた。


「なぁ相棒」

「何だ?」

「大失敗じゃね、この茶会」

「……そうかもしれんな」


 茶会の席に雪月花本人の姿はもうない。

 残されたのは机上に置かれたミールのティーカップと、芝生の上で割れたスノウとクレスのティーカップの破片だけだった。

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