SideStory : Sheila Blaze ─シーラ・ブレイズ─



『○月○日 天気:晴れ』

 今日は人生で最も幸せな日だわ。私のお腹から、可愛い赤ん坊が二人生まれたの。あの人も子供たちが無事に産まれたことを、泣きながら喜んでくれた。ずっとずっと、子供が欲しいって二人で話をしていたから。

 私は疲れていたのに、あの人が喜んでいる姿を見て、疲れが吹っ飛んじゃった。今日から子供たちやあの人との幸せな日々を、少しずつこの日記に書き残そうと思うわ。

 


『○月○日 天気:晴れ』

 今日は子供たちが初めて私のことを「ママ」って呼んでくれた。突然のことで驚いたけど、思わず笑っちゃったわ。この話をあの人にしたら、とても悔しがって、ずっと子供たちの前にいたの。眠ったら喋らないのに、あの人はずーっと子供たちの寝顔を見てて……。

 ちょっと目を離したら、あの人も子供たちと幸せそうに眠っていたわ。あの人も毎日毎日、吸血鬼や食屍鬼と戦っているから。子供たちが唯一の癒しなのよ、きっと。

 


『○月○日 天気:晴れ』

 今日は子供たちが初めて二本の足で立って、ちょこちょこと歩いたわ。私とあの人はその姿を目の当たりにして、大喜びしちゃった。二人で抱き合って「頑張れ頑張れ!」って子供たちを応援したの。これから子供たちがどんな風に成長していくのかしら。それを考えるだけでも幸せな気分になるわ。



―――――――――――――



『○月○日 天気:曇り』

 今日で子供たちは"十歳"を迎えた。ケーキやご馳走を用意してたけど、あの人は仕事が忙しくて帰って来れなかった。最近、吸血鬼や食屍鬼の行動が活発になっているらしい。あの人が忙しいことを子供たちも分かってくれていたから、我慢をして私の前では笑顔でいてくれたわ。

 私の子供たちは、あの人に似て、とても優しい。


『○月○日 天気:晴れ』 

 今日は子供たちが友達を紹介してくれた。名前は"フローラ"ちゃんと"エリザ"ちゃん。仲睦まじい姿を眺めながら、私は少しだけ安心した。子供たちが私の知らないところで友達を作っていたことに。

 フローラちゃんの性格は控えめだけど、どこか想いやりに溢れていて……。エリザちゃんは自信に満ちた振る舞いをしていた。二人ともいい子で良かったわ。

 

『○月○日 天気:雨』

 あの人が久しぶりに家へ帰ってきた。子供たちはとても喜んでたけど、あの人はどこか寂しそうな表情をしていたわ。あの子たちが寝静まった後、その理由を聞いてみたら、"遠征メンバー"に抜粋されたと教えてくれた。

 遠征の目的地はグローリアからイーストテーゼを越えて、ずっと東に進んだところにある"寂れた村"。先に派遣した人たちの連絡が途絶えたから、今度はあの人が送られるらしい。一ヶ月は帰って来れないとも教えてくれたわ。


 絶対に帰ってきてくれる。私はあの人に家族の写真を手渡して、無事に帰還してくれることを祈る。神様、どうかあの人に御加護を。

 


『○月○日 天気:曇り』

 あの人が遠征をしてから一ヶ月が経過した。子供たちには仕事でしばらく帰って来れないと伝えているけど、そろそろ不安げな表情を浮かべ始めている。心なしか、私自身の笑顔も減ってしまった気がしてしまう。

 私が笑顔で過ごさなかったら、子供たちが更に不安がるじゃない。しっかりしなさいシーラ・ブレイズ。あの人の、ブレイズ家の名を継いでいるのよ。



『○月○日 天気:雨』

 あの人は、帰ってこなかった。届いた手紙には、死んだのか生きているのかも書かれていない。ただ"行方不明"と記されているだけで、あの人の話はそこで終わっていた。捜索部隊を派遣したけど、あの人の死体すら見つからなかったみたい。

 子供たちになんて説明すればいいの。生死すら分からないのに、私はどんな顔をすればいいの? 私に、変に希望を持たせないで。 



『○月○日 天気:曇り』

 子供たちの優しさに泣いてしまった。私に「お父さんは生きている」とハッキリ言ってくれたの。諦めかけていた私自身が情けない。そうよね、今はあの人を信じてあげなくちゃ。涙一つ流さない子供たちを抱き寄せ、私はあの人や子供たちの言葉を信じることにした。



『○月○日 天気:晴れ』

 エリザちゃんとフローラちゃんが、あの子たちに会うために家へ遊びに来た。二人の話によれば、子供たちは二人に剣術を教えてもらっているらしい。そういえば最近、衣服がよく汚れていると思ったわ。今度、その話について聞いてみようかしら。 



『○月○日 天気:曇り』

 子供たちは私に教えてくれた。剣術を習っている理由はアカデミーの試験を受けるためだと。あの人のように"リンカーネーション"になりたいみたい。エリザちゃんやフローラちゃんと一緒に受けるって張り切っていたわ。

 勿論、私にあの子たちを止める理由なんてない。子供たちがしたいことを、なりたいものを、ただ信じてあげるだけだから。



『○月○日 天気:晴れ』

 子供たちが仮試験に合格した。次に控えた本試験の為に、私は二人の書類にサインをしてあげたわ。本試験は少しだけ危険らしい。でも、あの子たちなら大丈夫よ。だってあの人の、ブレイズ家の、私の子供たちだもの。



『○月○日 天気:晴れ』

 今日は本試験当日。あの子たちは日記を書いている今も、きっと本試験を受けている最中ね。正直、不安だけど……。あの子たちは「絶対に帰ってくる」と言ってくれた。私はその言葉を信じているわ。私が信じてあげなきゃ、誰が信じてあげるのよ。

 また私に元気な顔を見せてくれる。その時は……沢山のご馳走を振る舞ってあげなきゃ。



『○月○日 天気:晴れ』

 本試験の日から三日が経ったのに、子供たちが帰ってこない。街中で一緒に本試験を受けたエリザちゃんやフローラちゃんを見かけた。本試験は終わっているはずよ。どうして、あの子たちは帰ってこないの? どうして、どうして……?

 死んだなんて嘘よ。必ず帰ってくる。これは夢なの。現実なんかじゃない。現実だなんて、私は信じない。信じない。信じたくない。どうして……あの子たちが……。 



『————』

 私が、あの子たちを信じたせいだわ。信じなければ、あの子たちを引き止めて、今もここにいてくれた。私が母親として、甘すぎたのよ。甘すぎたせいで、信じたせいで、子供たちは帰ってこなかった。

 私なんて――母親失格よ。




―――――――――――




『○月○日 天気:曇り』

 久しぶりに、この日記を書くことにした。もう一度だけ書こうとしたのは、里親として一人の"女の子"を引き取ったから。名前は"アレクシア・バートリ"ちゃん。喋り方は大人びているし、物事の考え方も大人びているし……。

 とても変わった子だけど、私のことを母親だと思ってくれるように頑張らなきゃ。これからこの子の母親として、間違った道に進ませないように――今度こそ役目を果たすのよ。



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